読書ノート『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるか』遠藤誉

 遠藤氏は、若い頃中国で苦難の生活を経験し、日本では筑波大学教授を勤めるとともに、中国政治の専門家でもある。そして、ウクライナ侵攻について、一気呵成に書かれたのが本書で、出版は今年の4月である。ウクライナ戦争について、漠然と感じていたいくつかのことが、ここでは、具体的な事実や資料を通して、説得力をもって書かれており、漠然とした意識が、かなり明確になった点がいくもある。
 中国がロシアを軍事的に支援しないのは、いつくも理由があるだろうが、そのひとつとして著書は、中国とウクライナの密接な関係をあげている。中国の軍事技術の多くはウクライナからえているというわけだ。ウクライナはソ連時代には、むしろ軍需産業の中心だったのであり、それは、現在でも小さくなったとはいえ、継続しているウクライナ産業の中核のひとつである。原発もウクライナには多数あり、現時点で、ヨーロッパに電力を輸出可能だとしているほどだ。一帯一路政策を習近平が諦めない限り、ウクライナを敗北させるべく、ロシアに軍事的肩入れをすることはできないわけだ。

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4回目のコロナワクチンをうってきた

 最近は、コロナのニュースがすっかり下火になっている。しかし、ここ数日、またまた感染数が飛躍的に増大している。昨日の東京は、先週の2倍を超えた。この調子で増えていけば、第7波ということになる。しかし、もはや緊急事態宣言などは出さないに違いない。ただし、高齢者と基礎疾患がある人は、4度目のワクチン接種が奨励されている。私自身は、普段ワクチンなどうたないし、インフルエンザでもパスしてきたのだが、コロナについては、4度目を早々とうってきた。比較的空いている医院で、予約も簡単なのと、なんといっても無料であることが、うつ気になった大きな要因だ。そもそも、ステイホームがすっかり習慣化してしまったから、ここ2年ほど風邪すらひかない。いくらコロナの感染力が強いといっても、家からあまり出ないのだから、感染リスクはほとんどないわけだ。
 慣れてしまった感覚の人が多くなっているせいか、4度目はうたないという人も、まわりにけっこういる。

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指揮者の晩年6 ブルーノ・ワルター

 ブルーノ・ワルターは、私が最も好きな指揮者である。私が子どものころは、戦前のSPレコードを聴いていた。もちろん、既にLPは出ていたと思うが、父の病気もあって貧しかったせいか、新しいものは買うことができなかった。小学校も後半になって、はじめてLP用の再生装置を購入して、それから、いろいろとレコードを揃えていったが、それまでは、SPだったので、いまでも古いレコードの音質は気にならない。
 そうしたSPのなかでも、ワルターのものが多かった。モーツァルトのジュピター、アイネクライネ、ベートーヴェンの田園、シューベルトの未完成など。トスカニーニやフルトヴェングラーのものもあったが、やはり、ワルターに惹かれた。
 SPのなかで、いまでもよく覚えているのは、メンゲルベルクのチャイコフスキー「悲愴」の極めて強烈な個性的演奏だ。もちろん、初めて聴いて、聴き込んだものだから、それが「普通」だと思っていたのだが、その後LPで普通の演奏を聴くようになって、その異様さに改めて気付いたものだ。

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軍事費増強と9条を考える

 ウクライナ情勢と参議院選挙が重なって、防衛・軍事費問題、そして憲法改正が、これまで以上に議論が盛んになっている。あくまで一国民として、この点について考えてみたい。
 
 まず憲法改正問題であるが、私は、9条は維持すべきであるという考えを、前に書いたし、いまでも変わらない。憲法とは、国家機関に対する権限や制約を規定している基本法であり、9条もその線で考える必要がある。明治以来、日本はずっと海外に出て、戦争をしかけてきた。第二次大戦ではその結果として、日本に攻め込まれて大きな被害を被ったが、あくまでも日本がしかけた戦争に敗れたことがそうさせたのである。当初から、外国に攻め込まれたわけではない。そして、それを踏まえて、日本国憲法が制定された。国際紛争を戦争で解決しないというのは、日本が戦争という手段に訴えて、国際紛争を解決しない、そして、当然のことながら、侵略戦争などはしないという、制約を国家に課したことなのである。そして、そのために、日本は、何度かあった海外での戦争加担への要請を断ることができた。ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガン戦争、そして、イラク戦争などがあった。もし、9条がなかったら、これらの戦争に日本は加担させられ、多くの戦死者をだしたかも知れない。ベトナム戦争に参加した韓国は、無視しているが、今でも多くの負の遺産を背負っている。

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倍速視聴を批判する記事が増えているが

 私はyoutubeや録画したビデオを見るときには、たいてい早見機能を使う。だいたい1.5倍の速度だ。DVD-RやBD-Rに録画したのを早見機能で見たいと思っていて、それが可能なプレーヤーを探しているのだが、なかなか見つからない。私がもっているソニーのブルーレイ・レコーダーは、ひとつだけが早見機能をもっているが、それはハードディスクに録画したファイルのみ適用可能で、一端ディスクに移してしまうと、使えなくなる。
 こうした倍速視聴、早見は、私にとっては当たり前の機能だし、活用だが、そういうことに異議を唱える書き込みを、最近いくつか見た。
 本日(7月3日)の毎日新聞もに掲載されている。「映画観賞、早送りで? 若者に多く 背景に『余裕のなさ』」という山下智恵執筆で、稲田豊史氏のインタビューを基にした記事である。稲田氏は、『映画を早送りで観るひとたち ファスト映画・ネタバレ--コンテンツ消費の現在形』という著書で話題になっている人なのだそうだ。

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男の日傘

 突然やってきた割には、毎日続く危険な猛暑、そこでテレビでもさかんに猛暑が話題になっている。例によって羽鳥モーニングショーでも、どのように酷暑を防ぐかがテーマになっていたが、そのなかで、男性が日傘を、ということが言われ、健康オタクの玉川氏が、自分は日傘をさしているといっていた。
 実は、私は2005年に、「男性も日傘を」という文章をブログに書いていた。短いので、全文引用しておきたい。
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 また暑い夏がやってきます。毎年、というより、中高年の域に達してからはということですが、「男も日傘をさせないのか」と思うのです。私は健康のためもあり、家から駅まで出勤のときには歩くことにしています。片道30分かかります。途中の道はだんだん開発されつつあるのですが、まだまだ緑が多くとても気持ちがいいので、歩くのは苦になりません。でも、やはり、その間日光を強く浴びるので、汗ぐっしょりになってしまいますし、最近は紫外線の影響なども言われているので、日傘をさしたいと思うのです。しかし、男で日傘をさしている人はまずいないし、また、男用の日傘もありません。
 日傘をさすのどうだろうか、と周りの人に聞くと、決まって馬鹿にされます。たまに「いいんじゃない」という人もいますが、まあ、男なのに日傘かなんて、という反応ですね。

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医療的ケア児(補)

 医療的ケア児の問題を先日書いたが、多少異なるが、同じ背景の問題をもったイギリスの訴訟の記事があったので、多少違う側面から、再度考えてみたい。
 記事は’Parents win appeal for extra hearing over son’s life support’と題する The Guardian 16月30日の記事である。 
 ある少年が医師の診断によれば、脳幹の脳死状態になったために、延命治療を打ち切ろうとしたが、両親は、診断のやり直しを求めて提訴、控訴審で両親の要求を認めて再診断を命じる判決がでたというものだ。そして、一審では、医師の診断に間違いはないという判断だったのだが、その判事の判断は不十分だったと判断した。
 もちろん、診断ややり直しをしたからといって、脳幹の脳死という判断は変わらないかも知れない。医療的ケア児の事例ではないが、背景にある医療技術の進歩によって起きる難しい事態という点で共通性がある。

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映画東京オリンピックsideB Aより大分落ちる

 河瀨直美監督の東京オリンピックsideBを見た。Aは比較的よかったと思い、ブログにも書いたが、Bは完全に失望という感じだった。事前に、映画コムでのレビューを見ていたから、期待はしていなかったが、ほとんどすべてが否定的だったレビュー通りだったといえる。
 上映期間も1週間だから、もともと客がはいることは期待していなかったのかも知れない。レビューには、オリンピック自体が無観客だったのだから、映画も無観客なのだろうという文もあったくらい、かなしいほどの客の入りだ。Aは5名で、今回は同じ映画館だったが12名だった。Aはけっこう評価が高かったので、Bも見てみようという人がいたのかも知れない。
 Aは、 それでも「発見」があった。そして、勝利者の激闘ではなく、出場そのものに困難があったアスリートたちの物語という「筋」があり、そういうひとたちはメダルをとっていないので、話題になっていない人がほとんどだから初めて知ったし、また、こういう努力もあるのかという驚きもあった。出産後間もないのに出場して、レース途中に棄権せざるをえなかった女性マラソンランナーなど、メディアは取り上げていたのだろうか。

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停電は回避したいものだ

 最近のニュースでは、電力需要が多くなって、許容量ぎりぎりになっていて、これ以上暑くなると、計画停電をせざるをえないということがしきりに、メディアで言われている。
 突然酷暑がやってきた感じで、身体がついていかないために、エアコンを急に使うようになり、一挙に電力使用量が上がっているのだろう。
 電力不足への対応策は、3通りしかない。
1 電力が不足している地域へ、足りている地域から融通して送電する。
2 発電量を増やす。
3 節電する。
 可能な限り、これらをすべて実行することが必要である。
 
1 東日本大震災後は、かなり計画停電があったが、当時は、電力会社間での電力の融通システムがなく、他の管内で余剰があっても、管内で不足すると停電せざるをえなかった。その後相互に融通するシステムができて、震災後よりは、供給が安定するようになったという。しかし、今日のテレビでは(羽鳥モーニングショー)、解説者が、そういうシステムが導入されるようになったが、まだまだ部分的であると言っていた。日本は、危機を脱すると、これでいいではないか、というように対策が緩んでしまう傾向があるが、電力会社としては、そういう雰囲気に妥協することは、怠慢と言わざるをえない。

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インターネットの匿名性は必要である

 ウォール・ストリート・ジャーナルに、「インターネット上の匿名性を擁護する」という記事が掲載された。筆者はマイケル・ルカである。
 アメリカでも、匿名性の是非についての議論がさかんなようで、ほぼ日本と同じような論調だろう。私は、1990年代のパソコン通信時代に、匿名性についての議論をかなりたくさんやった。そして、結論として、匿名性は大切であり、短所より長所のほうが大きいということだった。ただし、一定の条件が必要である。当時はパソコン通信で、完全に開放的なシステムではなかったが、インターネットになっても、基本は同じだと考えている。
 匿名性否定派の意見は、名誉毀損・誹謗中傷、詐欺等の犯罪的な発言や情報伝達が可能になる、匿名を禁止すれば、そうしたネガティブな書き込みができなくなる、というものだ。こうしたことが、多く見られることは事実であり、たとえ匿名肯定派であっても、こうした犯罪的書き込みに対する有効な対策をとる必要があると考えている。
 私は、匿名性肯定派なので、その立場からの見解として書く。
 検討すべきことは、ふたつある。
 第一に、実名制にすれば、名誉毀損・誹謗中傷や詐欺がなくなるかということ。
 第二に、匿名にしても、こうしたことを防ぐ有効な手段があるかということ。

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