福井大学での論文査読の不正

 
 学術雑誌の査読不正は、しばしば起きるが、福井大学の教授が、査読担当者であった千葉大学教授にコメントを求めたという不正が明らかになった。
 大学では、教員の業績を審査する上で、査読付き論文の数を、最も重視する。そして、その雑誌の権威が高いほど、業績が高く評価される。理系の研究者であれば、Natureなどに論文が掲載されると、就職に極めて有利になる。学術論文といっても、まったく査読がない、フリーパスの雑誌もある。ほとんどの大学の紀要はそうだ。しかし、紀要の論文だから、水準が低いとは限らない。私自身就職が決まってからは、研究論文は原則学部紀要に書いた。他に応募する必要もないし、特に、私自身が委員長になったとき、紀要の規定を変更して枚数制限をなくしたこと、マルチメディア機能を付加したことで、他の学術雑誌に執筆する意思はまったくなくなった。それから、日本だけでも、膨大な学会があり、それだけの学会誌があるから、査読といっても、厳密でない場合も少なくない。査読論文だから質が高いとは、必ずしもいえないのだ。
 
 査読不正だが、注意しなければならないことは、問題になるケースが多いのは、査読を受ける側の不正だが、査読をする側の不正も少なくないとされる。多くは闇のなかだから、表面化することは少ないと考えられるのだが。

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ウクライナ雑感 ウクライナ兵士の士気低下とヨーロッパの支援疲れ?

 昨日あたりから、youtubeやニュースで、ウクライナ軍兵士の士気低下が生じていると指摘されるようになっているが、欧米では、既にずいぶん前から指摘されている。私が読んだのは、Independent 誌だった。セベロドネツクの戦闘で、火力がロシア軍は10倍あり、ウクライナ兵はとうてい勝ち目がないと感じて、士気低下が著しいという指摘だった。そうしたことを日本のメディアは、ごく最近まで隠していたわけだ。
 これはゼレンスキーのミスのひとつだと思う。指摘はたくさんあったが、セベロドネツクは、一端戦略的に放棄して撤退し、欧米からの武器の到着をまって、反転攻勢にでるというのが、適切な判断だったと思う。そうしない理由として、セベロドネツクには1000名ほどの市民が残されているから、置き去りにするわけにはいかないというのが理由だった。しかし、その理由は、本当のものではないと思っている。いくらロシア兵であっても、市民を大虐殺することは、それほどないと考えてよい。キーウ撤退後の虐殺は、例外的な状況で起きたし、そのことが国際的な大批判に晒されたことで、ロシア側も修正するはずである。むしろ、兵力に圧倒的な差があるにもかかわらず、市街戦が行われていることこそ、市民にとっては危険な状況であろう。

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給食を喉に詰まらせて死亡した特別支援学校での事故と裁判

 大分県の特別支援学校で、2016年、高等部3年の女子生徒が、給食を喉に詰まらせて死亡する事故があった。
 重度重複障害の生徒のクラスで、4名の生徒に4名の教師がついていた。この生徒は、食べ物を噛まずに飲み込んでしまう傾向があるので、食事中はずっと見まもっている必要があったという。ところが、当日は、一人は出張で、担任が別の生徒を教室につれていくために離れ、その間にこの生徒が喉に詰まらせて死亡したことになる。新聞記事では、正確なところが、わからない。例えば、4人体制で、出張が一人なら、担任がその場を離れても、もう二人担当者がその場にいたはずであるが、もう二人の担当者のことは、いろいろな記事をあたったが、書かれていない。場所は、クラスの教室ではなく、ランチルームだった。そこには、2名の養護教員がいたが、担任が声をかけていかなかったので、その養護教員は、異変に気付かなかったという。(養護教員が4人のメンバーであるとすると、この生徒の噛まずに飲んでしまう傾向を理解していなかったはずはない。 https://news.yahoo.co.jp/articles/c94459c1c842b345215acaab153680a90393ec1a
 第三者委員会の報告によると、異変に気付いたあと、AEDを使うなどの措置をしなかった。そして、この学校には、食べ物が詰まったときのための吸引装置などもなく、また、そのための訓練もされていなかったという。https://mainichi.jp/articles/20190716/k00/00m/040/221000c

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政治家の名誉毀損訴訟は敗訴させよう(細田・立花氏の提訴)

 立て続けに、政治家による名誉毀損訴訟が、二件起こされている。ひとつは、細田衆院議長からであり、もうひとつは、NHK党の立花党首からである。
 
 立花孝志「NHK党」党首は、テレビ朝日「報道ステーション」の6月16日放映に出席したが、予め、「テーマを逸脱する発言があった場合はしかるべく対応を取る場合もある」という手紙を受け取っていたが、ウクライナ戦争をテーマとする討論で、「テレビは核兵器に勝る武器です。テレビは国民を洗脳する装置です」という持論を展開したために、大越キャスターが、その発言はテーマにそっていない、と注意した。しかし、立花氏がそのまま発言を続けたために、大越キャスターが、発言を止め、立花氏が画面から消えたという。そして、別室からの参加だった立花氏は、その場を立ち去り、帰宅したが、そのまま帰宅途上の車のなかから、youtubeでライブで持論を述べたという。「テレビ朝日からの圧力」という題の配信だったという。

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「地球を救え スタートアップが描く未来」 目標・自由・規制2 教育の場合

 規制をどうするか。
 私の専門の教育で考えてみる。教育の世界にも、規制はたくさんある。まず、私立学校を設立するためには、知事(高校まで)や文部科学大臣(大学)の認可を受けなければならない。高校までの一条校の教育には、学習指導要領という「規制」が存在する。
 しかし、国の認可がなくても、学校を設立することができる国もある。アメリカが典型である。
 学校設立に規準や認可が必要であることと、必要ないことと、どちらが教育的に望ましいのだろうか。単純化していえば、多様な教育を認め、信念に基づいて教育活動が行える、つまり規制がないほうが、全体としては、活発な教育活動が行われ、子どもたちは、自分の気にいった教育を受けることができるから、十分な発達を促すことにつながりやすいといえる。しかし、教育の実態は入ってみなければ、十分にはわからないものだから、いざ入学してみたら、酷い教育条件だったということがありうる。規制の緩い専門学校で、留学生への教育をきちんと行わないために、留学生たちがどんどん行方不明になってしまった事例があった。当然その専門学校に対しては、厳しい監督と規制が行われたことだろう。

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破綻している最高裁原発事故判決 もしかしたら、原発稼働停止命令なのか

 まだ詳しくはわからないが、テレビで、最高裁が原発事故に対する国の責任を認めなかったという判決が出たことを速報していた。ミヤネやだが、要するに、地震が来ることを予想できたとしたも、対応することは不可能であったという理由だったという。一応その線で理解しておく。
 論点は、
・大きな地震が来ることを予知できたか
・予知できたとして、有効な対策をとることができたか
ということだったそうだ。
 いじめ自殺事件でも、よく論点となるところだ。このいじめで、被害者が自殺することが予見できたか、予見できたとして、自殺意志をもった当人の自殺を思い止まらせることはできたか、というような論点だ。

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先進国最低のジェンダー平等、まず何を変えるか

 先進国における女性の活躍、男女の平等において、日本が最低であることは、長く問題とされてきた。政府も、取り組むという表向きの姿勢をみせているが、実はこのランクは低下傾向にある。いろいろな議論がなされているが、私なりに考えてみたい。
 まず、高齢者となってしまったが、団塊の世代としての、ひとつの実感を確認しておきたい。私が学生の頃は、まだ大学進学率は男女差がけっこうあって、四大にいく女性はまだ少なかった。かつ、私は男子校であり、大学も男子校的なところ(女子学生は1割未満だった)だったためもあってか、リーダーとしての資質や知的能力において、この人はすごいと実感した女性には、あまり遭遇したことがない。そもそも、社会のなかでリーダーとして遇されていない時代だから、当然のことかも知れない。

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ドキュメント 「地球を救え スタートアップが描く未来」 目標・自由・規制

 日本経済が不調になって久しい。どうしてそうなったのかは、専門家ではないので、私に明確な回答があるわけではないが、誰でも思うのは、世界を牽引する新しい技術を生み、それを製品化できていないことがひとつ、そして、日本の人材活用が様々な点で有効でないことだ。後者の結果が前者なのかも知れない。
 ソニーは、世界の電気製品のいくつかの新しい技術を生み、世界的なリーダー企業のひとつだった。しかし、アップルを創業して発展させたジョブズのドキュメントをみて、驚いたことがある。iphoneの前の段階のipodは、あの技術を開発した企業から、技術を買い取り、アップルが製品化したものだが、その技術を開発した企業は、製品化してくれる企業を探していた時、まずはソニーに声をかけたのだそうだ。当然だろう。ウォークマンを開発して、音楽視聴のスタイルに革命的な変化をもたらしたソニーであるし、その技術は、明確にウォークマンのデジタルバージョンということもできた。しかも、ソニーは膨大な音楽や映画ソフトを所有している。しかし、ソニーはそれを断ったのだそうだ。そして、結局アップルが採用して、ipodとして結実し、単なる機械の革新ではなく、ソフトウェアの形態も変えてしまったのである。ウォークマンもテープをいれて聴くものだったが、ipodは、ネットを通して音楽や映像を入手するという、新しい鑑賞形態を生み出しただけではなく、ウォークマンは90分程度の音楽テープを持ち歩くだけだったが、ipodは数百時間分の音楽をなかにいれることができた。その後、こうした視聴形態が主流になっていく。そして、ipodの発展形がiphoneなのだから、ソニーとしては、逃がした魚は本当に大きかったといえる。 

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ドキュメント「権力と闘うあるロシアTV局の軌跡」ロシアの報道の自由の悲惨さ

 日本は、G7では報道の自由ランクで最下位であり、かなり問題であるし、近年更に低下傾向にある。2022年では71位である。韓国嫌いの日本人が多くなっているが、韓国は、43位で日本よりもずっと報道の自由がある。日本人としては、本当に真剣に考えねばならない。そして、ウクライナに侵略戦争をしかけているロシアは、2022年155位となっている。昨年より低下している。
 そして、このドキュメントは、ウクライナ侵攻の6日後に、ロシア政府によって廃止に追い込まれた独立系テレビ局「ドシチ」の誕生から消滅までの記録である。ロシアにもこんなテレビ局があったのかというほど、徹底した「事実報道」によって際立っており、そして、プーチンに直接にらまれたのも、必然だったともいえる。しかし、逆に、こうした報道を求めているロシア人がいたことも、また否定できないのである。
 
 5月中旬にNHKBSで放映されたイギリス制作のドキュメント番組で、「メディアを支配するものが思考を支配する」という言葉から始まる。

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『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』

 全盲の白鳥さんと美術館を訪れて鑑賞するという話である。
 作者を始め、何人かが、一緒に、あるいは交代で、白鳥さんに付き添い(アテンドという表現が用いられている)美術品について、白鳥さんに説明し、白鳥さんが質問して、更に答えるというやり取りが書かれている。読み始めると、すぐに、実際に理解が深まっていくのは、説明を受ける白鳥さんというよりは、説明しているほうだということが分かってくる。そして、普段何気なくみている、あるいは見落としていることに気づき、更に違う見方も出てきて、理解が深くなることを実感する、そういう話である。もちろん、白鳥さんは、もちろん受けた解説とやり取りで、自分なりのイメージを形成しているのだろうが、その厳密な姿は、解説者たちにもわからないし、読者にもわからない。そして、近くの美術館だけではなく、遠くまで出かけて、寺の仏像なども同じように鑑賞していく。具体的には、いろいろな作品のやり取りが書かれているので、興味のある人はぜひ実際に読んでほしいが、晴眼者の認識が、全盲の白鳥さんとのやり取りで、深化したり、訂正されるのは、やはり、なるほどと思わせる。

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