ショパン・コンクールの感想

 ショパン・コンクールが終わった。まだ、少数のyoutube演奏しか聞いていないが、結果について、いろいろな異論がでているようだ。ポーランド人の審査員が、一位の選出に異論を表明していた。また、日本人として牛田氏がファイナルに進めなかったことについて、疑問というよりは残念論が多かったようだ。牛田氏については、おそらくタイムオーバーだったようで、それがどのように響いたのかはわからないが、コンクールという性格上、時間制限を破れば、それは致命的だと考えられる。100メートル競走でのフライングのようなものだからだ。10分間の制限内での演奏で、プログラムは自分で構成するのだから、当然余裕のあるように、つまり、だいたい真ん中あたりですむようにプログラミングすると思うのだが、牛田氏のyoutubeは1時間を超えていたから、やはり、タイムオーバーだったのだろう。しかし、演奏家としては、それはまったく欠陥とはいえないことも確実だ。リサイタルの際、予定時間をオーバーしたところで、問題にはならないだろう。会館の利用時間をオーバーすれば、割増金をとられるかも知れないが、演奏家としての評価にはまったく関係ない。
 コンチェルトなどで、練習のとき違うテンポで弾いたとしても、それはオーケストラがあわせてくれるだろうし、かえって緊張感のある演奏になる場合もある。もちろん、オーケストラからは批判もされる危険はあるのだが。彼はすでにりっぱなプロ演奏家なのだから、たくさん演奏して、できるだけ優れた指揮者と共演する機会をふやしていくのがよいし、それは保証されているようなものだろう。
 私が、演奏のyoutubeをみて、感心したのは、16歳の中国人の女性リュ・ティモヤオだ。先のポーランド人審査員も高く評価していた。とにかく、解釈のセンスがとてもよいと感じた。そして、テクニックもすごく高いものがあるので、自分が感じた音楽表現を、ごく自然にピアノに移せるという印象だった。最初に聴いたのが、アンダンテスピオナートと大ポロネーズだったが、ポロネーズに移ったあとの、はずむようなリズムが素敵だった。もっとも、ポロネーズをこのように軽やかに演奏していいのか、という疑問も生じたが、それを打ち消すような魅力があった。ファイナルのコンチェルトでもオーケストラに支えられているのか、あるいはオーケストラをリードしているのか、オーケストラとの協調が非常にうまくいっていたと思うのだが、16歳で実際にオーケストラとの共演はどのくらい経験しているのかわからないが、堂々としていた。解釈の自由さと高度なテクニックという点で、同じ中国人のユジャ・ワンのようなピアニストになっていくのだろうか。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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