ウクライナにトマホークは必要か

 あいかわらず、ウクライナ和平をめぐって、実現しそうもない案、しかし多くのひとの支持を集めている案が話題となっている。トランプが強力に主張している案だ。つまり、現状の戦線での停戦である。ウクライナ、ゼレンスキー大統領も、EU首脳も支持している。しかし、実現するとは思っていないだろう。何故なら、プーチンが承知するはずがないからだ。プーチンが望んでいるのは、領土ではないという意見が、専門家では多い。だとすれば、プーチンが現状をまず固定するという案を飲むはずがない。ただし、一応表向きプーチンが主張しているのは、一部占領している4つの州、それはロシアが勝手に独立宣言した州だが、それをロシア領土として承認することを要求している。しかし、あくまで一部を占領しているだけの州を割譲することなど、ウクライナが受け入れるわけがない。
 もちろん、この4州併合にしても、表向きの要求だから、ほんとうは、ウクライナ全体の支配が目的だろう。したがって、プーチンとしては、現状固定の和平案など飲めないわけだ。しかも、現在のロシアの状況だと、和平状態を継続することは難しいと思われている。エネルギー施設をかなり破壊されているから、石油による外貨収入も激減しているし、経済そのものがいびつになっているから、たちまち問題が噴出してくるはずである。したがって、現在占領している地域の維持すらも、かなり難しく、占領している軍隊は、引き上げざるをえないのではないだろうか。
 戦場となって荒廃しきった地域を、どちらが復興させることができるか。はっきりしているのは、ロシアにはその力は、現在ではないように思われる。もちろん、ウクライナにもないのだが、EUは、ロシアの資産を凍結している部分があり、それをウクライナ復興に使うといっているが、もしそれが、実行されれば、復興能力はウクライナが上回ることができる。ドネツク地域では、まともな水がでないといわれているから、住民たちも、ロシア支配を冷静に見つめなおさざるをえないのではないだろうか。また、ドネツクに住んでいるロシア系、親ロシアの住民たちは、多くがロシアに移住するだろう。これだけ長い戦争が激しく闘われたのだから、荒廃した地域には住み続けたくないに違いない。
 停戦が実現すれば、EUが軍隊を派遣して、停戦区域の防衛を担うといわれているから、それもロシアへの圧力となるだろう。
 しかし、これらは、停戦が実現したという仮定だが、その仮定そのものの実現性が低いのだからは、戦闘継続の状況で何が起きるかということのほうが、大切である。
 トマホークのウクライナへの引き渡し(正確には売り渡し)に関して、トランプは例によって、いっていることがくるくる変っている。プーチンに圧力をかけたいのだと解釈されているが、プーチンへの圧力は、脅しではなく、実際にウクライナにトマホークを提供することによってしか実現しない。プーチンにとっては、実行されなければ、いくら脅されても平気なのは、ごく当たり前のことだ。
 トランプとゼレンスキーの会談が行われて、その後プーチンとの電話会談をする、あるいは、ブタペストで直接会談をするなどという構想らしいが、プーチンと話せば、またまた、プーチンに言いくるめられることになるだろう。トランプは、プーチンと話せば停戦案がまとまると思い込んでいるようだ。
 こうしたトランプの行動と発言をみていると、youtubeではたくさんある、トランプ認知症説が正しいのではないかという気もしてくるのである。ゼレンスキーとの会談では、かなり激した状況になったらしく、トランプがゼレンスキーに何かを投げつけたという噂もでている。突然の怒りというのは、認知症前段階のひとつの症状である。ノーベル賞を受賞できなかったことも、トランプの精神を不安定にさせているのかも知れないが、プーチンやトランプのような人物が世界を動かしていると考えると、憂うつにならざるをえない。
 最後に、ゼレンスキーは、トマホークをトランプに提供を望んでいるが、実際のところ、それはトランプを頼っているという姿勢を見せることで、少なくともプーチンに肩入れしないようにするための行動だと思う。ウクライナは自前のミサイルを作り出しており、実際に少量ながら使用して、成果をあげているようだ。量産も間近だといわれているから、トマホークなどなくても、このままロシアのエネルギー・運輸を攻撃しつづければ、やがてロシアのほうが早く崩壊することは、ほぼ確実である。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です