ドイツの高齢者事故

 1月16日付けのHamburger Moregenpost に84歳の女性が、子ども連れの36歳の妊婦を、車の運転ミスによる怪我をさせたという記事が出ている。幸い死亡事故ではなかったようだ。交差点を妊婦が渡ろうとしているところを、老婦人が間違って轢いてしまったという。乳母車が無残に飛ばされている写真がでている。運転していた老婦人は、警察に逮捕されたが、薬を服用していて、運転できる状態ではなかったと書かれている。車は押収され、捜査が続いて行われるということだ。
 ドイツでは、高齢者の事故はどうなっているのか。まだ充分にはわからないが、高齢者が交通事故に巻き込まれて死傷するのは、当然被害者として事故にあうのが最も多く、交通事故の被害者は子どもと高齢者が圧倒的に多いようである。当然のことだろう。2015年の事故犠牲者総数の21.1%が高齢者で、そのうち29.6%が死亡している。人身障害にいたる交通事故21万件のうち、5人に一人は18~24歳、13人に一人が65~74歳、13人に1人が75歳以上ということだ。ということは、まだまだ高齢者よりは、若者が多いということになる。 “ドイツの高齢者事故” の続きを読む

ドイツの奉仕義務導入の議論

 現在ドイツでは、義務的な奉仕活動の制度を導入する議論が、CDU(ドイツキリスト教民主同盟)を中心にかなり活発に行われているようだ。議論そのものは、昨年から出ていたが、Kramp-Karrenbauersという女性の党リーダーが、党員の意見を聞く会を精力的にまわり、そのなかで、出てきた意見を受けて提唱している。それが11月で、その後多くの党やメディアで盛んに賛否が論じられている状況になっている。
 ドイツは2011年まで徴兵制があった。兵役につくか、あるいは市民的奉仕活動をするかの選択はあったが、それが廃止され、その後は純粋にボランティアによる奉仕活動が行われているだけである。だいたい年4万人の人がボランティア活動をしているというが、もちろん、若者ばかりではない。 (災害等で臨時にボランティアをする人ではなく、登録して日常的に実践している人だと思われる。)今議論され、提案としてまとめられているものは、教育を終了した人が、1年間社会的奉仕活動を義務づけられるという案である。2018年に行われた世論調査では、実は賛成が多数になっている。政党別に見ると以下のようになっている。
CDU 77%
AfD 72%
SPD 62%
緑  66%
FDP 65%
Parteichef Christian Lindner は自由の制限だとして拒否
左派は52%
 反対が上回っている政党支持層はないのが特徴的だ。 “ドイツの奉仕義務導入の議論” の続きを読む

オランダの学校で不思議な体罰騒動

 オランダの小学校(基礎学校といって、幼稚園を含んだ8年制)で、奇妙な騒動が起きている。
 当初NHニュースというウェベサイトに情報が掲載された。
 創立してから50年経つ学校で、子どもたちが、ある教師によって嘲笑され、杖で突つかれ、そして、食事をトイレの中で、あるいは、床に座らせられて犬のように食べさせられたという訴えが、親からなされた。とんでもない事態ということだろう、直ちに、その教師は登校を許されず、第三者委員会へ調査が依頼された。校長は、ショックを受けていること、その教師は長年さまざまなクラスを受け持っている教師であること、調査を待っていることなどを述べている。オランダの小学校では、教師は、学校が変わることもない上に、担当学年も固定されていることが多い。それが、教師の停滞を生んでいるという批判もあるところだが、教えることを繰り返すので、熟達するという面もある。しかし、この教師は、いろいろな学年を担当していることで、意欲的であることが感じられる。
 当然親たちは不安になって、学校の近くでコーヒーを飲みながら情報交換をし合っている。校長は心労で倒れてしまい、新しい校長が赴任している。
 ところが、批判された教師を擁護する親たちが表れ、そんな事実は子どもたちから聞いていないし、作り話なのではないかと発言しているというのである。その発言そのものを確認することができないので、おそらく、閉鎖的なサイトに書き込んでいるか、電話をかけているのだろう。そうした親たちは、匿名で発言していると書かれている。 “オランダの学校で不思議な体罰騒動” の続きを読む

ベルリンの教師不足

 日本では、教職は人気の職業だと言われている。団塊の世代が退職して、教師の大量採用が続いたころ、大学では小学校免許取得のコースがかなり新設され、志願者も多かった。中学・高校の免許取得の課程は、ほとんどの大学に設置されているが、小学校の免許取得課程は、かなり限定されていたからである。私の大学は教員養成で有名なので、学生募集で有利な状況だったといえる。
 しかし、私自身は、やがて教職を目指す学生は減少してくるし、また、現場で教師不足になると危惧していた。ブログでも何度も書いたし、授業でも話していた。教職に就く魅力とされていたことが削られ(ex. 奨学金返済免除)、教師批判が強まり(M教師批判、いじめ問題の不手際)、そして、なんといっても殺人的な過重労働などが要因であろう。
 そして、それは次第に現実となりつつある。
 小学校の教員採用試験の倍率が2倍いかないところが、けっこうあるのだ。特に、地方は例外なく、教師になるのがかなり難しかったのであるが(だからこそ、大分県での不正事件なども起きた)、地方に倍率の低い県が少なくないのである。これは、民間企業の採用が増え、「売り手市場」になっていることも影響しているようだ。確かに、民間企業への内定は順調である。民間企業の採用が多いと、公務員や教員志願者が減り、不況になると逆になるのは、戦後ずっと続いている現象であるが、教職への志願者が減っているのは、ブラックと化した学校の実状が知られるようになったからだろう。 “ベルリンの教師不足” の続きを読む

オランダの不登校問題3 学校不安と学校恐怖

 今回は「学校不安」「学校恐怖」について考える。
 日本で、登校拒否という言葉でいわれていたときには、主に、オランダでいう「学校不安」「学校恐怖」と同じような現象が念頭におかれていた。前回扱ったチェックリストの、登校しなければならない朝に、頭痛や腹痛がおきたりするという現象は、日本でもさかんにいわれていた。そして、そんなときには無理に学校に行かせなくてもよいという「社会的雰囲気」が醸成され、文部科学省もそれを追認するような姿勢を見せて、認定されたフリースクールのような施設にいっていれば、出席として扱ってもよいなどとしている。しかし、学校に行かない事例は、必ずしも身体的症状が起きるわけではなく、明確なさぼりの場合もある。オランダでは、このふたつは区別され、別の対応がとられるわけである。つまり、学校そのものに不安を感じたり、また、恐怖心を起こすような何かがあって行けないのと、単なる勉強嫌いでさぼっている場合は、異なる対応が必要なことは自明である。ところが、日本では、登校拒否という言葉を、不登校に変えたあたりから、この相違が曖昧になっているような気がする。 “オランダの不登校問題3 学校不安と学校恐怖” の続きを読む

オランダの不登校問題2 対応策

 オランダの不登校に対する対策を考える前に、日本の義務教育制度との相違を再度確認しておく必要がある。
オランダと日本の義務教育システムの違い
 第一に、日本の法律では、国民は教育を受ける権利をもっていること、そして、保護者は保護する子弟に、普通教育を受けさせる義務を負っていることが決められている。つまり、子どもには、「教育を受ける義務」あるいは「就学義務」はない。「就学義務免除」という概念はあるが、それは保護者が「就学させる義務」を免除するということであって、事実上は、子どもの就学義務の免除であるが、法律的な意味はまったく異なる点である。しかし、オランダでは、学齢の子どもの就学義務が規定されている。したがって、義務違反は子ども当人に及ぶことがある。
 第二に、日本の義務教育は、その修了や認定が極めて曖昧であり、ほとんど不登校であっても卒業証書を受け取ることができるが、オランダは落第があることからもわかるように、違法な欠席が長ければ、義務教育の修了が認定されず、後の生活に支障をきたすことになる。
 第三に、日本の義務教育は6歳から15歳と短いが、オランダでは5歳から18歳未満まで、つまり、成人になるまでと長い。18歳の段階で、決められた義務教育の課程の修了認定を受けられないと、23歳まではそれを再履修して取得することを指導される。
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オランダの不登校問題1 不登校の現状

 事情があって、オランダの不登校を調べてみた。
 オランダは子どもの幸福度調査で、世界一になったことがある。つまり、世界一幸福な子どもというわけだ。しかも、オランダの教育は自由なので、オランダの子どもたちはストレスもなく、みな生き生きと学校生活を愉しんでいるという思い込みが一部にある。だから、不登校などあまりないだろうし、オランダから学ぶことが多いのではないかと考えるわけである。もちろん、オランダから学ぶことはたくさんある。しかし、上記のことは、ほとんど間違いであると、私は思っている。オランダの子どもだって、ストレス多い生活を営んでいるのである。考えてほしい。オランダの子どもは12歳で、人生の重大な選択を迫られるのだ。ドイツの多くの州と同様に、オランダも中等教育の三分岐制度を維持している。ドイツは、PISAの成績が極端に悪かったので、その反省から二分岐制度に移行しつつあるが、オランダはそのままである。どの学校種にいくかは、人生を大きく左右する。もちろん、やり直しはきくが、それでも大きな選択であるには違いない。こうしたことが、ストレスにならないはずがない。しかも、その選択には、全国的に行われる試験の成績にかなり左右されるのである。
 オランダは、基礎学校(幼稚園と小学校が一緒になった八年制の学校)に関して、完全な学校選択の自由がある。選んだ学校だから満足度は高い。しかし、教師との相性、友人関係など、学校にいくのが不安になって、不登校になる子どもは、少なくないのである。他方、不登校の子どもを援助する団体や人員も配置され、活発に活動している。
 そこで、最初に、オランダにはどの程度の不登校がいるのかを確認し、次に、不登校対策がどのように行われているかをみてみよう。
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アメリカの有名大学入試の不正

 アメリカの大学入試で不正があり、訴追された人物が50名もおり、そこに有名な人物がいたことで、ワイドショーなどでも取り上げられている。ワイドショーでは、こんなことがあったというレベルであるが、アメリカの大学を考える上で、重要な転換をもたらすかも知れない、大きな事件であると思う。
 事件は、シンガー William Rick Singer というブローカーのような人物が、富豪からお金を集め、大学のスポーツ推薦を担当する人物やコーチに働きかけて、スポーツ選手でもない有名人の子どもを、スポーツ選手であるように見せかけて、推薦で進学させたということと、SATの試験に介入(替え玉受験と、点数改竄)したということ、更に、集めたお金は、チャリティを装った団体を作って、一旦その団体を通し、「寄付」という形をとって税金逃れをしていたという罪がある。特に話題を集めたのは、人気テレビドラマの“Desperate Housewives,”で主役級だったFelicity Huffmanと、“Full House.”のLori Loughlinが訴追者のなかに入っていたことである。
 シンガーは有罪であることを認めていると報道されている。かなり前からシンガーは不正工作をしていたようだが、もちろん、当事者たちから漏れたわけではなく、FBIが別件での秘密捜査をしているときに、偶然事実が把握されたのだという。しかし、その詳細は報道されていない。
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高校生デモから選挙権年齢議論–子どもは国民?

Der Tagesspiegel2019.3.4より

 

 気候変動に対する高校生のデモは、ドイツでも行われており、盛んに議論されている。
 前に、メルケルが高校生デモを非難していると書いたが、全非難でもないようだ。’Merkel lobt Schülerproteste – Kritik aus der eigenen Partei’ Rheinische Post 4 Mar 2019によると、「生徒たちが、気候保護のために、街路に出て闘うことを強く支持する」と毎週公表されるビデオ放送で述べたという。しかし、メルケルは保守的な政党CDUの党首だから、党内からは批判が起こっている。 「連邦の首相が、いつも就学義務に違反するデモを、区別もなく、とてもよい創意だ、などと呼ぶのは、無責任だと、私は思う。」「彼女は、そのことによって就学義務の意義を低めているし、また、教育大臣や責任感を自覚している校長や教師たちを裏切っている。」と保守的な会派CDUのWerteunionの代表Alexander Mitschの言葉を紹介している。
 このような議論は、高校生デモが起きているところでは、かならず賛否両論で出てくるが、次に紹介する議論は、いかにも「論理」の国ドイツらしい。つまり、ドイツでは、高校生デモで見られるように、彼らの政治意識は高いのだから、選挙権の年齢をさげようという提案がSPD(社会民主党)の議員から提起されているというのである。’Das Recht der Jugend’ Der Tagesspiegel 4 Mar 2019が伝えている。筆者は、 Von A. Fröhlich, H. Monath und J. Müller-Neuhofの3人。
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同性婚の親の記入法– フランスで大激論

 フランスで新しい学校法が承認されたというが、かなりの激論が交わされたという。最も大きな論点になったのが、生徒の保護者名を記入するときに、どのようにするのかということ。これまでは、ごく当たり前のように、「父」と「母」という欄があって、そこに名前を記入するというものだった。日本でも同様だ。
 ところが、ヨーロッパでは、同性婚あるいは同性のカップルを、容認している国が多い。法的に同性婚を認めていなくても、結婚しないまま同性している二人を「カップル」という概念で認め、様々な法的な便宜を図っている国が多いのである。LGBTの権利を認める方向に進んでいる国では、当然同性婚が容認され、子どもがいて(多くは養子)、学校に通っている。そこで、書類にどう書くかという問題が生じるわけである。
 ル・モンドの2月19日の記事« Parent 1, parent 2 » : vie et mort d’une idée controversée du projet de « loi Blanquer »によれば、学校法の議論の過程で、女性議員のValérie Petitによって、「父と母」ではなく、「親1と親2」という概念にすべきであるという提案がなされ、大論争になったようだ。

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