オランダの水上オフィス

 オランダのロッテルダムに、水上オフィスが完成したというニュースを見た。FNNニュースが報じている。https://nordot.app/813256005040406528
 さっそくオランダのサイトをみてみたが、非常に興味深い。
 よく知られているように、オランダの国土の40%は干拓してできたもので、オランダ人の好きな言葉「地球をつくったのは神だが、オランダをつくったのはオランダ人だ」という言葉は、それを表している。人口の7割程度は、海面よりも低い土地に住んでいると言われている。オランダで、車に乗って海岸に近づいていくと、次第に坂を上っていくことになる。これは、まったく奇妙な経験だが、オランダという国の他にない特質だ。このことでわかるように、オランダ中にある運河(日本でオレンジラインがひかれた車道くらいの割合であると考えてよい。)は、海面よりも低いので、北海に向かって流れていくが、かつては風車で水をくみ上げて、少しずつ水面をあげて、北海までもっていく仕組みになっていた。今はモーターで調整しているが、こういう状況のために、オランダは、気候温暖化対策に最も熱心な国家である。温暖化で海面が上昇すれば、オランダの国土、特に人がたくさん住んでいる地域は、軒並み水没してしまうからだ。

 こうした自然状況で暮らしてきたために、オランダ人は、極めて合理的な考えをする。伝統とか、他国の価値観に囚われず、向きあっている事実に対して、最善の解決策を柔軟に考え出すのである。
 今度の水上オフィスも、実にオランダ的な試みだ。完全に水上に浮かんだオフィスで、さまざまな工夫がされているようだ。太陽光で発電し、プール等の娯楽施設もあり、植物を植えて、暑さを緩和する。完全に水面に浮かんでいるので、移動も可能で、将来は別の地域に移動することも考えているそうだ。
 このオフィスを作った企業のホームページには、作るプロセスの映像があるが、驚くべきことに、どこかで建てて、水上に浮かべたのではなく、水上で建築作業をしていることがわかる。https://www.forbuilding.nl/  このページの下のほうにある写真をクリックすると、建築過程がわかるように、超スピードアップした映像を見ることができる。
 何故、こういうオフィスを作ったのか。それは、水を制御することはできないという前提で、水が増えても、それに対応できる建築であればよいということのようだ。
 しかし、こういう考えは、かなり近年のもののように感じる。ライン川やマース側が、ドイツから流れてきて、オランダの北海に流れていくわけだが、そこは、洪水の巣のようなものだった。そこで、オランダ人は、川を水門でせき止め、運河にかえて、オランダ中に分散させた。そして、幾段もの高低を設定して、風車で、くみ上げつつ、水量の調節を可能にした。今は、コンピューター制御のモーターで水面の管理をしているので、水面の高さが10センチ変化すると、直ちに、水面を是正するようになっている。従って、オランダでは、洪水が滅多におきないのである。
 1953年に起きた最後の大洪水のあと、海岸に大規模な堤防を築き、そこでも、水面の調整が大規模に行なわれるシステムになっている。このようなことは、水をコントロールしようという姿勢の結果である。
 しかし、それはあくまでも通常の、長い歴史のなかで続いてきた水の増加に対応できるが、温暖化によって、北極圏の氷が溶けて、世界の海面が大きく上昇してしまえば、とうてい堤防を高くする程度では対応できない。そのときにどうするのか。建物自体が水面に浮いていれば、問題ないではないか。そういう発想だろう。
 いかにもオランダ人らしい発想だと思った。だが、既存の建物はどうするのか。すべての建物を水に浮かぶものに作り替えるのか。そんなことはとうていできないだろう。
 日本は、三陸海岸から福島県にかけて、堤防を建築した。この堤防が、ベストであるかは、かなり議論があるし、私も疑問には感じている。しかし、あまり国民的な議論がなされたようには思えない。
 オランダが今後どういう道をとるのかわからないが、大きな実験であることは確かだ。水を防ぐ堤防を作るのか、水に浮かぶ建築物にするのか。他にもさまざまな実験的な試みをしていくにちがいない。興味をもって、見まもりたい。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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