ベルリオーズの「ファウストの劫罰」

 ベルリオーズの「ファウストの劫罰」は、ずいぶんと奇妙な音楽だ。もちろん、ゲーテの「ファウスト」の内容に剃った音楽だが、構成は違うところが多いし、また、原作にはない場面が挿入されていたりもする。また、ベルリオーズ自身が、どのような形態での上演を考えていたのかも、あまり明確ではないようだ。
 更に、ゲーテのファウスト自体が、現在、原作のままで上演されることはあるのだろうか。私は、2003年に、ドイツで実際にファウストの野外公演を見たことがある。しかし、それは、原作をかなり短縮したもので、野外だから、あまり仕掛けはなく、リアルな形式での上演だったように思う。話題になったのは、メフィストフェレスが女性だった点だった。メフィストフェレスは悪魔だから、男性に限定することもないのかも知れないが、通常は男性がやる。ドイツ人に、女性だったと話したら、怪訝な顔をしていた。 “ベルリオーズの「ファウストの劫罰」” の続きを読む

今度は全国休校の軌道修正か

 昨日の日本全国の小中高と特別支援学校の春休みまでの休校の要請は、案の定日本中で大きな驚きをもって受け止められた。おそらく、現場は相当な混乱に陥った一日を過ごしただろう。月曜日からということは、昨日発表されて、具体的なことを決めて、保護者や子どもたちに伝えるのは、今日一日しかないのだ。あまりに急だということで、火曜日からの休校を決めた地域もあると報道されていた。野党からは撤回要求などもだされたようだが、岸田氏は、「やることはすべてやるのだ」と応じたそうだが、「やるべきことを、かなりやらずにここまできた」のに、よく言う、という感じだ。 “今度は全国休校の軌道修正か” の続きを読む

安倍首相が全国の学校休校を要請 逆効果の可能性はないのか

 安倍首相が、来週月曜日(3月2日)から、全国の小中高や特別支援学校の休校を要請したと報道されている。春休みまでということだから、事実上、今年度の授業は終わりということになる。極めて突然のことであり、またまた、繰り返されたやり方という感じがする。そして、本当に効果があるかどうかわからない。しっかり検討された結果という感じが全くない。
 繰り返されたというのは、徴用工への賠償命令の判決がでたあとの対応に似ているのだ。韓国はあの時期、次々に日本に対する不当な行為をやっていた。反韓ではない私でも、そう感じている。あのような事態があれば、ひとつひとつきちんと対応して、抗議だけではなく、有効な対抗措置をとる必要があるのに、かなりの間、単なる抗議の伝達で済ませていたように、国民には見えていた。もちろん、非公開のルートでの交渉はあったろうが、対抗措置はとられなかった。それが、あるとき、堪忍袋の緒が切れたかのように、輸出規制に踏み切ったわけである。 “安倍首相が全国の学校休校を要請 逆効果の可能性はないのか” の続きを読む

大津いじめ事件二審判決 賠償額が1割に。信じがたい判決だ

 「いじめ防止対策推進法」なる法律まで生むきっかけとなった大津のいじめ自殺事件で、大阪高裁の判決が出されたと報道されている。今は、速報だけだが、読売新聞では、自殺の原因がいじめであったことが認められたが、一審での賠償額認定が3750万だったのが、400万だけになったとの報道だけだが、朝日新聞には、次のような理由が説明されている。
 「佐村浩之裁判長は、いじめと自殺の因果関係を認めた一方、「自殺は自らの意思によるものであり、両親側も家庭環境を整え、いじめを受けている子を精神的に支えることができなかった」などとして過失相殺し、元同級生2人に計約3750万円の支払いを命じた一審・大津地裁判決を変更して賠償額を減額。元同級生側に約400万円を支払うよう命じた。」
 これは、驚くべき論理だ。つまり、自殺の責任は、
1 本人の意思
2 親が家庭環境を整える責任
3 いじめ
ということになるようだ。そして、いじめをして、自殺に追い込んだ加害者の責任が1割で、本人と親が9割という計算がなされている。 “大津いじめ事件二審判決 賠償額が1割に。信じがたい判決だ” の続きを読む

教師の養成について考える1 教職の魅力の低下

 教員養成のあり方は、戦後ずっと議論の対象になってきた。その時々の議論はもちろん違っている。今は、何が課題だろうか。それはいくつもあるように感じる。私自身、ずいぶんたくさんの学生を、学校現場に送り込んできた。既にその役割は終わったが、そこで、考えたことを、少しずつ整理してみたいと思う。
 現在の教員養成の最大の問題は、教師志願者が減っていることだろう。減れば平均的な質が低下することは、割けられない。欧米では、戦後一貫して、教師不足が続いている。おそらく、特に初等教育の教師の人気が高くて、倍率が高いなどということは、ほとんどの欧米諸国で起きたことがないだろう。フィンランドは教師の人気が高く、なるのが大変だと言われているが、例外的存在なのではなかろうか。
 しかし、日本は、少なくとも戦後直後と、最近を除けば、教師はいつも人気の高い職業だった。しかし、ここ2、3年、教員採用試験の倍率が落ちている。そして、おそらく、教職課程を履修しようという学生の数も減っている。このままだと、教師の社会的位置づけが欧米に近くなってくるだろう。この事態は、かなり以前から予想され、私は何度も指摘してきた。文科省は、教職の人気を低下させようと躍起になっているようにしか、私には見えなかった。 “教師の養成について考える1 教職の魅力の低下” の続きを読む

主体・責任を考える 小坂井敏晶「責任という虚構」をを読む

 相模原障害者施設殺傷事件(やまゆり園事件)等、責任能力をめぐる難しい事件が少なくない。何度か、このブログでも書いた内容だが、再度論じたい。きっかけは、小坂井敏晶『増補 責任という虚構』(筑摩書房)を読んだことだ。読書ノートにしなかったのは、ざっと通読しただけで、まだ精密に読んでいないからだ。精密に読み直すかどうかはわからない。重要な、あるいは過去、多くの人によって詳細に議論されてきた主題を扱っているのだが、しかし、肝心の結論が書かれいない。「結論に代えて」という章があることでもわかる。それが読後感として一番の不満だ。
 私が、この本を読み始めたのは、犯罪の責任に関して、多く触れているからである。犯罪を罰するのは、自由な判断が可能な人間が、意図的に犯した行為、社会にとって禁止され、犯罪とされる行為を行ったときである。自由な判断が可能である場合に、責任が生じるという論理に支えられている。だから、判断ができない子どもや、精神疾患の人間は、罪に問われないという構造になっている。 “主体・責任を考える 小坂井敏晶「責任という虚構」をを読む” の続きを読む

違法な措置でなった検事総長が、違法行為を裁けるのか

 毎日新聞(2020.2.23)によると、岸田文雄自民党政調会長が、NHKの番組に出演して、黒川東京高検検事長の定年延長問題に関して、政府の説明が変化しているところがあり、検察への信頼を取り戻すために、しっかりと説明をする必要があるという趣旨のことを述べたという。説明の変化は、国会で議論されている中で、森法務大臣の説明が混乱していることをさしているのだろう。しかし、はっきりいって、「しっかりした説明」など不可能だろう。何故なら、いくら言い繕っても、違法行為に間違いないのだから。森法務大臣は、弁護士である。弁護士であるならば、黒川氏の定年延長を決めた閣議決定が、違法行為であるこは、充分にわかっているはずである。最も、カルロス・ゴーンの逃亡に際しての記者会見で、とんでもない間違いをしてしまったことを考えれば、本当に分かっていないという可能性もないではないが、常識的には、分かっているが故の、説明の揺れだろう。あるいは、下手な答弁をすることで、閣議決定に抵抗しているのかも知れない。皮肉ではあるが。
 そして、AERA.dotによると、2月19日に開かれた、全国の法務・検察幹部が集まる「検察長官合同」で、神村検事正が、かなり明確な批判を行ったという。 “違法な措置でなった検事総長が、違法行為を裁けるのか” の続きを読む

鬼平犯科帳 悪事への欲求

 鬼平犯科帳は、いうまでもなく、犯罪者、とくに盗賊の犯罪を扱った小説である。盗賊といっても、様々なタイプの盗人が登場する。しかも、「本格の盗賊」とそうでないものに区分までしている。本格の盗賊とは、
・盗られてこまるようなところからは盗らない。
・人を殺さない。
・女を犯さない。
という三カ条を守るものをという。それに対して、財産全部盗ったり、あるいは殺人、強姦をするものに対して、平蔵は厳しく取り締まるし、また、本格盗賊も、彼らの軽蔑する。
 ところで、盗賊といっても、いつまでも盗みを働き続けるわけではなく、途中で嫌になったり、あるいは、高齢になって引退することもある。また、捕まってしまう場合もある。捕まった者のなかで、改心し、役に立つと平蔵が判断すると、密偵に取り立てる場合もある。そういう引退したり、あるいは、密偵になった元盗賊が、盗みへの欲求を抑えられなくなるときがあるようだ。また、とくに盗賊だったするわけでもない、普段は善人なのに、ふと火付けをする話もある。 “鬼平犯科帳 悪事への欲求” の続きを読む

新型コロナウィルス、岩田健太郎氏の映像をめぐって

 感染症の専門家である岩田健太郎氏が、ダイアモンド・プリンセス号に乗船して、あまりの惨状にショックを受けたという映像をアップした。要点は、ダイアモンド・プリンセス号では、レッドゾーンとグリーンゾーンが厳密に分かれておらず、過去、エボラ出血熱やSARS対策に外国で従事したときよりも、恐怖を感じたというものだ。それが世界中に広がった一方、日本では、大きなバッシングも起き、その映像を削除されたとする。しかし、多数の人がシェアしていたので、もちろんまだ見ることができる。他方、削除に至る重要な要因になったと思われる高山義治医師のfacebookの当該記事も削除されている。昨日コメントをずっと読んでいたのだが、まだ全部は読んでいないうちに削除されてしまったのが残念だ。
 更に、厚労省副大臣の橋本岳氏がツイッターで、岩田氏を批判したことが、炎上している。高山氏のfacebookはかなりの書き込みがあり、ほとんどが岩田氏を批判し、高山氏を擁護するものだった。別のツイッターでは岩田氏を卑怯者と罵るものも多数あるようだ。 “新型コロナウィルス、岩田健太郎氏の映像をめぐって” の続きを読む

新型コロナウィルスの適切な対策か、オリンピック中止か

 新型コロナウィルスが原因で、大がかりなイベントが次々に中止されている。東京マラソンの一般参加部分の中止がスポーツとしては、大きなものだろう。この中止に際して、主催者側の姿勢が極めて象徴的である。一般参加者は、参加できないが、既に支払った参加料を返金しないというのだ。テレビでインタビューに応じている一般参加者は、残念がっているが、あまり怒っていないにようにみえるのが、いかにも不自然だ。主催者の都合で参加をさせないのだから、参加料を返金するのは当然だろう。テレビでは怒っているインタビュアの映像は意図的にカットしたのだろうか。
 感染症の拡大と国際化は、表裏一体である。日本で極めて国際交流の盛んだった奈良時代には、権力の中枢にいた藤原四兄弟が相次いで天然痘で死去している。当時の国際化は支配層に限定されていたから、感染症の拡大も比較的上層部に限定されていたが、今や、国際化は幅広い層に浸透しており、オリンピックなどのスポーツ大会は、もっとも短期的には大規模な人の移動が起きる。世界中で発生している新型コロナウィルスを念頭に、対策と、もしもの場合の開催の是非について、真剣に検討しなければならない状況だろう。
 既にサッカーはシーズン入りしているし、間もなくプロ野球ではオープン選が始まる。 “新型コロナウィルスの適切な対策か、オリンピック中止か” の続きを読む