トランプの最近の行動をみていると、独裁者として振る舞いたいという衝動・欲望を感じざるをえない。結局、プーチン・周恩来と3人で世界を支配したいのか、という疑念がどうしても湧いてくる。中国を封じ込めるなどと言っているが、結局のところ、トランプは習近平とは必ずしも犬猿の仲という関係でもない。プーチンとの仲は以前からのものだ。金正恩を「いいやつ」と表現していることでもわかるように、トランプが気に入っている人物は、とにかく独裁者かそれに近い人物ばかりである。安倍晋三もその一人だ。にもかかわらず、ゼレンスキーのことを「独裁者」などと決めつけているのだから、呆れてしまう。
それが結果的に、いかに国際情勢をゆがめた感覚で、トランプがみているかは、ウクライナ問題の扱いをみればわかる。とにかく、トランプのウクライナへの扱いは、報道をみている限り、一貫したものがない。そして、それがとんでもない発言になっている。その典型が、「ウクライナで大統領選挙を実施すべきだ」という主張だ。これは、完全にプーチンに、思考回路を支配されているとみるべきだろう。プーチンは、いかにも「大統領の任期が切れている」などと、もっともらしいことをいっているが、ウクライナで、大統領選挙が実施できないのは、隣国の大国ロシアに侵略されているからであり、そのための抵抗を国家的規模で継続して実施しなければならないからである。プーチンの主張は、泥棒の説教でしかない。それだけではなく、もっと強い戦略によっている。それは、ウクライナで大統領選挙を実施させれば、強力に選挙干渉をして(それはプーチンのお得意の技だ)、ロシアに従順な大統領にすげ替えるという目的があるからである。トランプの主張は、まったくプーチンの主張を後押しして、ウクライナをロシア従属国家にするものなのだ。それをわかって、トランプが主張しているとすれば、かれは完全にプーチンの強固な同盟者であり、わかっていないとすれば、完全な無知である。
この戦争の状況の極めて明確な特徴のひとつに、ウクライナは、ロシアの軍事施設や兵站を破壊するために爆撃をしているが、ロシアは、完全にウクライナの市民生活の破壊のために、民生施設を爆撃している。つまり、ロシアは、ウクライナ市民の生活を破壊するべく、ミサイルを打ち込んでいるのであり、そのような状況下で、国家的規模の選挙など実施できるわけがないではないか。もし、大統領選挙を実施させるために、トランプが、プーチンに対して、とにかく現在ウクライナにいるロシア軍全体を、ロシアに引き上げさせて、公平な選挙が可能な状況を一定期間保証した上で、選挙を実施すべきであると主張するならば、それは、ある程度納得のいくものだろう。しかし、それを前提にした選挙を主張しているわけでもなく、単にプーチンの主張を容認しているに過ぎない。現在の発言をみる限り、ロシアが不当に占拠しているウクライナ領を,ロシア領にしてしまう前提での、「ウクライナ」の大統領選挙なのだから、ウクライナが受け入れられないのは当然である。
ウクライナ情勢は、とにかく混沌としているようだ。ロシアは人海戦術を駆使して、いかに犠牲者がでようが、占領地域を拡大しようと攻撃を継続している。なんといっても、兵力数で圧倒的にロシアが有利だから、ウクライナが押されている局面が大きいようだ。しかし、ウクライナは、ロシアの兵站を破壊することにおいては、かなりの成果をだしている。しかし、兵站破壊が100%実施されているわけではないし、少しずつその影響が出てくるとはいえ、それには時間がかかるだろう。「兵糧攻め」は、長期間実施しなければ、目的は達成できない。結局、ウクライナがどこまでロシア軍の攻撃に堪えられるのか、ロシアの戦闘能力が削がれていくまでもつのか、ということになる。
しかし、戦争開始まもない時期に書いたように、ウクライナがロシア軍を実力で敗北させ、ロシア側に完全撤退させることは、難しいといわざるをえない。それが実現するためには、もうひとつ、ロシア内でのプーチンに対する反乱がおきることだ。そのような情勢は、現在では見られない。多少の萌芽はあるようだが、まだまだ反乱がおきる発火点まではいっていないようだ。結局、双方がどれだけ堪えるのか、そして、トランプがウクライナ援助を完全に断ち切ってしまうのか、その場合のヨーロッパの援助の実効性はどうなるのか、というような不確定要素があり、また、トランプ自身も揺れている状況だから、2025年は混沌状態が継続していくのだろう。