大津いじめ事件二審判決 賠償額が1割に。信じがたい判決だ

 「いじめ防止対策推進法」なる法律まで生むきっかけとなった大津のいじめ自殺事件で、大阪高裁の判決が出されたと報道されている。今は、速報だけだが、読売新聞では、自殺の原因がいじめであったことが認められたが、一審での賠償額認定が3750万だったのが、400万だけになったとの報道だけだが、朝日新聞には、次のような理由が説明されている。
 「佐村浩之裁判長は、いじめと自殺の因果関係を認めた一方、「自殺は自らの意思によるものであり、両親側も家庭環境を整え、いじめを受けている子を精神的に支えることができなかった」などとして過失相殺し、元同級生2人に計約3750万円の支払いを命じた一審・大津地裁判決を変更して賠償額を減額。元同級生側に約400万円を支払うよう命じた。」
 これは、驚くべき論理だ。つまり、自殺の責任は、
1 本人の意思
2 親が家庭環境を整える責任
3 いじめ
ということになるようだ。そして、いじめをして、自殺に追い込んだ加害者の責任が1割で、本人と親が9割という計算がなされている。確かに、自殺は本人の意思だろう。加害者に直接殺されたわけではない。しかし、自殺せざるをえないように追い込んだのは、加害者のいじめ行為であることは、第三者委員会でも認められたし、また、一審判決でも認められた。それは、高裁判決も認めているという。しかも、かなり「死ね」と言われたり、当時の報道によれば、自殺の練習までさせられたという。いじめがなければ、自殺することもなかったのである。そこに、死んだ本人の意思が、相殺されるべき「過失」であるという認定になっている。信じられるだろうか。
 そして、親だ。もちろん、私自身は、子どもがいじめられ、死にたいと思っている状態で、私が親だったから、絶対に学校に行かせない方法をとる。そして、加害者たちと遮断する。そのことによって、自殺を思い止まらせることは、絶対に可能だとまではいわないが、かなり可能性を高められると思う。しかし、子どもの友人関係や親子関係で、いろいろな事情はあるだろうから、対応のとり方は多様であろう。しかし、いじめで追い詰められた子どもの自殺に対して、親の過失を認定するというのは、どういう理屈だろうか。しかも、加害者の過失部分が1割なのだから、ほとんど責任がないと認定したに等しい。交通事故で、動いている車同士が衝突した場合、100%一方の運転が悪いと認められたとしても、保険適用に関して、それぞれの責任では、悪くないほうにも10%の責任があるとするそうだ。0%となるのは、まったく止まっていた状態にぶつけられた場合だけらしい。それと同じというのは乱暴な話だが、それを連想してしまう。つまり、加害者は悪くないが、自殺してしまったから、10%の過失は自動的に認めざるをえないのだよ、と。
 こういう判決が出されることに、心底驚かざるをえない。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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