安倍晋三と長谷川平蔵

 熱は下がったけれども、まだまだ全快というわけでもないので、今日は気楽な話題。
 自民党と統一教会のずぶずぶな関係が、次第に明らかになってきているが、そのなかで、非常に興味深いのは、警察が統一教会の捜査を始めようとしていたのを止めたとか、公安が監視団体としていたのを外したのが、安倍晋三であるという点だ。鬼平犯科帳には、与力同心が犯罪集団に協力しているが、結局身を滅ぼしてしまう話がふたつある。
 「あばたの新助」と「殺しの波紋」だ。
 「あばたの新助」のあらすじは以下のようなものだ。
 同心の佐々木新助はまじめ一筋、筆頭与力佐嶋忠介の姪にあたるお米と結婚しているが、あるとき、ハニートラップにひっかかってしまう。
 市中見回りの際に、甘酒やに入ったところ、その茶汲女のお才に声をかけられる。お才は、長谷川平蔵を本気で殺害しようと思っている大盗賊網切の甚五郎の手下で、新助を籠絡する役割を与えられていた。まじめ一本の新助はすっかりのぼせあがってしまい、当初はお金を使うが、そのうちだせなくなると、お才がだすというので、ずるずると続いている。あるとき、小料理屋に誘われ、セックスに夢中になっている最中、甚五郎の手下が予定通り踏み込んできて、新助に協力を強制する。

 実は、何度目かに新助とお才が会っているときに、たまたま平蔵がみかけて、不自然だと感じたが、放置していた。これが、いかにも平蔵らしくないのだが、物語を成立させるためだろうか。
 こうして新助は、火付盗賊改方の夜の見回りの予定を、甚五郎一派に教え、更に盗みの最中に見張りをさせられる。その結果、つねに見回りの裏をかかれて、火付盗賊改方は盗みを許してしまうことになる。平蔵は、当然情報が漏れていることを感じて、いろいろとやってみるが、その結果、与力・同心のなかに情報提供者がいると考えざるをえなくなる。
 あるときたまたま役宅で新助をみかけた平蔵が、「どうだ、新助。浮気はやんだかえ?」と語りかけると、真相を知られていると思い込んだ新助が、駆け出し、お才のところに行き、自首しようと連れ出そうとするが、甚五郎配下に悟られ、お才と新助は切られてしまう。
 
 「殺しの波紋」は以下の通り。
 与力の富田達五郎は、つまらないけんかから旗本の次男をきってしまう。そこをたまたまみられた盗賊橋本屋から脅され、盗みの手伝いをさせられる。それが重なったので、ついに橋本屋を船頭に手伝わせて水上に連れ出し、殺害し、船頭も殺害してしまう。しかも、その様子をみられ、100両要求されることになる。その脅迫状を与力部屋で読んでいたところに平蔵が入ってきて、とっさに手紙を隠そうとするが、それを思い止まる。その不自然な動作を平蔵が不信に思い、伊三次に手紙を届けた人物を門番に尋ねさせる。
 平蔵に疑われていると感じた富田は、外にでた門番にご馳走しながら情報を聞き出そうとすると、伊三次が手紙をもってきた人物を聞きにきたと話してしまい、富田は、門番をその後殺害してしまう。ここで、富田への疑いを濃くした平蔵は、普段は役宅に出入りしない密偵に、富田を監視することを頼み、そこで、富田は100両をつくるために、辻斬りをしていることがわかる。そこで、平蔵が出場って、富田を切り捨ててしまう。
 
 いずれも本来盗賊を捕まえる役割の与力や同心が、盗賊に協力させられる話である。ただし、自分で進んで協力したのではなく、弱みを握られたか、あるいは弱みとはいえないものの処理を誤っために、弱みとなって、後戻りできなくなった例である。
 新助がお才と連れ立っているところをみた平蔵が、その場でなくとも、異常を感じたのだから、適当なときに新助に事情を問うことで、防ぐことはできたし、あるいはお金がだせなくなった時点で、新助が平蔵に相談することもできた。ハニートラッフは古今東西を通じたスパイ製造テクニックなのだから、そういう教育を、江戸時代の警察機構はやらなかったのだろうかとも考えてしまう。富田の場合にも、旗本の次男をきってしまったあと、橋本屋からの脅迫状が舞い込んだときに、平蔵に相談すれば、平蔵は何らかの手をうったように想像できる。しかし、ふたりとも、過ちに気付いたときに、訂正するのではなく、むしろ悪に突き進んでしまう。
 
 当然上司たる平蔵は、捜査の妨害など一切しない。他の物語でもそうしたことは出てこないし、また、平蔵が幕府の高官から捜査打ち切りを指示される場面もでてこない。それは、平蔵の上司である京極備前守が、圧力から守ってくれているからで、(物語としてだけではなく)現実的には、あったのかもしれない。ただし、火付盗賊改方の長官としての長谷川平蔵は、捜査を常に進めている。もちろん、平蔵にも、若いころ放蕩無頼な生活をしていたという弱みはあって、幕府の高官がそれをもちだすことがあったとしても、その弱みは、広く知られていることだったから、平蔵の弱みをネタに圧力をかけることは、なかなか難しかったといえる。
 では安倍晋三氏は、なぜ統一教会の捜査を妨害し、統一教会を援助したのだろうか。
 ひとつの可能性は、統一教会の理念、運動に全面的に賛成しており、疑問をもっていなかったので、統一教会を捜査するなど、本心許せなかったということだ。尊敬する岸信介以来ずっと積極的な関係をもってきた統一教会だから、信じ込んでいたかも知れない。「美しい日本」という言葉は、統一教会からとったとも言われているから、この可能性は皆無ではない。しかし、いくらお坊っちゃまでも、統一教会が霊感商法などで大きな社会問題をおこしていたことは知っていたはずである。それなら、日本を属国化するような運動をどう思っていたのか。それを示すような資料はないのだろうか。
 まったく逆の可能性は、なんらかの弱みを握られていたというものだ。単なる想像だが、安倍氏の育ちかたからみて、この可能性は低いと思う。弱みがないということではなく、統一教会によって密かにその弱みを握られる可能性は低いということだ。また、弱みを握られたことによって、統一教会に協力していたのならば、安倍氏ほどの権力をもっていれば、どこかで反撃したり、あるいは捜査を促進させるのではないだろうか。
 次の可能性は、あるときなんらかの援助が必要で、それを統一教会に頼ったら、思いのほか効果的だったので、問題があることは知りつつも、次第に統一教会を利用することに躊躇がなくなっていったというものだ。
 こういうことを調べる人がいるかどうかわからないし、とにかく本人が死んでしまったので、正確なことはわからないのだが、とにかく、最高の権力者が、反社会的な団体を保護し、反社会的な行為を捜査することを妨害するというのは、先進国の政治とはいえない。安倍晋三は首相として、経済だけではなく、政治の面でも日本を後進国に貶めることに、励んだという感をますます強くした。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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