科学五輪参加者 女子は5%

 毎年夏に、高校生を対象とした科学五輪が開催される。それを機にした記事が朝日の掲載されていた。
「科学五輪日本代表、女子は5% 科学技術振興機構が直近10年を集計」
「科学五輪の日本代表に極端な性別の偏り 識者が指摘する問題点」
である。
 教育未来創造会議が、理工系学生の50%を女子にするという構想が、現在文科省が工程作成をしている最中である。これについて、ブログで触れた。「理工系学生を50%にという未来像」
 
 私は、理工系の大学生の割合を増やすことは大賛成であるが、しかし、女子を有利にすることで達成することではないから、教育を変えていく必要がある。決して、女子を抑圧・差別して、理系の女子学生が少ないわけではない。もちろん、大きな社会的背景などを考えれば、広い意味で差別であるかも知れないが、少なくとも意図的に女子の理系進学を抑圧しているわけではない。これは、科学五輪の参加を見れば、やはり女子が理系について消極的であることがわかる。科学五輪は、国内選考を経て、国際大会に出場するわけだが、国内選考への参加段階で、女子は3割未満だそうだ。例外は生物で5割が女子だった。過去10年間に選出された女子は16名で、情報と物理は0である。生物でも5名だ。因みに総計は302名。中高一貫の男子校が圧倒的に多いというのも、考える必要があることだろう。

 
 日本社会全体の理系卒業者を増やすには、科学五輪の象徴するトップを育てることと、底辺の裾野を広げることの、両方が必要である。科学五輪の女子の参加者を増やすためには、やはり宣伝が必要なのだろう。桜蔭高校などのように、進学実績でトップレベルの男子校に遜色ない学校もいくつかあるのだから、そうした学校の生徒が、より積極的になるための宣伝や環境造りは必要なのだろう。
 ただ、私が重視するのは、小学校における理科教育の改善である。
 小学校は、理科教育を充実させる上で、いくつかの不利な面がある。
・小学校の教員免許を取得するのは、中学の免許より困難で、取得できる学部は限られている。(中学の教員免許をまったく取得できない大学は、かなり少数のはずである。)そして、そうした学部は、基本的に文系であると考えられている。
・科学五輪は極端だが、一般的に女性は理系に弱いとされており、小学校教師の大多数は女性である。
・小学校教師は、全科目担当が原則であって、それぞれの科目のための養成課程の授業は、多くない。また教師としても、負担が大きく、多面的であるために、理科教育のための準備などに傾注することは難しい。
 このように複合的な要因で、小学校の理科教育は、やはり、先進国としてはかなり問題があると言われている。そこで、理科専科をおく学校が少なくないが、本当に理科が得意で、専門的な力量をもった教師が、理科専科になるわけでもない。(特異な例かも知れないが、私のゼミの卒業生で、理科が大嫌いだという教師が、理科専科を無理やりさせられたといっていた。短期間で通常の担任教師になったが。)
 
 多くの日本人は、小学校で担任が全教科を教えるのは当たり前だと思っているかも知れないが、先進国では、おそらく日本だけだろう。もともと、無理なことなのだ。通常は、主要教科だけを担当して、体育、音楽、美術、宗教などは、専科の教師が教える。そうした教師は、国や学校にもよるが、担任をもたず、複数の学校を兼務している。日本の教師は、平均的に非常に優秀であるが、それでも、全教科教えることは、あまりに負担が大きすぎるし、また、音楽や美術を専修した教師が、主要教科を教えるというのも、不安がある。
 他方、では理科を完全に専科にすればよいか。それは、かなり空想的であり、また、何故理科だけ専科なのかという疑問も生じる。本当に理科の実力があるのは、理系の大学生だと思われるが、理系の大卒で教職に就く者は稀であるし、更に小学校の教師になる人はまったにいない。
 小学校の教科では、むしろ、教科を融合したような教育こそ効果的なのであって、主要教科は担当を分離せず、ひとりの教師が教えたほうが、総合的な知識や見方を培うのに効果的である。
 
 そうした場合の効果を高めるために、小学校教師の養成では、入試段階で、主要5教科をすべて必修にすべきであろう。もちろん、高校の教科をきちんと理解するというよりは、基本の理解を重視するような試験にすべきであるが、やはり、主要教科をすべて学習した上で、教職の勉強をする。そうしてこそ、しっかりと理科・社会・国語・算数・(英語)を教えることができる。そのように、小学生にふさわしく、理科や算数を楽しく学習させられる教師が増えていけば、理系の女子も増えていくのではないだろうか。
 それはまた、音楽・体育・美術などは、それを専門に学んだ教師が教えるのだから、その点でも効果的であると思う。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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