これまでドラマと原作の相違を、「シャーロック・ホームズ」と「鬼平犯科帳」を素材にして、何度か考えてきたが、シャーロック・ホームズのまったく新しいシリーズのドラマをみて、またいろいろと刺激を受けそうだ。「シャーロック」というBBC制作のテレビドラマで、もちろん存在は知っていたが、原作とはかなり離れているということで、まったく見ていなかった。しかし、非常に面白いという記事を読んで、ディスクを探したところ、すべてを含んでいるらしい安価な製品があることを知ったので、購入して、これから順次みていこうと思っている。そして、今日最初の話をみた。
 コナン・ドイルの最初の物語が「緋色の研究」ということだが、この第一話もそうなっている。ワトソンとホームズの出あいから同居することになり、連続殺人事件がおきて、ホームズが解決するという柱は同じだが、内容は原作とは似ても似つかない殺人事件になっている。時代もまったく現代に置き換えられており、原作では、電報が連絡ツールとして用いられているが(後期になると電話が登場する)、この「シャーロック」では、スマホが大活躍していて、私などはとうていできない高度なテクニックが用いられている。しかし、車や部屋の様子などは、それほど近代的とも言い難く、現代のイギリスの住宅環境って、こんな感じなのか、と不思議ではあった。
 ジェレミー・ブレット主演のドラマには、「緋色の研究」はないので、比較しようがないが、原作では、アメリカ開拓時代に、モルモン教徒に娘をさしだすように強要され、逃亡したところを追手に娘と家族が殺され、婚約者の男性が、ロンドンにわたった犯人たちを殺害して仇をうつという話だったが、「シャーロック」では、まったく違う目的の連続殺人事件となっていて、動機という点でいかにもありえない内容になっている。
 3人の自殺者とされた人が、毒のカプセルを飲んで死ぬ場面があり、警察とホームズが捜索するわけだが、タクシー運転手の殺人犯がホームズ宅にやってきて、ホームズを誘い出し、ホームズ自身が殺害されそうになる。運転手が同じようなカプセルをふたつ差し出して、ふたりが同時に一つずつ飲むのだが、ホームズに選択権を与え、選べと迫る。そうやって、前の3人を殺害したのだと、運転手は説明するのだが、その理由は、スポンサーがいて、一人殺害するごとに、報奨金がでる。その報奨金を別居している子どもに遺産として残すのだという。運転手がホームズにカプセルを飲めと迫っているときに、スマホのGPSを頼りにかけつけてきたワトソンが、別棟でその光景をみて、拳銃で運転手を狙撃する。そして、最後にホームズがスポンサーがモリアーティであることを白状させるという設定になっている。
 それから、まったく原作と異なるように設定されているのが、兄のマイクロフトで、この初回から、シャーロックを保護するために監視している人物になっている。
 最初は杖をついて歩いていたワトソンが、ホームズと一緒に、犯人だと勘違いした人を駆け足で追いかけるときに、杖を放り出して普通に走り続ける場面は、笑えた。心因性だとホームズが説明していたので、途中で突然治ってしまうのではないか、と予想していたのだが、その通りになったわけだ。
このように、原作を面白いと思っている者にとっては、かなり驚きの筋書きになっているが、こうした調子で進んでいくのだろう。ただ、あまり原作にとらわれなければ、テンポもよく、話がどんどん進んでいくので、ドラマとしては面白そうだ。