オペラの録音は大変なコストがかかるし、成功するには様々な条件を満たす必要がある。だから、途中で放棄された計画も少なくないだろう。そういうなかで、有名なミステリーともいうべきふたつの例を、何故そんなことになったのか、想像をしてみよう。
第一は、オットー・ゲルデス指揮、ワーグナーの「タンホイザー」である。これは1968年から69年にかけて録音されたレコードで、今でも現役として発売されている「名盤」である。タンホイザーがヴィントガッセン、ヴェーヌスとエリザベードの二役でニルソン、ヴォルフラムがフィッシャー・ディスカウ、ヘルマンがテオ・アダムというキャストで、ベルリン・ドイツ・オペラの演奏だ。レコード会社はドイツ・グラモフォン。
クラシックファンならば、たいていの人は知っている演奏で、この盤そのものの存在は知らなくても、オペラファンならば、この歌手陣をみれば、ほおーと思うだろう。それだけ超強力歌手たちである。そして、よほどの情報通でなければ、ゲルデスって誰だということになる。