「テラスハウス」に出演した内容で、ネット上で誹謗中傷を受け、自殺した女子プロレスラーと同じような問題が起きないようにすることは、ネットを人権侵害の場にしないために、絶対に必要なことである。昨日ワイドショーに、その女性の母親が出て、いろいろと言っていたが、やはり、ネットの運営をどう変える必要があるのか、表現の自由を侵害せず、かつ名誉毀損となる投稿を防ぐ、出されてしまったときに、速やかに対応できる仕組みを作る必要がある。
現在、ネット上における違法発言の取り扱いについては、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律
」という実に長ったらしい、とても覚えきれないような名称の法律に規定されている。通常「プロバイダー責任制限法」と呼ばれる法律である。名称でわかるように、人権侵害発言があったときに、プロバイダーが負わねばならない法的責任を制限して、責任が問われる場合を特定していること、また、そうした発言を受けた者が、情報開示をプロバイダーに求めることができる場合を列挙した法律と考えればよい。
まず、ある投稿が違法発言であることを知っている、あるいは知りうる立場には責任を生じるが、それも、送信を防止することが技術的に可能であることが前提となっている。
また投稿者が、発信を止められたことについては、その違法発言を止めることに限定された措置であることが必要であり、次の事例の場合には、責任を問われない。
・他人の権利を侵害している内容であると信じるに足る内容であること
・侵害されたとされる人からの申し出があった場合、発信者にプロバイダーが同意するかどうかを紹介したが、7日間返答がないか、同意しない旨の申し出がなかったとき
他に選挙期間中のことが決められているが、それは今回除外して考える。
まず、この法律の最後に紹介して部分については、極めて大きな問題がある。他人の権利を侵害するような投稿を、ネットに公開するような人物が、被害者からの削除要求があったときに、その旨プロバイダーから連絡があり、同意を求められても、同意しない可能性は小さくないだろう。軽い気持ちで投稿してしまった人は別だろうが、確信をもって投稿した人は、同意しない可能性が高い。そうしたどうするのか。被害者はかなり、厳しい立場に置かれる。この仕組みは、変えなければならない。
さて、総務省は、9月に「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」という文書を発表した。いろいろな点が検討されているが、そのなかの「発信者情報開示に関する体制整備」という部分をみてみよう。
まず開示対象に電話番号を加えるとしている。これは既に8月に省令改正されているということだが、このことによって、裁判手続が多少簡略になると書かれている。また、電話番号照会する事例についての、ガイドラインを定めたというが、これは、まだ改正されていない。
次に、新たな裁判手続の創設。
裁判手続が煩雑なために諦める人が多く、もっと簡略化できるようにすることは、当然必要だが、それは今詰めているところだそうだ。
次にログイン時情報が開示対象になるかが、不明確であるために、それを明確にする。これも現在検討中という。
最後に裁判外(任意)開示の促進という項目では、アドバイス機関を充実させるとしている。
いずれにせよ、まだ不明確で検討中ということのようだ。
そこで、私見を述べておきたい。
まず、他人の権利を侵害する投稿をすることは、明確に違法行為であることの確認が必要である。違法行為をすれば、罰せられるのが当たり前だ。他方、表現の自由という問題も関わってくる。このバランスをどうとるかという問題がある。
私が、上の点で書いたように、被害者から削除要求があったときに、発信者に同意を求めるという項目を、改定することがまず必要である。
まず、違法行為をした人間の同意を得る必要があるだろうか。基本的に必要ないと思う。内容の侵害性と被害者の意思が考慮されればよい。
ただし、プロバイダーなり、あるいは、SNSなりに加入するときに、この点に関する事前の同意を条件とする規約を設定して、それを遵守することを条件に入会を許可するシステムにする。
・他人の権利を侵害する投稿をしないこと
・他人の権利を侵害する投稿をして、被害を受けた当人から削除、および発信者の個人情報(氏名、住所、電話番号)の開示を求められたときには、その内容が権利を侵害していると、通常認められる内容の場合には、その旨発信者に通知して、プロバイダーとして削除し、個人情報を被害者に開示することがある。その場合、発信者がプロバイダーの責任を問うことはできない。
同意を求めるのではなく、投稿のどの部分が、どのように他人の権利を侵害しているのかの説明を通知すればよい。
そして、法はこのような規約を決めることを、許可することを明確にすべきである。
他人の権利を侵害すれば、こうした扱いを受けること、そして、それに対して提訴しても、勝訴しないことを、予め規定しておくわけである。もちろん、それでも提訴する発信者はいるだろうし、逆に、プロバイダー側が、権利侵害を拡大解釈して、不当に削除したり、情報開示する場合もあるだろう。従って、削除と情報開示は、二段階にしたほうがよい。まず削除し、それでも被害者が承知せず、提訴して名誉回復する以外にない、と主張し、それに合理性があると判断した場合に、アドバイザー団体の提言を受けて、個人情報を開示する。
とにかく、総務省文書が書いているように、裁判をしなければ開示ができないような状況を改める必要があり、しかし、バランスのとれた対応策を具体的に構築する必要がある。
(以上の一般人の間の問題とは別に、最近皇室関連で、批判的な投稿がプロバイダーなり、SNS管理者に不当に削除されるという事態が相次いでいるようだ。これは、パブリックフィギュアに関する表現の自由の問題になり、また別途論じる必要がある。)