ネット上の不利益投稿をめぐる提訴 食べログの書き込みで

 今日(2020.9.12)の読売新聞(オンライン版)に、「食べログで点数下げられ、来客激減・・焼き肉チェーンが提訴」という記事がでている。首都圏のチェーン店コラボが、食べログ運営会社のカカクコムを提訴したというわけだ。食べログ側が、計算方式を変更して、チェーン系の点数を下げたために、客が月5000人以上減ったとして、売り上げ減少分の支払いを求めたということだ。調べてみると、同様の訴訟が過去にもあり、いずれも、食べログを訴えた側が敗訴しているようだ。訴訟のパターンは、点数下げられて損害が生じたというのと、希望もしていないのに勝手に、店が紹介の対象になって、点数化されているが、それを削除せよという訴えがある。
 さて、過去の裁判例を参照することで、今回の事例を予想してみよう。
 2013年に札幌地裁に提訴された例で、食べログに書き込まれた口コミで客が激減したというのが理由である。2014年9月に判決がでた。すべての訴えに関して、原告が敗訴している。判決による事実の概要によれば、当該店舗は、食べログに自ら登録していたようだ。勝手に評価の対象になっていたわけではない。提訴するきっかけになったことは、ある口コミで、食べ残しの写真が掲載されたこと、そして、「注文してから40分も待たされた」と書き込まれたことで、その削除要求をしたところ、写真は削除したが、書き込みは削除されなかったということだ。
 そして、争点は4つある。
 
(1)本件ページへの本件名称の掲載が本号(不競法2条1項2号)所定の不正
競争に当たるか(争点1)
ア 本件名称が著名な商品等表示に当たるか
イ 本件ページへの本件名称の掲載が原告の商品等表示と同一のものの使用
に当たるか
(2)本件ページへの本件名称の掲載が原告の人格権に由来する名称権等の侵害
に当たるか(争点2)
(3)原告の損害及びその額(争点3)
(4)店舗会員の会員規約による制限及び免責(争点4)(判決文による)
 
 食べログサイトは、有名な店である自分の店を不当に表示して、利益をあげている、そしてそれが、名称権の侵害であるという原告の主張に対して、全国的に有名な店でもないし、不当表示でもなく、名称権の侵害でもないという被告の主張を、ほぼそのまま認めている。
 原告の損害については、被告はまったく認めておらず、判例もそれを認定するまでもないという立場だ。
 そして、最も重要な論点は、口コミサイトに掲載された内容に関する、サイト側の責任という点だ。
 ウィキペディアによれば、食べログでは、投稿に対するルールが明確にあって、一定数の登録をしないと、そもそも掲載されない、かなり酷い評価は原則掲載しないとなっているようだ。従って、たとえネガティブな評価であっても、中傷するようなものは掲載されないとしていおり、「注文してから40分待たされた」というのが、中傷にあたるかということになるだろう。それが事実であるとしても、どういう状況で待たされたのかはわからない。非常に混雑していて、順番にさばいていって、40分かかっても仕方ない状況だったのか、どう考えても、店の不手際でそうなったのかによって、異なると思うが、一般読者からすれば、それだけ待たされるのは、不合理だ、怠慢に違いないという認識があったのだろうと受け取れる。そうすれば、やはり、行くのを躊躇する人も少なくないに違いない。だからといって、その情報が中傷かといえば、むしろ、有益な情報だと感じる人が多いような気がする。罵っているわけでもないようだから。
 実は、私も、あるレストランで非常に不愉快な思いをしたことがある。それは、出てきた料理の肉が固かったのだ。柔らかいはずの薄いポークが、あきらかに時間が経過したために、固くなっているものだった。もちろん、食べてみてわかるわけだから、食べてしまったので、取り替えを要求するのもどうかと思い、レジの時に妻が事実を指摘しただけだが、店の人はそんなことはないと、しらを切っていた。おそらく注文上のミスか何かで、一端つくった料理を出せなかったために、保管しておき、同じ注文をした私にそれをしれっとだしたのだろう。よほど実名をあげて、ブログに書いてやろうかと思ったが、そのときにはせず、数年たってから、実名なしで、事実を書いたが、食べログのことを知っていたら、書いていたかも知れない。客商売をする以上、やってはいけないことはある。客が常識外に待たされて、そのことを指摘されて、客が減少したといっても、それは賠償するようなことには、あたらないのではないかと、私は思う。食べログ側で、どのような書き込みも、そのまま掲載しているのであれば、また事情が異なるが、この場合には、サイト側でもある程度の非常識書き込みは不掲載にしているということだから、このことによって客が減少したとしても、サイト側が損害を与えたとは、私は思わない。しかも、この店は、食べログに登録していたわけだから、ある程度ネガティブに書かれることは、覚悟していただろう。
 調べた限り、食べログを提訴して、勝訴した原告は、ほとんどないようだ。今回の事例も、札幌の事例と同じ構造であるから、特段異なる事情がない限り、原告が勝訴する可能性は低いのではないか。
 もうひとつ、朝のワイドショー(土曜日テレ)で、女子プロレスラーが、リアリティ番組に関連して、ネット上で誹謗中傷され、自殺した件で、ネット規制をどうするかを議論していた。(これは別稿とする。明日)

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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