誰もが一度はやってみたいのが、プロ野球の監督とオーケストラの指揮者と、以前は言われていたものだが、オーケストラの指揮者は、かなり特異な職業だと思われる。特色のひとつは、ほとんどの指揮者が、死ぬまで現役だという点だ。功成り名を遂げて、引退して悠々自適という生活をした有名指揮者は、トスカニーニとジュリーニくらいしか知らない。引退したといっても、トスカニーニは、86歳であり、3年後に亡くなっている。ジュリーニは84歳で引退し、91歳で亡くなっている。
他の有名指揮者のほとんどは、死によって活動を停止しているのである。そして、指揮中に倒れて、亡くなった人もいる。フェリックス・モットル、ミトロプーロス、パターネ、カイルベルト、シノーポリ等々。いずれも有名な指揮者だ。指揮は非常に神経をすり減らす作業であり、静かな音楽ほど緊張するので、倒れるのも、激しい部分ではなく、静かな部分だ。