丸山の論文は、極端に言えば、すべてが日本の知的状況、日本の知識人への批判が土台になっている。彼の専門が思想史であり、思想は、広い意味での知識人の営みが中心だから、ごく自然なことといえる。そして、丸山の問題意識が、戦前の軍国主義に至った経緯と、戦後その反省から出発した知識人の状況への疑問から出ていたことも、当然のことといえる。
「近代日本の知識人」は、1977年、敗戦から約30年経った時点で書かれたものである。(当初書かれた原稿が、様々な経緯を経て修正を重ねられた事情があるが、ここでは著作集10巻所収の論文をみていく。()内の数字はページ)そして、「戦後、「暗い谷間」を過ごした知識人が、知性の王国への共属意識が呼び醒まされた」(p253)が、30年経過した時点では、「戦争直後に民主主義の知的チャンピョンとして活躍した知識人たちに対して・・・非難と嘲弄を浴びせるのが一種の流行となっている」ことに対して、その非難の不当性を指摘するとともに、知識人たちの弱点をも批判する内容になっている。