安倍元首相狙撃の考察14 山上の犯人性を疑うのは陰謀論?

 安倍元首相の国葬の前後には、狙撃に関する話題がいくつかでた。そのなかで、真犯人についての疑いを「トンチキ陰謀論」と決め付ける文が掲載され、すぐにコメントしようかと思ったが、あまりに馬鹿げているので見送っていたところ、そうしたナンセンスな文章ではないが、狙撃検証記事が毎日新聞に掲載されたが、これは逆になんら問題意識の感じられない文章であったので、両方を検討することにした。
 まず「「銃撃された安倍晋三は偽物だった」「真犯人は別にいる」…なぜ、トンチキ陰謀論に人はまんまとはまるのか」という文章で、掲載は9月27日、筆者は「黒猫ドラネコ」というハンドルネームのひとである。

 この文章については、事実を見きわめ、そこから確かなことを引き出し、考察する能力とは何かを考えさせる、反面教師的な文章といえる。主張を整理しておく。
・動画をコマ送り銃声と速度を分析し、山上の銃では無理と結論づけたり、病院や警察発表と銃弾の入射角度に矛盾が、などと推論する。
・根拠が薄い、陰謀論だという指摘を受けると、仮説や検証することさえだめなのかと開き直ったり、余計に依怙地になっている。
・統一教会から目をそらしたいという思惑がすけてみえる。
・惨事映像をみて、現実を受けとめきれなかったことによる認知の歪みだろう。
・誰も認識できない場所から、ゴルゴ13のように正確無比に撃ち抜いたひとがいることになる。そんな人物を逮捕できるわけがない。
・そういう陰謀論のひとは、反ワクチン、統一教会・ロシア擁護だ。
 以下陰謀論への氏の総括的な考えが書かれているが、それは省略する。
 
 この文章を見ると、陰謀論を追いかけているということだが、ちょっと多数派の見解と異なる、かなり独創的な見方を、すべて陰謀論で片づけ、自身は合理的な疑いをもたないひとなのか、とも思えてくる。最初の主張を陰謀論とすると、動画にみえる不自然さと、病院と警察発表の矛盾をまったく認めないのだろうかと、不思議な感情を逆に抱いてしまう。病院の発表と「司法解剖」の結果とされる見解とは、まったく矛盾していることは、誰が読んでも明らかなのだ。それを「矛盾だと推論する」として、一刀両断してしまうということは、これほど明白な矛盾を見抜けないことになる。
 病院発表では、右側の上方から首筋を撃たれたことが示され、司法解剖(警察)では、左の下方から撃たれたことを示している。これは絶対に両立しない見解であり、どちらかが間違っているか、嘘をついているのである。山上犯人説に疑問を呈しているひとたちは、ほとんど全員が、「病院側は嘘をつくはずがないし、そうする利害もない。しかも、20人の病院関係者が治療にあたり、その人たちがみている場での発表である。それに対して、司法解剖は、正規の手続きではなく、しかも、極めて短時間に行われた(行われたとして)。そして、司法解剖の説明は、山上が犯人として逮捕されており、しかも自供しているから、辻褄をあわせた可能性が十分に考えられる。だから、病院発表が正しい」と考えているのである。病院発表が正しいとすれば、犯人は山上ではないことになる。それは子どもでもわかる理屈だ。もちろん、それも絶対的ではないが、少なくともふたつの重要発表が両立しない以上、そこに疑問を呈するのは当たり前であり、疑問をもたないのだとすれば、思考力を疑わざるをえない。
 
 上記3番目は、文の筆者自身が、陰謀論めいた推論をしている。山上が犯人でないというひとは、反ワクチン、統一教会支持、ロシア擁護なのだそうだ。私は、山上が犯人であることに疑いをもっているが(犯人グループの一員、協力者であることは間違いない)ワクチンは3回うったし、統一教会への強い批判者であるし、絶対的ウクライナ擁護派である。
 離れたところから、正確無比に撃ち抜くことなどできるはずがない、というような書き方であるが、100メートル以上離れたところから、ピンポイントで正確に撃ち抜くことは、現代の銃では十分に可能である。しかも、安倍氏はほとんど動いていないのだから、それほど困難でもなかったろう。可能性を完全に否定することのほうが、よほど現実を知らないというべきだ。
 
 さて、この文章は、どの程度読まれているのかわからないが、次の毎日新聞の記事は、陰謀論非難などとは関係ない文章で、冷静に書かれているようにみえるが、警察発表を疑いもなく受け入れて、それを前提にしている点で問題が大きい。「事件がわかる 安倍晋三元首相銃撃事件」と題する9月8日に更新された記事である。
 この記事は、事件を時系列で忠実に追ったものだが、安倍氏の銃撃については、司法解剖による判断を簡単に紹介しているだけで、医師たちの発表はまったく無視されている。そして、銃撃された場面が、撮影された位置の違う複数の映像や画像でみられるのはいいのだが、肝心の銃撃された場面は、みなカメラが乱れて、何も写っていないようなものばかりだ。安倍元首相が撃たれてうずくまる場面も写っている映像があるのだから、なぜそれを使わないのか。更に、山上を含めた人物関係を人形のよう形を使って、移動などを説明しているのだが、2発目をうたれた安倍氏の位置が、完全に間違っている。山上は後から撃っているのだが、2発目のときには、安倍氏は、何が起きたのかと、左を向いているために、側面から銃撃されている。だが、毎日新聞の図では、安倍元首相は山上に対して後を向いている。細部に拘っているような紙面なのに、こうした間違いはどういうわけだろうか。
 
 ケネディ暗殺は、いまでも真犯人がわからない。そして、事実を調査した委員会の資料は、アメリカの資料公開の期限をとっくに過ぎているのに、いまだに公開されていない。しかし、オズワルドが犯人だと思っているひとは、かなりの少数派のはずである。
 それに対して、日本では、かなりの疑問があるのに、厳密な調査が行われているようには見えない。それについては何度も書いたので繰りかえさないが、ただ、ケネディ事件より、事実解明の可能性があるのは、おそらく裁判が開かれることである。まさか、責任能力がない、あるいは証拠不十分での不起訴などはないだろう。弁護士の方針にもよるが、無罪を主張して、検察の証拠を徹底的に検証することもありうる。そうなることを期待したい。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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