ウクライナ情勢の急展開

 ウクライナ情勢が、まったく予測できないような事態に転換している。ここ一カ月のウクライナによる反転攻勢への、ロシア流の反撃が始まったということだろう。
 きっかけは、クリミア大橋の爆破事件だが、どうやら、これは単なる口実で、既に以前からロシアは準備してきたと考えられている。つまり、最悪のシナリオとして、核攻撃のための準備として、飽和攻撃を行い、ウクライナの防空システムの調査をするために、ウクライナ全土にミサイル攻撃をしているという見方もある。飽和攻撃とは、最大限のミサイル攻撃を行って、敵の防御能力を確認し、防御能力の弱いところに核攻撃するための準備的攻撃のことだという。それをしたとすると、準備期間が必要だから、クリミア大橋の爆破に対する報復攻撃ではないことになる。クリミア大橋の爆破は、ロシア、あるいはプーチンの得意な偽旗作戦、自作自演の可能性が高くなる。口実作りだ。

 爆破のあとの、ウクライナの反応もまずいなあとは思っていた。もし、ウクライナがやったのではないとしたら、明確に即座の否定すべきであったが、どちらとも取れるような反応だったことと、ウクライナ市民の喝采が報道されたりした。もちろん、自作自演だったとしたら、ウクライナの反応など気にしてはいないだろうが。
(佐藤優氏は、7月に「このままでは第三次世界大戦になる…佐藤優が注目する「クリミア大橋」と「リトアニア」という2大リスク」という文章で、ウクライナがクリミア大橋を必ず攻撃すると、ウクライナ側が断言していたことと、そうなると第三次世界大戦になると警告していた。今回の爆破については、私の知る限り、佐藤氏はまだ見解を公表していないが、7月に断言していたのに、何故今になってという疑問が残る。というのは、既に、空港や弾薬庫など、クリミアの施設や戦闘機を攻撃して、かなり被害を与えているのだから、その時期にクリミア大橋を攻撃したほうが、効果的だったはずである。アメリカが、ロシアの報復を恐れて、ウクライナに待ったをかけたという可能性もあるが、それなら、何故、今の時期に許したのか、あるいはアメリカは反対していたのに、ウクライナが断行したのか。佐藤氏の見解をまちたい。https://president.jp/articles/-/59806 )
 
 もうひとつ、ロシアからヨーロッパに天然ガスを送るパイプラインが爆破される事件が起きている。プーチンは欧米のテロだと述べているというが、国際社会はロシアの自作自演だという見解がほとんどだ。そもそも、EU側には、破壊するメリットが何もない。プーチンが売ろうとしているのに、買わないのであれば、ヨーロッパとして、買わなければよいだけだし、買いたいのであれば、破壊したら買うことができなくなる。ロシアにしても、破壊するメリットがあるわけではない。売らないのであれば、売らなければよいし、売りたいのであれば、やはり、破壊したら売れなくなる。つまり、どちらにしても、メリットはないわけだから、そうした姿勢を断固示すことに意味を見いだすとしたら、それはやはりロシアの側が、もうヨーロッパには売らないという脅しをかけたとみるべきだろう。
 しかし、ロシアがやったからといって、プーチンの命令とは限らない。ロシア内の強硬派が、プーチンのやり方が生ぬるいという不満をもって、より本格的な戦争体制を組め、と圧力をかけていることを考えれは、ロシア内強硬派が、プーチンに覚悟をせまる意味で、パイプラインの破壊をした可能性もある。クリミア橋も、同じようなことではないだろうか。そうした強硬派に押されて、ウクライナ全土へのミサイル攻撃に踏み切ったということだろう。
 
 ウクライナ全土へのミサイル攻撃によって、戦争はまったく新たな局面に突入したといえる。正直、まだこれだけのミサイルが残っていたのか、というのも驚きだったが、プーチンの徹底的な残忍さにも驚かされる。残忍な独裁者は、残忍な方法で殺害されるのは、歴史のパターンである。そうならなければ、戦争は終わらない可能性すらある。
 問題は、アメリカとNATOがどのような対応をするかだろう。G7の緊急会議が開催されているが、まだ明確な対応は公表されていない。ただ、ドイツが最新の防空システムを急遽供与する、そして、すぐに発送すると表明した。当初消極的であるといわれていたドイツは、最近ウクライナ支援に本腰をいれつつある。プーチンに理解を示すかも知れないと言われた、イタリアのメローニ新首相も、ゼレンスキーへの協力を約束している。プーチンが目論んでいる欧米の足並みの乱れは外れ、逆に結束が強まっているといえる。
 強力な防空システムをより多く、そして、より射程の長いミサイル弾を供給することで、ロシア軍の崩壊の時期を早めることができる支援が必要であることは、了解されているだろう。大方の人々は、アメリカ、NATOの「負けない程度の武器」を供与する段階は、このミサイル攻撃によって、通り越したと考えているに違いない。ロシアがミサイルの在庫をすべて引き出して、使用すれは、ウクライナ全土が廃墟になってしまう危険性すらある。
 あるいは核を使った場合。
 アメリカは核を撃ち返すことはしないと明言しているに等しい。おそらく、ロシアが核兵器を使えば、アメリカとNATOはウクライナを直接防衛する形で参戦し、その際、核を使わなくても、ロシア軍を速やかに、かつ徹底的に叩くことができるという自信をもっているのだろう。核を使うことは、第三次世界大戦になるという危惧も確かにあるだろうが、私は、唯一の核使用国であったアメリカは、国内では、必要だったという認識が強いとしても、国際的には批判の対象であった。報復的であったとしても、核兵器を再度使えば受ける、国際的批判の不利益を考えているように思う。プーチンが躊躇しているのは、アメリカの報復への恐れだけだが。しかし、ウクライナを廃墟にしてしまえば、ウクライナが敗北することになり、アメリカは、ウクライナの敗北は絶対に避ける措置をとる。
 
 ウクライナ全土へのミサイル攻撃で、ウクライナ人が怯むことは考えられず、結局欧米のウクライナ支援をより引き出す結果となり、プーチンの没落を早める結果となるに違いない。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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