山口県教育委員会が、国葬当日に国旗と県旗を、通知に反して、半旗にしていなかった県立学校の校長は処分の対象になりうるという認識を示したと、朝日新聞が報道している。しかし、実に奇妙な内容だ。
教委は、各校が半旗にしたかどうかは調べる予定がないといい、永岡文科相は、調査しないから処分はされないと述べている。もちろん、処分されないとしても、その権限を示したことは、実に重大な問題だ。今は調査をしないといっていても、もちろん、半旗にすべきだという住民や政治家たちがいるから、彼らが運動して調査させる可能性はある。そうすると、その力に押されて調査が行われ、処分せざるをえない状況がつくられることになる。また、永岡文科相は、半旗を義務づけないという内閣の方針があるにもかかわらず、それについて触れるのではなく(触れていて記事に書かれていないだけの可能性もあるが)、調査しないのだから、処分もされないので、問題ないなどと逃げている。こういう場当たり的なことしかいわない文科相や教委が、現場をよい方向にリードすることは、まずしないのである。
より大きな問題は、教委の説明にある。
「県教委の担当者は6日、国葬に反対する市民団体とのやりとりのなかで、県教委は県立学校の管理機関であり、校長は施設管理者に当たるため、県教委は校長に指示できる▽正当な理由なく半旗を掲げなければ職務命令違反に該当し、処分対象になる――と説明した。一方で、各校が半旗にしたかどうか調べる予定はないとしている。」
これは、1950年代から60年代にかけて、文部省がとっていた「特別権力関係論」に相似の論理である。もちろん、特別権力関係論は、その後否定されている。特別権力関係論の内容のひとつに、「法律の根拠がなくても、支配者に包括的命令権・懲戒権が与えられる」ということがあるが、この論理を採用しているということになる。(特別権力関係論については https://foetimes.com/1713/ 参照)
教育委員会の権限を定めている「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」にも、そして、その施行令にも、国旗に関する定めはない。つまり、教育委員会には、学校に対して、国旗を半旗にさせる権限は、少なくとも法としては存在しないのである。それが命令できるとすれば、特別権力関係論に依拠していることになる。
第二の問題は、管理機関だから、職務命令を出せる、そして、それに違反した場合には、処分できるとしていることである。もちろん、管理機関だから職務命令はだせる。しかし、命令がだせる領域は、ルールに決まっている場合である。「山口県立高等学校等の管理に関する規則」にも、国旗の記述はない。更に、教育行政においては、指導と監督は厳密に区分されており、職務命令をだせるのは、教育内容に関することを除いた部分である。国旗と半期については、教育内容であるか、そうではないかは、微妙な点もあるが、少なくとも、国旗と国歌を定めた法律が制定される際に、強制してはならないという「答弁」があったことは、記録に残されており、強制が良心の自由に抵触することがあることを認めている。そして、今回の国葬については、国会での議決等を経ることなく、行政機関である閣議決定のみに基づいて、しかも、国民の過半数が、いかなる世論調査でも反対していた行事であるから、国旗を半旗にせよ、という命令が、許される職務命令には該当しないと解釈するのが妥当であろう。だからこそ、「調査はしない」などといって、ごまかしているのだ。
教育行政は、特に地方教育行政機関は、監督と指導の区別を厳密に守る姿勢を堅持しなければ、教育を混乱させ、現場を萎縮させることになる。
朝日新聞の記事
https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%E5%B1%B1%E5%8F%A3%E7%9C%8C%E6%95%99%E5%A7%94-%E5%9B%BD%E8%91%AC%E3%81%A7%E5%8D%8A%E6%97%97%E6%8E%B2%E3%81%92%E3%81%AA%E3%81%8B%E3%81%A3%E3%81%9F%E6%A0%A1%E9%95%B7-%E5%87%A6%E5%88%86%E3%82%82-%E3%81%9F%E3%81%A0%E3%81%97%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%81%AF%E3%81%9B%E3%81%9A/ar-AA12QM36?cvid=3766540ef3954c13b71b36428d91b2b5