松竹氏除名の大きすぎた影響

 松竹氏除名の波紋はまだ収まらない。というより、ますます拡大している。朝日や毎日の社説に志井委員長が噛みついたのが、メディアの反感を買ってしまったように思われる。その後、様々なメディアが、扱い始めた。
 松竹氏除名の反応は、大きく分けてふたつあった。ネット上の意見などをみれば、はっきりわかる。
 最も多いのは、もともと共産主義は独裁制であるという認識をもっているひとたちは、「それみたことか」と溜飲を下げたような反応である。共産党が嫌いなひとたちが、ますます嫌いになり、自分の見解が正しかったことを再確認したということだ。
 それに対して、共産党に共感をもっていたり、部分的にせよ支持していたひとたちは、大きな衝撃を受け、これまでの支持を捨てる方向に向かったひとたちである。

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トロバトーレを聴く

 トロバトーレは、最も好きなオペラのひとつだ。最近は、一人の指揮者が同じオペラを、何度も録音・録画するが、以前はオペラの全曲録音はかなり大変な作業で、カラヤンやショルティでも、複数回録音したオペラは少ない。しかし、カラヤンはトロバトーレを4種類出している。ミラノ・スカラ座とのモノラル(主演はマリア・カラス)、ベルリン・フィルとの録音(レオタイン・プライス、ボニソッリ、カプッチルリ)、ウィーン・フィルとの録画(ドミンゴ、カプッチルリ)、そして、カラヤンとしてはめずらしいザルツブルグライブ(プライス、コレルリ)だ。最後のライブは、カラヤンが正式にセッション録音したわけではないが、生前から市販されており、かつカラヤン・コンプリート、オペラ集にも入っているから、発売そのものは認めていたのだろう。他には4回というのは、バラの騎士くらいだろう。

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五十嵐顕考察4 教育費を考える3

 五十嵐氏の教育費分類の2番目が、「社会的に組織された教育費」である。
 正直なところ、氏の「社会的に組織された教育費」という概念は、理解が難しい。それは、概念的な分類と歴史的な位置づけとが重なり合っているからである。
 特定の階級による教育費が、氏のいう「社会的に組織された教育費」であるが、これが、国家が関与するようになると「国家的に組織される教育費」つまり「教育財政」として扱われることになる。
 具体的に、あげられている「社会的に組織された教育費」としては、
・アメリカの town school, district school, イギリスの parish school
だが、これは、地域に限定された学校で、かつそれが国家的制度に組み入れられる前の形とされる。このような地域に限定された学校、しかも階級的性質を帯びているとされる学校を、様々な地域、国の状況を踏まえつつ、ひとつの概念にまとめることは、かなり混乱を招くように思われる。

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パリ五輪へのロシア参加問題 拒否すべき

 ウクライナのゼレンスキー大統領が、来年のパリオリンピックで、IOCがロシア選手の「中立」を条件の参加を認める方針を出したことに対して、ロシア選手を参加させるべきではない、と国際社会に訴えた。そして、それに対して、ロシア側が反対声明を出している。
「「受け入れられない」 ロシアが五輪除外の呼び掛けに反発」(URLは文末)
 
 この問題をどう考えるか。
 オリンピックには、ふたつの原則めいたことがある。ひとつは、「政治を持ち込まない」ことであり、他は「オリンピックは平和の祭典」ということだ。しかし、周知のように、このふたつの原則は、相反することがしばしばある。政治的メッセージを、なんらかの形で発した選手が非難されることがあるが、他方、そうしたメッセージは人権抑圧への抗議であることが多く、共感や支持が寄せられることもある。また、モスクワオリンピックは、ソ連のアフガニスタン侵攻に抗議して、西側は多くがボイコットした。
 
 平和の祭典に関しては、実はオリンピックは3回中止になっている。

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高騰する電気料金を考える

 電気料金の値上がりが、テレビなどでもずいぶんと取り上げられている。羽鳥モーニングショーでも、何度か扱われている。そのなかで、それは大変だろうなという事例がたくさん取り上げられていた。しかし、ちょっと待て、という例がないこともない。
 個々の家庭では、自衛手段しかないのだから、どうやって電気料金を抑えるかの工夫が必要である。何に違和感をもったかというと、電気代がこんなに高かったという家庭の様子が紹介されていたのだが、子どもたちがまるで夏のような薄着で過ごしていたことだ。あの服装だと、室温をかなり高く設定しているのだろう。暖房の設定温度を1度下げるだけで、かなりの電力の節約になると言われているのだから、そういうことをもっと考慮して、生活したらどうかと思ったわけである。

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松竹氏除名から、民主集中制を考える3

 今回は、次の規約について検討する。
 
2 決定されたことは、みんなでその実行にあたる。行動の統一は、国民に対する公党としての責任である。
4 党内に派閥・分派はつくらない。
 
 2の項目は、どんな組織でも当たり前のことで、自民党でも、この点についての異論はないに違いない。Aということを決定したのに、Aに反する行動を、ある党員がとったら、それは処分に値いするだろう。
 しかし、考えねばならないのは、いわゆる「民主集中制」と言われてきた原則は、第一回で紹介したように、「下部は上部の指導に従う」と理解されてきた。事典などでの説明でもそうなっている。そして、全国的、あるいは国際的な課題については、全国的なレベルの組織でのみ扱うことが規定されている。このふたつの原則を組み合わせると、自衛隊、安保条約、ウクライナ支援、そして、党首公選問題などは、支部では扱わないことになる。従って、支部にしか所属していない党員は、こうしたことについては、中央で決定したことに従うことが求められる。所属のところでは議論できないわけである。少なくとも、規約を見る限りではそうなる。

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松竹氏除名から、民主集中制を考える2

 再度規約3条を引用しておく。
 規約3条
党は、党員の自発的な意思によって結ばれた自由な結社であり、民主集中制を組織の原則とする。その基本はつぎのとおりである。
1 党の意思決定は、民主的な議論をつくし、最終的には多数決で決める。
2 決定されたことは、みんなでその実行にあたる。行動の統一は、国民に対する公党としての責任である。
3 すべての指導機関は、選挙によってつくられる。
4 党内に派閥・分派はつくらない。
5 意見がちがうことによって、組織的な排除をおこなってはならない。」
 
 今回は、1の「民主的議論」と「多数決」について考える。

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松竹氏除名から、民主集中制を考える1

 この間、松竹氏除名問題に関連して、いろいろと考えてきたが、民主集中制についてもう一度考えてみたいと思った。ヤフコメなどを見ても、民主集中制については、独裁の元凶であるという理解が圧倒的に多い一方、共産党は、優れた民主主義的な組織論であるとしている。
 かなり前のことだが、自民党のある有力議員が、民主集中制について、「極めて当然のことで、それを実行できている共産党がうらやましい」と語っていたことがある。自民党にとっても、当然の原則であるというのである。こうしたひとつの原理に対して、民主主義を肯定する立場から、まったく逆の立場が存在し、自民党と共産党が、表面的には、当然視しているという事実。これは、やはり、深く掘りさげる必要があると思うのである。
 ブリタニカ(https://www.britannica.com/topic/democratic-centralism )やウィキペディアなどの辞書的説明では、共通して、ロシア革命のなかで、レーニンによって定式化された原則で、中央が統制するシステムであるとし、下部は上部の指導に従うことを強調している。しかし、レーニンが定式化したのは、100年も前のことであり、レーニンの組織論は、帝政ロシアの弾圧下、そして、革命後も外国の干渉との闘いという、当時のロシアの政治状況のなかで主張されたものである。現在の日本の状況とでは、政治状況が大きく変わっているだけではなく、民主主義のあり方や民主主義の考え方も大きく変わっている。

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党首公選を訴えた松竹氏が除名? 訴訟に訴えたらどうなるか考えてみる3

 除名理由の後半を考察する。残っているのは以下の通り。
ウ 安保条約の廃棄、自衛隊の段階的解消など、綱領に基づく政策を「ご都合主義」と攻撃している。
エ 我が党を個人独裁的運営とする鈴木元氏の本の出版を急ぐように働きかけた。これは党攻撃のための分派活動である。
オ 党内で自身の主張を述べたことはないことを認めている。
 
ウ 安保条約と自衛隊の位置づけは、誰もが感じているように、日本共産党にとっての最も困難な政策領域である。日本国憲法が審議されているときに、共産党は反対の立場であったことは、よく知られていると思う。その理由は、9条にあった。軍隊をもたない国家などありえないという、ごく常識的な理由からだった。天皇制についても反対理由の大きな部分を占めていたが、その両方に関して、その後大きな転換があった。これまた周知のように、共産党は最も強固な護憲政党であって、9条を絶対的に正しいとし、自衛隊の意見説を原則的には変えていない。その帰結として日米安保条約は廃止としている。

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党首公選を訴えた松竹氏が除名? 訴訟に訴えたらどうなるか考えてみる2

 あくまでも仮定の話として、松竹氏が処分取り消し訴訟を起こしたら、どうなるかを考えてみよう。
 まず、処分理由を整理しておく。以下に処分文書の全文が掲載されている。
 
ア 本来職場支部で処分が検討されるが、松竹氏が全国メディアや記者会見などで公然と党攻撃をしている「特別な事情」に鑑み、職場支部の同意のもと、南地区委員会常任委員会として決定した。
イ 松竹氏は、「党内に存在する異論を可視化するようになっていない」「異論を許さない政党だとみなされる」党首公選制は派閥・分派をつくらないという民主集中制と相いれないが、事実を歪めて党を攻撃している。

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