死亡したスリランカ女性の映像公開を法相が問題視

 「ウィシュマさん映像公開を問題視 斎藤法相「勝手に編集し提供」」という記事があり、前々から気になっていたこの件について、少し考えてみた。
 事件は、2021年3月6日に、名古屋入管に収容されていたスリランカ人の女性が死亡したというものだ。1月ころから、体調の不良を訴えたが、満足に医療機関にかけず、死亡させたとして、入管が当初から批判され、遺族が、国を訴えた。当初不起訴になったのだが、検察審査会で起訴が決定し、裁判の準備が進んでいる段階だが、弁護団が、映像を編集して、公開したというものだ。
 
 コメントも多数でており、弁護団を支持するものもあるが、多くは、むしろ入管のやりかたが手ぬるいという、一見ネトウヨ的にみえる見解が多いように感じる。大手メディアの報道では、確かに入管の手落ち的な報道がほとんどであるが、単純にそうもいえない面があるように思う。

 まず、この女性は、2017年に、「留学」ビザで来日し、日本語学校に通っていた。しかし、間もなくあまり授業にでなくなり、1年後には、除籍されている。法を厳格に執行すれば、この段階で帰国しなければならないことになる。しかし、その半年後に「所在不明」とされ、そして、更に1年半後、同居の男性からの暴力から逃れるために、交番に駆け込んだところ、不法在留容疑で逮捕され、名古屋入管に収容されたというわけである。それが20年8月のことだ。ここまでを見る限り、なんと日本という国は、緩いのだろうと思うひとは、少なくないのではないだろうか。もちろん、留学生を安易に引き受ける日本の学校にも、大いに問題がある。ただ、この日本語学校が、どこかは、私の調べた新聞では書かれていないが、出席していないので除籍にしている。留学ビザの学生が除籍になれば、在留資格がなくなるのだから、その旨届ける必要があるし、本人も、法を守る意識があれば、そのまま帰国するだろう。しかし、収容されるまでは、本人はまったく帰る意思がなかったようだ。そして、不法滞在を続けている。男性と同居していたことでわかる。しかも、DVを受けて、助けてもらうために、交番に駆け込んだということで、不法滞在であることがばれてしまった。
 
 この件に関して、新聞等のメディアに登場する知識人は、DVを受けているのだから、守ってあげる必要があるではないか、といっているが、DVしているひとを逮捕するのは納得いくが、不法滞在している女性を収容することも、警察としては当然のことだろう。既に、2年も不法滞在しているわけだ。これを見のがして、DVから守ってあげべきだというほうが理解しがたい。入管の収容も、ある意味保護には違いない。
 そして、次に疑問なのが、当初は帰国する意思があったようだが、読売新聞には、「支援者との面会を機に、帰国希望を撤回」とあり、その後仮放免申請を提出しているが、認められず、その後体調不良を訴えるようになる。この支援団体というのが、よくわからない。最初の記事へのコメントには、「怪しげな団体」などと書いているひとも多い。確かに、不法在留しているひとを支援して、出られるようにしてあげようということで、仮放免申請を助言にしたがって提出しているわけだ。しかし、収容施設を出て、どのようにさせようとしているのだろうか。明確に不法滞在であるわけだ。滞在資格を国が決めるなどということそのものがおかしいのだ、というような見解で行動している団体なら、極めて問題がある。本人も帰国する意思があったのだから、わざわざ仮放免など申請する必要はないわけだ。
 そして、記事へのコメントでは、この団体が、ハンストを勧めたと書いている。それは、報道記事では確認できなかったが、刑務所だって、きちんとした食事をだすのが、日本なのだから、入管の施設で、不当に抑圧をするとは思えない。すると、支援団体がハンストを勧め、そうすれば、医療にかかって、仮釈放をとりやすくなる、というようなことをいった可能性は十分にある。もちろん、断言はできないが、単純に起きたことを考えてみると、十分にありうることだ。
 
 もうひとつ分からないのは、スリランカの家族だ。17年に来日して、21年に死亡するまでに、4年間もある。1年間で学校をやめていることは、当然連絡を受けているはずだから、そのあとは、滞在できないことも知っているはずである。そして、入管施設に収容されていることも知っているはずである。何故、帰国させなかったのだろうか。
 
 日本の入管が、りっぱな対応をしているかどうかはわからないが、不法滞在者を収容しているのだから、恵まれた環境でやさしく対応する、というわけにもいかないだろう。
 きちんとした資格で、日本に滞在し、働くというひとは、決して差別なく受け入れるべきだと思うが、資格をもたずに滞在しているひとは、原則的に帰国させるのが妥当であると考えざるをえない。不法滞在は、まともな職にはつきにくいから、(就けるとしたら、それもおかしなことだ)どうしても、犯罪者になりがちである。あるいは、犯罪集団の犠牲になる場合も少なくない。いずれにしても、先進国で、不法滞在を歓迎する国などないだろう。
 
 まだまだ不可解な面がたくさんあるようだ。メディアは、この事件の真相を深く取材して報道してほしいものだ。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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