国際社会論ノート 『従軍慰安婦』吉見義明、『ひと目でわかる慰安婦問題の真実』本間政憲を読んで

 「国際社会論」で、国際人権を考える例として、慰安婦問題を扱うことにしたので、いろいろと読み直したり、まだ読んでいない本を読んだりしている。「国際人権」を一回取り上げることにしているが、毎年具体的対象を変えて考えており、今年度が最後なので、「主戦場」をみたこともあり、史上最悪の日韓関係と言われる要因のひとつである「慰安婦」を取り上げようと思った。しかし、調べれば調べるほど、また考えれば考えるほど、難しい問題だ。単なる「歴史」問題、人権問題ではなく、政治、情報戦争でもある。そして、完全に対立し、冷静な議論ができない状況でもある。対立の双方の意見を丁寧にインタビューして、交互の見解を提示する形の映画を作成したら、一方から提訴がなされてしまう。下手に意見表明もできないような雰囲気もある。
 このふたつの本は、慰安婦問題の双方の立場を代表するもののひとつであろう。そして、それぞれが、重要だと位置づけている「一次資料」を豊富に使って書いているのだが、その一次資料が全く異なる。 “国際社会論ノート 『従軍慰安婦』吉見義明、『ひと目でわかる慰安婦問題の真実』本間政憲を読んで” の続きを読む

台風通過中

 一昨日くらいから台風19号のニュースをずっとやっていて、昨日からは、土曜日(今日)は外出するなというアナウンスを繰り返していた。幸い、外出しなければならない用事はないので、ずっと家にいる。そして、ずっとNHKの台風情報をみながら、仕事をしている。
 狩野川台風以来とさかんにいっているが、私が小学生のときに狩野川台風があった。東京に住んでいたので、今でもよく憶えている。約1200人が亡くなったわけだから、本当に酷い台風だった。小学生だったので、自治体や国がどのような対策をとっていたかとか、テレビがどのように注意を呼びかけていたか、というようなことは、まったくわからないし、記憶にない。記憶にあるのは、台風がくるというので、窓を守るために、木材を買ってきて、窓枠を守るために木材を打ちつける作業を、家族でやったことだ。当時はアルミサッシではなかったので、多くの家でそうした作業をしていたように思う。私は、世田谷区に住んでいて、まわりで大きな被害はなかったと思うが、いろいろな場所で川が氾濫して大きな被害になった。
 今回の台風19号も、まだまだ被害が起きるだろうし、通過後数日間も要注意だが、それでも、狩野川台風のときと比較すると、日本の防災対策もずいぶん進んだのだという実感がある。 “台風通過中” の続きを読む

愛知トリエンナーレ問題4 内容への口出し

 奥村氏の「支援するが内容に口出ししない」という問題をどう考えるかという点が残った。これまで、主に毎日新聞の記事を参考にしていたので、バランスをとるという意味ではないが、産経新聞の「表現の不自由展その後」に関する記事をまとめて読んでみた。奥村氏の見解と正反対なのが、八木秀次氏の「表現の不自由展 公的空間での展示の線引き必要」(産経新聞2019.10.8)という記事である。
 八木氏は、そもそもこの企画そのものが問題だ、という立場であり、更に以下のように述べる。

 「芸術については、たとえ主催自治体のトップであっても『中身についての議論はしてはいけない』『金だけは出せ』というような風潮が一部にあるようだが、多額の公金を使ったイベントで、芸術といえども表現の自由において特権的な地位はない。」

 奥村氏と八木氏とでは、どちらが正しいのだろうか。 “愛知トリエンナーレ問題4 内容への口出し” の続きを読む

化学物質過敏症で通学困難な生徒

 今日のHarbor Businessに「学校に通いたい……教室に充満する過剰な「香り」で化学物質過敏症に苦しむ女子高校生」という記事が出ている。化学物質過敏症に罹患している女子高校生が、生徒たちが使っている様々な化学物質で処理した服などの香りで、目眩、頭痛、過呼吸などを引き起しているので、母親が、クラスの保護者に丁寧な事情説明の手紙をだして、原因となる柔軟剤や合成洗剤などを控えるようにお願いしたところ、そのクラスでは協力的で改善されたのだが、学校全体としては取り組まれていないし、また、通学途上の交通機関で体調が悪化するという事態になっている」という記事である。
 この化学物質過敏症は、診断が難しく、他の病気と間違えられやすく、また、病気と認めないような医師もいるのだそうだ。診断ができる病院が全国的に少数で、正しい診断と治療をしないために、どんどん病状が悪化する事例が多数あるという。ある調査によれば、可能性の高い人が全体の0.74%、可能性のある人が2.1%なのだそうだ。正確な診断が難しい病気なので、ウェブで調べる限り、書いている人たちによって数値が異なるのはやむをえないが、可能性が高い人0.74%というと、大雑把にいうと、300人いれば2人はいることになる。高校などは、通常1000人近くいるわけだから、7名程度の人が該当する計算になる。 “化学物質過敏症で通学困難な生徒” の続きを読む

キャンプで行方不明、大人たちの安易な計画ではなかったのか?

 山梨県道志村「椿荘オートキャンプ場」で、行方不明になった小学一年生の当日の経過が、両親によって明らかにされた。毎日新聞掲載の内容をそのまま引用する。

21日午前
9時    一緒にキャンプするメンバーの一部が到着
  午後
0時15分 美咲さんと母、姉がキャンプ場に到着
1時    昼食後、子供たちがテントを張った広場近くで遊ぶ
3時35分 おやつを食べ終えた子供たちが沢に遊びに行く
  40分 美咲さんが後を追いかけて行く
  50分 大人が子供たちを迎えに行く
4時    美咲さんがいないため、捜し始める
5時    日没が近づき警察に通報
6時    警察官が到着
8時    子供たちを寝かせ、大人は捜索を継続
22日午前
1時30分 仕事を切り上げた父が到着。3時まで捜索を続ける “キャンプで行方不明、大人たちの安易な計画ではなかったのか?” の続きを読む

大学入学共通テストの延期要請から、考えてみる

 現在行われているセンター試験に代わって、来年度から「大学入学共通試験」が導入されることになっている。最初に、大学入試センターの試験は、「共通一次試験」という名称だったから、「共通」が復活したわけだ。何が「共通」なのかは、正確にはわからない。というのは、少なくとも私立大学の多くが参加するが、義務ではないし、私立大学の場合には、センター試験は、おそらく別枠になっていると思われる。当初、センター試験の改革案として、大学に入学する者全員が受けなければならない「資格試験」という構想もあった。それが採用されていれば、明確に「共通試験」だったと思うが、採用されなかったので、率直にいって、「共通」の意味はよくわからない。
 それはさておき、大きな改革点は、国語と数学に記述式問題が導入されることと、英語に民間検定試験が採用されるという点だろう。問題の作成理念として、考えさせる問題を含むというようなことが解説されているが、およそ問題を作成するときに、まったく考えなくてよい問題など意図しないのだから、これは、大きな変更点とはいえない。 “大学入学共通テストの延期要請から、考えてみる” の続きを読む

グレータ・トゥンベリの国連演説への非難は的外れ

 昨年から気候変動への対応策があまりに不十分だとして、学校ストライキを始め、それが国際的に運動を引き起こしたグレータ・トゥンベリさんが、とうとう国連の会議に招待されて演説をした。彼女を招待した会議主催者に敬意を表したいし、それを評価する人たちが多いが、なかには、様々な批判をする人たちもいる。
 まずは、Foxニュースのコメンテーターだったマイケル・ノウルズ氏である。氏は、彼女のことを「精神的におかしい」と誹謗して批判が集中し、担当を解任されてしまった。さすがに、大きなメディアでここまで露骨に批判する人はほとんどいないが、ネット上の個人レベルの発信では、多数似たような非難がある。
 精神的におかしいという非難に対して、グレータ自身は、自分はアスペルガーであると公表し、アスペルガーであることで、逆に物事をあいまいにではなく、真正面からみて、それを素直に表現できるのだと返している。見事な切り返しだといえる。 “グレータ・トゥンベリの国連演説への非難は的外れ” の続きを読む

愛知トリエンナーレから考える2

 愛知トリエンナーレにおける「表現の不自由展 その後」の中止を検討する委員会が発足し、議事録が公開されている。準備の問題や運営の問題、そして、責任等について議論されているが、そうしたことは、様々に議論されているので、ここでは、別の点について考えたい。それは、慰安婦を描いたとされる「平和の少女像」を、批判する人たちが、それを見たことがあるのかという点である。おそらく、韓国やアメリカで実物をみたことがある人以外は、みたことがないに違いない。日本には、展示されていないはずだから。
 こうしたことは、実は少なくないように思われる。デンマークでムハンマドの風刺画事件が起きたとき、イスラム国家の多くで暴動や抗議デモが行われた。それを実際に現地に赴いて、抗議に参加したり、あるいは指導者にインタビューをするドキュメンタリーがあった。そして、インタビュアーは、彼らに、実際にその絵を見たことがあるのかと質問する。すると一人の例外もなく、「見たことはない」と答えるのである。そこで、実際に絵を見せる。もちろん、その絵は、当初からムハンマドの風刺をするという募集で寄せられたものだから、イスラム教徒が見れば不快感をもたらすことは、ごく当然のものであり、見た彼らは一様に批判していた。しかし、見ての批判と、見ないでする批判とは異なるはずである。 “愛知トリエンナーレから考える2” の続きを読む

小泉環境相のニューヨーク訪問 ステーキを毎日食べたいって?

 追加の記事なので、簡単に。どうしても必要だと思ったので。
 小泉環境相は、期待されているようだし、大きく取り上げられている。国連の会議出席のためにニューヨークを訪れたと、今日ニュースで報道していた。いろいろと勉強して、吸収したいと語っていたそうで、それはとてもよいのだが、気になるのは、ステーキを毎日でも食べたいと述べ、早速、ステーキ店を訪れて食べたというのである。
 おいおい、という風に思った人は、環境問題を真剣に考えている人だろう。
 現在の環境問題のもっとも大きな柱のひとつが、温暖化を抑えることである。そのために必要だとされていることはたくさんあるが、牛肉問題もその主要なひとつだ。 “小泉環境相のニューヨーク訪問 ステーキを毎日食べたいって?” の続きを読む

福島原発事故 東電幹部の無罪判決は日本の劣化を促進する

 今日(9月19日)、東京地裁で、福島原発事故を巡る判決がだされた。おそらくそうなるだろうとは思ったが、やはりそうかという感じだ。
 福島原発事故に関しては、検察が不起訴にしたので、検察審査会が実施され、そこで強制的な起訴に至ったものである。検察が起訴しないということ自体が、検察の堕落だとしかいいようがない。あれだけの大事故を起こし、近隣の人たちだけではなく、日本中の、そして、国際的な被害を与えたにもかかわらず、誰も刑事責任を負わないというのであれば、地位の高い人は、決して罰せられない、無責任な仕事をしても許されるという、社会全体の弛緩と頽廃を生むに違いない。
 争点は、事故が予見できたか、予見できたとして、回避可能だったかが争われたという。予見できたかというレベルの話ではなく、実際に、何年も前から、警告がなされ、実際に国会で質問もされていたのである。その都度、政府も東電も、そのような心配はない、対策はとらないと答弁していた。そして、実際警告が多方面からなされていたにもかかわらず、対策をとっていなかった。それは記録に残っている。 “福島原発事故 東電幹部の無罪判決は日本の劣化を促進する” の続きを読む