キャンプで行方不明、大人たちの安易な計画ではなかったのか?

 山梨県道志村「椿荘オートキャンプ場」で、行方不明になった小学一年生の当日の経過が、両親によって明らかにされた。毎日新聞掲載の内容をそのまま引用する。

21日午前
9時    一緒にキャンプするメンバーの一部が到着
  午後
0時15分 美咲さんと母、姉がキャンプ場に到着
1時    昼食後、子供たちがテントを張った広場近くで遊ぶ
3時35分 おやつを食べ終えた子供たちが沢に遊びに行く
  40分 美咲さんが後を追いかけて行く
  50分 大人が子供たちを迎えに行く
4時    美咲さんがいないため、捜し始める
5時    日没が近づき警察に通報
6時    警察官が到着
8時    子供たちを寝かせ、大人は捜索を継続
22日午前
1時30分 仕事を切り上げた父が到着。3時まで捜索を続ける

 あまり正確なところは、よくわからないのだが、ここに書かれていない情報を補足すると、「メンバー」というのは友人関係にある30人ほどが、一緒にキャンプするという計画だったようだ。ネット情報では、このキャンプ場は自然がとても豊かで、評判がよい。しかし、この事件以前の情報として、すばらしいが、油断するとあっという間に行方不明になる危険性もあると書いたものがあった。この件のワイドショーなどをあまりみていないし、わずかに見たとき、このグループに関する説明がなかったので、よくわからないが、友人だということなので、おそらく同じ学校の家族でまとまった人たちがこの日やってきて、直ぐに行方不明事件が起きたということになる。楽しいはずだったキャンプが、最初から崩壊してしまったわけだ。
 両親は悲嘆にくれ、本当に後悔しているだろう。だが、この事件の第一報を知ったときから、ずっと疑問だったことが、上に書かれた経過をみて、よりはっきりした。
 構成はわからないが、とにかく、数家族のグループで、大人たちと子どもたち構成されていた「集団」であったといえる。まず疑問に感じていたのは、キャンプやここの自然について、充分に知っているリーダーはいたのだろうかという点だ。これまでの報道でみる限り、リーダーの存在を感じない。仲良し家族が、一緒にキャンプしましょうという話だったのだろう。(今後いろいろ分かってくると思うが)
 欧米には、キャンプ場があって、専門の指導員が、子どもを一定期間預かって指導をする。アメリカの家族を描いた映画にたまに出てくる。ケストナーの「ふたりのロッテ」の翻案である、ディズニー映画「ファミリー・ゲーム」は、キャンプ場で別れ別れになっていた双子が、それと知らず再開し、お互いの境遇を知ったあと、入れ代わって帰宅して、離婚した親をなんとか復縁させようとする話だが、キャンプ場のことが、詳しく描かれている。大事なことは、指導員がかなり細かいことまで指導していることである。そうでないと、事故が避けられない。それは、集団としてのあり方であったり、自然に危険性に対する認識と対処法であったり、様々なことを子どもたちに注意喚起して、しかもそれをきっちり守らせなければならない。
 先日、森の幼稚園のことを書いたが、一日森のなかで過ごす森の幼稚園では、当然、教師たちが、常日頃、自然の危険性について認識させているし、しかも、現場で教えるわけだから、子どもたちも理解しやすい。何かわからないことがあったら、どうすればよいかも、指導している。虫に刺された、キノコを見つけたが、食べられるか、等々、子どもたちがぶつかる可能性を予期して、指導している。しかし、大枠としては、見守りつつ自由にさせる。だから、心身の発達が促進されるわけである。
 逆に、こうした指導がなされなければ、自然のなかに入っていった子どもは、直ちに様々な危険に直面することになるのだ。

 そういう点に気をつけて、当日の経過をみると、これでは事故が起きても仕方ないと思わざるをえないのである。
 まず午前9時に一部が到着、行方不明になった子どもの家族が(母親と二人姉妹)が正午ごろ到着し、おそらくグループ全体で昼食を食べたのだろう。このキャンプ場には、旅館もあるが、テントを張ってのキャンプも可能になっているようで、テントを利用する予定だった。そこの広場でしばらく遊び、おやつを食べたあと、多くの子どもたちが一緒に沢に出かけたが、小一の少女が、おそらく食べるのが遅かったのだろう、遅れて一人で追いかけた。しかし、報道によると、みんながいった方向とは違うほうにかけていったとされている。そして、そのまま行方不明になってしまった。
 この経過をみると、子どもたちにしっかりとした事前指導とその確認がなされているようには思われない。出発前にしたかも知れないが、現地でもう一度しっかりと、一般的な注意だけではなく、多少現場を歩きながら、しっかりと認識させる必要があるはずである。それがまったくなされていないようだ。
 それから、子どもたちは、集団として協力しあいながら、行動しなければ、危険になることも、しっかりと理解させ、行動グループなどを形成する必要がある。これもまったくなされていない。先におやつをたべた子どもたちが、小さな子どもを残して、さっさと出かけてしまっている。小一の女の子が一人で追いかけていくという事態が生じていることが、大人の責任ある指導がなされなかった証拠であり、その結果である。しかも、子どもたちは、はじめての場所にこのとき出かけていったのだ。
 こういう企画は、子どもたちが自然と接すれば、たくさんのことを学ぶだろうし、また楽しいだろうという、そういう思いからたてられたのだろう。しかし、自然の危険性を認識し、子どもたちに認識させ、その認識を踏まえた行動ができるように、指導することなしに、安易に自然のなかに子どもたちを解き放てば、大小の事故が起きる可能性は極めて高い。
 食事後に、集団としてのキャンプが始まるのだとしたら、この日の午後は、オリエンテーションにしっかりと時間を使うべきだった。
 今後、こうした集団の自然キャンプをする人たちは、本格的な森の幼稚園の実践記録をなどを、しっかり読んで、どういう対策が必要なのか、しっかりとチェックをすべきだろう。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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