五輪マラソン・競歩会場問題で露呈して問題

 突然知らされた、来年のオリンピックにおけるマラソンと競歩の会場変更。ワイドショーの格好の話題となっていた。既に一年をきっている段階で、本当かどうかわからないが、主催都市の首長が変更協議が進んでいることを知らなかったらしいことは、やはり多くの人が驚いたことだろう。最近行われたドーハでのマラソンで、完走率が58%だったということで、IOCが危機感をもったということのようだ。こうしたニュースを追いかけていないので知らなかったが、ドーハでは、夜中の12時ころにスタートしたらしい。もちろん、暑さを避けるためだが、それでも完走した人が6割に満たなかったわけだ。日本では、これまで段々スタート時間を早めて、現在では朝6時ということになっているが、更に5時に早めようという検討がなされていたらしい。
 ドーハのマラソンに参加した選手の談話が印象に残る。選手はこうやって悪環境のなか競技をしているのに、偉い役員たちは、ホテルの快適な部屋でテレビをみているのだろう、というようなことだった。日本では、選手より役員の環境がずっとよいという問題が以前から指摘されていた。例えば、最近の話題では、テコンド競技で、役員は補助金で、選手は自腹で飛行機代を出すと報道されていた。以前は、役員はファーストクラスで、選手はエコノミーと言われたものだ。スポーツがビジネスになっていることが、こうした事態を招くことになる。
 今日、朝のワイドショー(羽鳥のモーニングショー)をみていたら、興味深いことを言っていた。周知のように、東京がオリンピック招致を決めた会場で、8月の日本は気候が温暖で、スポーツをするには快適であると主張した。もちろん、私はそれをきいてびっくりしたし、多くの日本人も同様だったろう。これが嘘であることは、誰でも知っている。しかし、ワイドショーでの説明によると、こういう招致の会議での説明が、嘘であることは、どこの国でもやることで、そのことを後でとやかく言うことはないのだそうだ。つまり、招致のために嘘をつくことは、普通のことだというのである。だから、安倍首相の「福島の原発事故は完全にコントロールされている」というでたらめも、別に問題ではないということになるようだ。(そうだとしても、当時の都知事であった猪瀬氏が語った「福島は東京から200キロ離れているから心配ない」という発言は、許されないものだ。これは嘘だというレベルではなく、あくまでも差別的発言だ。)
 しかし、そういう前提で行われる招致のための説明会とは、一体何なのだろうか。
 それはさておき、もちろん、問題はマラソンや競歩だけではないだろう。たまたまドーハの大会で、脱落者が多くでたのが、このふたつの競技だったというだけで、不安視されている競技は他にもある。例えば、トライアスロンは、本来の距離を縮めることになるらしい。自転車競技とか、比較的長時間かかり、持久力が試されるような競技は、マラソンほどではないにしても、屋外で行われる場合には、すべて危険に晒されることになる。選手だけではない。観客も危険なのだ。そして、こうなることは、まじめに考えている人にとっては、とっくに認識されていたことだ。1964年に行われた前回の東京オリンピックは、夏が暑いからという理由で、10月に行われた。そして、今は、1960年代に比較して、東京の暑さは比較にならないくらい酷くなっている。そして、現在、時期を遅らせることができないのは、アメリカのテレビ放送局が大反対しているためであることも、よく知られている。9月10月はアメリカンフットボール、バスケットボール、野球の重要な試合が行われるから、オリンピックは7月中旬から8月までの時期に実施するように、決まっている。だが、ここ10年くらいの気候変動で、少なくとも北半球では、夏でも確実に涼しいなどという国はなくなりつつある。ヨーロッパですら、40度になったりする。しかも、けっこう長期間だ。私はこの夏ドイツとオランダにいったのだが、オランダで暑さのため鉄道が動かなくなって、酷い目にあった。逆に南半球で実施したら、7,8月は真冬だから、逆に難しいだろう。シドニーオリンピックは9月に行われている。春めいてくるからだろう。このときは、アメリカとの調整はどうだっただろう。
 ヨーロッパですら、40度になる、つまりスポーツをやっていなくても死者がでるくらい暑くなるのは、あきらかに気候変動によるもので、たまたまの現象とは考えられていない。温暖化の影響で、北極周辺が比較的温かくなり、南との気温差が小さくなったために、偏西風が弱くなり、夏は南の暑い空気が北に流れていくのを防ぐ機能が弱体化する、そのために、以前はなかったヨーロッパの40度という現象が起きてしまう。逆に冬は、北の寒波が南までおりてきて、異常な寒さとなるとされている。だから、本当の意味で、7月8月に「スポーツに適した温暖な気候」などという地域は、地球上から消えてしまったともいえる。
 猛暑を覚悟するか、真冬の「夏のオリンピック」を南半球で行うのか。
 今や、総合的なスポーツの祭典などは、現実的ではないということなのではないかと思う。スポーツによって、快適な気候は多少異なるのではないだろうか。素人だから、断定はできないが、水上で行うボート、ヨット競技などは、暑くてもよさそうだが、マラソンや競歩は確かに暑さは危険だろう。また、馬術競技などは、馬が暑さに適応しなければ、別の危険を生む。総合的な祭典ではなく、それぞれの競技にとって最適の条件を満たすような時期や場所で大会を行えば、今回のような問題は起きにくいし、また、個別競技であれば、アメリカの放送局もとやかく言わないような気がするのだが、甘いだろうか。そして、巨大利権によって動く要素も減るに違いない。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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