愛知トリエンナーレ問題4 内容への口出し

 奥村氏の「支援するが内容に口出ししない」という問題をどう考えるかという点が残った。これまで、主に毎日新聞の記事を参考にしていたので、バランスをとるという意味ではないが、産経新聞の「表現の不自由展その後」に関する記事をまとめて読んでみた。奥村氏の見解と正反対なのが、八木秀次氏の「表現の不自由展 公的空間での展示の線引き必要」(産経新聞2019.10.8)という記事である。
 八木氏は、そもそもこの企画そのものが問題だ、という立場であり、更に以下のように述べる。

 「芸術については、たとえ主催自治体のトップであっても『中身についての議論はしてはいけない』『金だけは出せ』というような風潮が一部にあるようだが、多額の公金を使ったイベントで、芸術といえども表現の自由において特権的な地位はない。」

 奥村氏と八木氏とでは、どちらが正しいのだろうか。
 「支援するが内容に口出ししない」ということは、そう簡単に処理できるものでもないと思われる。とりあえず、公共の機関の展示場であると想定して考える。
 ある公共施設が、日常的、あるいは特別に展示の場を一般に提供し、展示したい者を募集するとしよう。応募が定員に満たない場合には、多くの場合、そのまま応募者に提供することになるだろう。応募が定員を超えたら、対応は複数ある。
・先着順
・日時を指定して、応募者を集合させ、抽選。
・内容を施設管理者が吟味して、適切と考える者を選抜する。
 先着順と抽選は、文字通り内容に口出ししない方法である。しかし、展示の質は、開催してみないとわからない。また、表現が誰かの権利侵害をしている場合が出てくるかも知れない。その場合には、クレームがあった時点で、個別に判断するということになるのだろう。第三の選抜は、事実上口出ししていることになる。従って、奥村氏は先着順か抽選を支持する立場だと思われる。
 また、おそらく、第三のような方法で処理する公共施設は、ほとんどないのではなかろうか。もし、そうした内容に対する明確な意識をもっている場合には、自ら企画をたてたり、あるいは、企画する人を選んで委嘱するのではないだろうか。つまり、施設側の企画で展示が行われるとすると、使節側が依頼をすることになるから、全く内容に口出ししないということは、事実上不可能だろう。作品ないし企画者を選択する時点で、既に口出ししていることになる。これもいけないことになる、施設側の企画はするべきでないという議論になる。
 今回の愛知トリエンナーレでは、津田大介氏に依頼した段階で、基本的に津田氏に任せるという選択したわけだ。しかし、その後は、津田氏が、「表現の不自由展その後」を企画し、東京での「表現の不自由展」を企画した人々に運営を任せた。そのことに対して、実行委員長である大村知事は、口出しをしないという立場を一応守っている。おそらく、奥村氏は、この大村知事のやり方は支持するのだろうと推測する。
 では、展示の一部に対する強い批判意識から、展示に反対であるという意志表示をし、再開のときには、反対の座り込みをしたとされる河村市長の対応はどうだろうか。産経新聞は、座り込むという市長の意志表明を紹介しているだけで、論評はしていない。ただし、河村市長の行動は、市民が実際に自分でみて判断したいという姿勢を否定することになる。もちろん、実力行使をして企画を中止に追い込もうとしているわけではないから、事実として奪っているわけではないが、考えかたとしては、首長は選挙で選ばれた者なのだから、責任をもって、内容チェックをすべきだということになるのだろうか。

 八木氏は、更に次のように述べている。

 「公的空間での展示については、多くの市民、県民、国民の理解をえられるよう、何が認められ何が認められないのか、どこまでは許されて、許されないのか(ママ)という線引きが必要だ。」

 この見解は、一見もっともであるように見えるが、実際には、不可能なことではないか。そもそも、芸術はこれまでの表現を乗り越えようとするものではないだろうか。とすれば、多くの国民の理解をえられる範囲を、ルールーで表現できる範囲などは、予め決めることはできない。優れた芸術と、今では認められている作品でも、制作当時は、さんざん非難されてというような芸術は少なくない。既成の感覚や概念を打ち破っていくわけだから、それは、国民の多くに、その時点で認められることは難しい。だから、国民の多くが納得できる範囲で、展示を許すのだとしたら、おそらく、その展示場には、優れた作品が許可されることは、限られてくるのではないだろうか。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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