トルストイは、『戦争と平和』のなかで、何度も、戦争はなぜ起きるのかを考察している。小説であるのに、その部分は論文調なので、退屈に思うひとも多いのだが、私はなかなか面白いと思って読んでいる。しかし、結局は、トルストイにとっても、その答は明確ではないようだ。巷間言われている説、ナポレオンの征服欲が原因だ、とか、ロシア皇帝がナポレオンの要求を受け入れなかったからだ、とか、あるいはより地位の低いひとたちの意志などを、様々にあげながら、しかし、それらのひとつが原因なのではなく、全体の複合によって、必然的に戦争へと人々は導かれていった、というような考えなのだろう。しかし、それでも、100万人を越えるような人々の殺し合いを引き起こした要因は、確かにひとつではなにせよ、いくつかの主要なものは想定できるのではないだろうか。そして、確かに、ある時点で、誰かが別の行動をとったら、ナポレオンはロシアに侵入しなかったというようなことは、確かにあるのかも知れない。また、ナポレオンの侵入後にしても、ロシア軍がボロジノでも闘わず、退却していたらとか、ナポレオンがモスクワにとどまることなく、皇帝のいるペテルブルグに進軍していたら、など、ひとが決断できる行動だから、別の決断にすることは不可能だったわけではないはずだ。だから、違う結果が起きた可能性を否定することはできない。結局、明確な、万人が納得できる理由を提示することは、不可能かも知れないが、様々な立場から考察してみることは、理解を深めることになるに違いない。
カテゴリー: 時事問題
ネトレプコがウクライナ侵攻に反対 ゲルギエフは?
世界でトップクラスのソプラノ歌手アンナ・ネトレプコが、ロシアのウクライナ侵攻を非難する声明を出した。ロシア出身で、プーチンと親しいとされていた彼女は、ウクライナ侵攻が始まったとき、反対するように求められながら、「平和を望んでいる」と述べつつも、ウクライナ侵攻そのものには反対意見を述べず、芸術家に政治的発言を強要するのは間違っていると主張。欧米での重要な出演をキャンセルされていた。しかし、態度を変えたようだ。「ネトレプコがロシアのウクライナ侵略に反対、プーチン大統領との関係を否定する声明」という記事がそれを紹介している。
・ウクライナの戦争を明確に非難し、犠牲者と家族に思いを馳せる。
・いかなる政党のメンバーでもなく、ロシアの指導者と手を結んでいない。
・過去の言動に後妻される可能性があったことを認め、反省している。
・プーチンとは授賞式などで会ったことがあるだけで、ロシア政府から金銭的支援を受けていない。
・オーストリアに居住し、納税者でもある。
以上のような内容の記事である。
札幌五輪は招致すべきではない
報道によれば、札幌市議会は、2030年冬季五輪の招致を可決したという。
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札幌市が招致を目指す2030年冬季五輪・パラリンピックについて、札幌市議会は30日の本会議で招致を支持する決議案を可決した。決議案は自民党、民主党・市民連合、公明党が共同で提出し、賛成多数で可決された。共産党、市民ネットワーク北海道は反対した。(朝日新聞2022.3.30)
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また、事前に行われたアンケートでは、約56%が賛成、約40%が反対だったという。しかし、世論調査には疑問もでていて、「そんな調査やっていたのか?」という意見や、新聞社の調査では、反対が多かったからか、公表後すぐに削除されたとか、賛成派にとって不都合な事実が、いろいろと語られてい。
このことで、思い出すのは、荒川恭啓がやっていたラジオ番組で、東京五輪招致についての意見を求めたところ、圧倒的に反対が多くなった。もちろん、いくら政府に批判的な見解を述べることが多かった番組でも、オリンピック招致は、メディアとして実現したいというニュアンスで伝えていたのだが、この結果を伝えざるをえなくて、結果のみ発表したのだが、いかにも不快そうな感じで、そのあとすぐに別の話題にふってしまった。番組内で意見聴取をするなら、もっとちゃんと扱うべきではないかと思ったが、メディアってこうなのかと思ったものだ。
ロシアは中国の朝貢国になるのか?
昨日ロシア外相のラブロフが中国を訪れ、中国王毅外相と会談して、援助を求めたという。テレ朝ニュースによると、ラブロフは「ロシアは国際関係の歴史のなかで、重要な局面に直面している。我々は、中国やその他の仲間とともに、多極的で公平で民主的な世界秩序に向かって歩みだすだろう」と述べたそうだ。そして、欧米の経済制裁に、中国の協力を得て、対抗していく考えを示した。
それに対して、王毅外相は、協力の意志や信念が更に強くなっていると述べ、更に両外相は、ロシアへの経済制裁は、「違法で逆効果だ」と非難したそうである。そして、この後、ラブロフ外相は、インドに向かうと報道されている。
欧米側にいる者にとっては、笑いを提供してくれる談話だ。ロシアの「仲間」は、どれだけいるのだろうか。国連総会の決議の数をみれば、完全に孤立しており、中国ですら、ロシアへの支持をためらっている。ロシアが、「多極的で公平で民主的」な世界秩序をめざしているのだそうだが、「孤立して、不公平で独裁的」な世界秩序しか、プーチンサイドからは見えてこない。ロシアへの経済制裁か「違法で逆効果」なら、ロシアのウクライナ侵略は「合法」なのかということになろう。
バイデンの失言?
バイデンアメリカ大統領が、ポーランドで「プーチンは権力の座に居続けてはならない」と発言して、アメリカ政府関係者が、火消しに奔走していることが、あちこちのメディアで報道されている。しかし、他方、バイデンは、アメリカに帰国後、自分の感情を表明したもので、発言を取り消すことはしないと表明した。バイデンは失言癖があり、これもその一つだという評価が多いようだが、私は、失言だとは思わない。少なくとも、確信的に述べたものだろうと思っている。むしろ、火消しに走ることのほうが、少々奇妙な印象だ。
アメリカは、かつて少なくない国家元首を葬り、政権の転覆を謀ってきた。その典型がチリでアジェンデ政権を倒したことだが、近年では、イラク戦争におけるフセイン打倒だ。実は、ベトナム戦争やチリへの批判が、事件後にも次第に高くなって、敵であっても、相手の元首を殺害したり、政権転覆をして退かせたりすることはしない、という原則を、一応アメリカはたてている。それを守っているとも思えないのは、イラク戦争やアフガン戦争を起こしているからで、アラブの春も、アメリカが背後にいることは明らかだから、時と場合によっては、政権転覆を謀ろうとするのだが、今回では、そういうことは口にしてはいけないという姿勢を、アメリカ政府としてとっているのかも知れない。
戦後のロシア人が真実を知ったとき
普段は見ないが「サンデージャポン」が、ロシアの状況を扱うというので、少しみていた。子どもの頃から日本で育ったロシア人が解説していたが、現在のロシアの状況が映像で示されていた。プーチンを讃える歌を広場で歌う高齢者たち、それにくってかかる若い女性(直ぐに逮捕されて連行されていった)、教室でZマークの入った紙を配られて喜んでいる子どもたち、隊列でZマークを形成する子どもたち、つまり、プーチンを熱烈に支持しているひとたちの映像だ。そして、テレビでは徹底的に、ロシアの戦争の正当性が解説され、そして、ウクライナからロシアに連れてこられたひとたちが、ウクライナで酷い目にあっていたが、ロシア人が助けてくれたと語るのを、放映しているということだった。
要するに、我々が日常見ているニュース映像とは、全く逆の「事実」を知らされている。完全に洗脳されているといってよいだろう。希望的観測ともなるが、やがてプーチンは敗北、没落するだろう。そのときに、全く逆の真実が、ロシア人たちに示される日が来る。そのとき、ロシア人たちが、どのような反応を示すのか、非常に興味深い。
「ウクライナ侵攻はありえない」論はどこが外れていたか
ウクライナ戦線は膠着状態になっている感じがあるが、つい先日、ウクライナ侵攻はありえないと断定していた文章を見つけた。もちろん、そういう予想はいくらでもあったが、書名入りで、詳細な文章として見通しを書いているのは、あまりなかったような気がする。
「ロシアのウクライナ侵攻はあり得ない、これだけの理由 ウクライナの悲劇と茶番劇」杉浦敏広 2022.1.26 JBpressである。
この文章を検討してみたいと思ったのは、別に間違ったことを揶揄するためではなく、どこに予想が外れて、間違ったことを書いてしまったのか、その判断のどこが事実と異なって、予想と異なる事態が進展してしまったのかを探るためである。混沌とした事態の先を、正確に予想することなどは、ほとんど不可能なのだから、間違うこと自体は、私はそれほど不名誉なことではないし、また、訂正しながら、正しい認識に近づいていくのだと思う。しかし、やはり、冷静に間違いの所以を検討することが必要だろう。こうして文章を書いている私自身にとっても、他山の石とみなすべき文章だ。
本人からの、現時点でどう考えているかの投稿はないようだ。
ゼレンスキー演説への批判の検討
昨日(3月23日)に、ウクライナ・ゼレンスキー大統領の、日本に対する演説が国会議員会館を通じて、オンラインで行われ、リアルタイムで全国に放映された。私ももちろん最初から終わりまで見たが、予想された強いものではなく、むしろ落ち着いた内容の、とても訴える力の強い演説だったと思う。私には、一番の力点は、ロシアに対する経済政策の継続と、戦後のウクライナ復興に対する援助を期待することだったと理解した。十分、ウクライナ情勢を理解している人にとっては納得できることだろう。もっとも、ロシアに対する経済制裁については、日本はそれほど徹底しているようには思えないので、今後、議論になるところではないだろうか。
それはさておき、この演説の前後に、ネガティブな見解も出されていたので、それに対する意見を書いておきたい。
まず事前の批判として、鳥越俊太郎氏が、戦争の一方の当事者であるウクライナ大統領にだけ、国会演説の場を提供するのは、公正ではないと批判していたことについて。
ゼレンスキー大統領演説に、注目したいこと
本日、ウクライナ大統領ゼレンスキーの、日本向け演説が行われる予定になっている。演説を聞いての感想は明日にして、その前に思うところを簡単に記しておきたい。
何より注意して聴く必要があるのは、ウクライナの状況を知ることだ。直接日本人に語ることは、これまでなかったわけで、ウクライナの状況は、すべて報道によって知ってきた。しかし、報道には、必ずバイアスがかかっている。
一番気になるところは、ウクライナは本当に大丈夫なのか、という点だ。キエフに対する前進が止まっていることは、ウクライナ軍が進攻を抑えているからだ、という報道がある。しかし、マリウポリは容赦なく攻撃されている。だが、やがてウクライナ軍が優勢になって、ロシア軍も損害が激しく、士気も低いので、やがて押し返されていくだろうという見通しも語られている。アメリカ筋から、さかんにそうした情報がもたらされている。
地下鉄サリン事件から27年
今日は、27年前に地下鉄サリン事件が起きた日だ。1995年は、1月に阪神淡路大震災があり、3月にサリン事件、そしてその後の長いオウム捜査が始まった。windows95が、ネット接続を組み込んだために、それまでは研究機関等の限られた人でなければ、使いにくかったインターネットが、簡単に一般人も使えるようになった年でもある。
松本サリン事件や坂本弁護士家族の失踪事件で捜査対象となっていたオウムの本部に、強制捜査の予定だったのが、オウムに漏れ、その前に地下鉄サリン事件が起こされたといわれているが、捜査は22日に行われ、ずっとテレビ中継された。サティアンなどと呼ばれた建造物が大勢の機動隊によって調べられ、当時小学生だった3女のアーチャリーが、機動隊に食ってかかっているような写真が新聞にのり、話題になったものだ。
地下鉄サリン事件の捜査はなかなか進まなかったが、あるとき、心臓外科医としても有名な林郁夫が、別件で逮捕されていて、突然サリン事件の自白をしたようだ。それでサリン事件のほぼ全容がわかり、次々と実行犯が逮捕された。