バイデンの失言?

 バイデンアメリカ大統領が、ポーランドで「プーチンは権力の座に居続けてはならない」と発言して、アメリカ政府関係者が、火消しに奔走していることが、あちこちのメディアで報道されている。しかし、他方、バイデンは、アメリカに帰国後、自分の感情を表明したもので、発言を取り消すことはしないと表明した。バイデンは失言癖があり、これもその一つだという評価が多いようだが、私は、失言だとは思わない。少なくとも、確信的に述べたものだろうと思っている。むしろ、火消しに走ることのほうが、少々奇妙な印象だ。
 アメリカは、かつて少なくない国家元首を葬り、政権の転覆を謀ってきた。その典型がチリでアジェンデ政権を倒したことだが、近年では、イラク戦争におけるフセイン打倒だ。実は、ベトナム戦争やチリへの批判が、事件後にも次第に高くなって、敵であっても、相手の元首を殺害したり、政権転覆をして退かせたりすることはしない、という原則を、一応アメリカはたてている。それを守っているとも思えないのは、イラク戦争やアフガン戦争を起こしているからで、アラブの春も、アメリカが背後にいることは明らかだから、時と場合によっては、政権転覆を謀ろうとするのだが、今回では、そういうことは口にしてはいけないという姿勢を、アメリカ政府としてとっているのかも知れない。

 しかし、プーチンは国際法違反の戦争犯罪を犯しているという非難は、当然、戦後にプーチンを国際司法裁判所で裁く意図を表明していることだ。そして、プーチンを国際司法裁判所の被告席に立たせるためには、プーチンに反対する政治勢力が政権をとって、プーチンを国際司法裁判所で裁くことに同意しなければ、実現しないわけである。つまり、プーチンが権力の座についている限りは、プーチンの戦争犯罪を正規に裁くことはできないのだ。
 そのように考えれば、バイデンのいった「プーチンは権力の座に居続けてはならない」という言葉は、ウクライナを支援するひとたちの共通の思いといってよい。
 現在、トルコで停戦交渉が行われているが、停戦交渉がまとまることはありえないだろう。ウクライナにとっては、ロシア軍の完全撤退が最低条件であり、プーチンにとっては、ウクライナ東部二「共和国」の独立承認と、南部占領地帯でのロシア軍の駐屯が最低条件となっていると思われる。つまり、停戦で合意することは、事実上不可能である。ミンスク合意後も、ドンバス地方での戦闘が継続したように、これから停戦協定が結ばれたとしても、それは直ぐに事実上反故にされるだろう。つまり、実質的な停戦などはなく、戦争が終わるとしたら、ロシアが敗北を自覚して、撤退すること以外にはない。ウクライナ政府が倒れて(たとえは、ゼレンスキーが暗殺される)、ロシアの傀儡政府ができたとしても、それは新たなゲリラ戦の始まりに過ぎない。テレビで専門家という人が、アフガンのような山岳地域ならゲリラ戦も有効だが、ウクライナのような平坦な土地では無理だと語っていたが、イラクのような砂漠地域でもゲリラ戦が継続的に行われているのだから、ウクライナで不可能だということは考えられない。
 従って、プーチンの退陣は、その後の裁きへの一過程であり、当然通らねばならない道であろう。煮え切らないバイデンが、珍しく明確に信念を語ったと、私は思った。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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