新聞で報道された事例2は、以下の小学校教諭である。
まず、教育委員会の公表を見てみる。
教職員の懲戒処分について
所 属 小学校
当 該 者 1 教諭(男性 40代)
2 校長(男性・50代)
処 分 日 令和4年3月25日(金)
処 分 内 容 1 懲戒免職(退職手当等全額不支給)
2 減給 10 分の1 3月
事 案 概 要
当該教諭は、令和2年度に担任していた学級において、配付物を配らない、
給食を極めて少量しか盛り付けないなど、特定の複数の児童に対する差別的取
扱を行った。
また、特定の児童を強く叱責するほか、テストを受けさせないなど学習の機
会を損なわせる行為を行った。
さらに、当該教諭のこれらの行為を目撃していた他児童を不安にさせた。
非常に不思議な事例だ。配布物を配らない、テストを受けさせないというのは、あまりに職務を逸脱しており、直ちに保護者からクレームが寄せられるはずだ。また、給食を特定の複数の子どもに、極めて少量しか盛り付けないというのも、部外者には、そんなことできるのかと思うほどだ。というのは、給食の盛り付けは、子どもたちの当番が行うものであって、担任が直接行うことではない。とすると、担任は当番の子どもたちに、「**の給食は、ほんのすこしだけでいいぞ」などと「指導」したことになる。当然、少なくされた子どもからも、また、まわりの子どもたちからも、家庭で話題になり、やはり、クレームが来るはずだ。これで、クレームがないとしたら、逆に親たちの意識を疑問に感じてしまう。
ここには書かれていないが、報道によれば、厳しく指導すれば、子どもたちを従わせることができると考えてやったと、語っていたそうだ。もう少し裏があるように思うのだが、これだけではよくわからない。
年齢が40代というのも気になる。途中からの転職でない限り、20年は教師として、子どもたちを教えてきたことになる。そして、報道で語られた、この教師の言葉が事実だとしたら、思わずやってしまったということではなく、自分の教育観に基づいて行ったことだと解釈せざるをえない。そうすると、これまでも同様のことを行っていたと考えるのが自然であるし、また、トラブルにもなっていたのではないだろうか。
トラブルになると、他の学校に移らせていた等、やっかいばらいをしながら、根本的な解決(校内での相互批判に基づく研修)を回避してきたのではないかと疑わざるをえない。子どもの学習機会を奪うという、教師としては最もやってはいけないことをして、反省がないのだとしたら、懲戒免職も仕方ないといえる。
ここまで書いて、ネットで新聞をチェックしていると、またまた不祥事による処分の記事が出た。
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読売新聞2022.3.28
茨城県内の高校で、教員の不祥事が相次いでいる。大井川知事は24日の記者会見で、「根本的に何かおかしいのではないかと思わざるを得ない」と苦言を呈した。
県教育委員会は23日、部下職員に不適切なメッセージを送付するなどしたとして、県北地域の校長(56)を停職12か月の懲戒処分とした。ほかにも、県立水戸一高の男性教員(36)を停職4か月の懲戒処分とし、県立石岡一高の校長(60)ら4人を減給の懲戒処分としている。
県教委によると、男性教員は未成年者の裸の動画を自宅のパソコンに取り込み、インターネット上で2021年3月、不特定多数が閲覧できる状態にしていた。児童買春・児童ポルノ禁止法違反で罰金70万円の略式命令を受けている。
石岡一高は入試で、受験生1人の国語の得点を加算せず、不合格にしていた。校長の判断で得点の検算を実施していなかった。
大井川知事は「教師としてあるまじき行為も含まれている。県民の信頼を損なう形になり、残念と言わざるを得ない」と述べた。
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部下職員にどのような不適切なメッセージを送付したのか不明だが、停職12カ月というのは、軽い処分ではない。入試で受験生一人の得点を加算しなかった上に、校長の判断で検算をしなかったというのも、いろいろと解せない。減給処分の対象なのだから、単純なミスではなかったのだろう。ということは、入試で特定の個人に対して、不利益な処置をしたということだろうか。更に「検算」というのが、よくわからない。今どき点数はコンピューターに入力するはずだから、検算などは必要ない。入力した数字が間違っていないかの確認はするだろう。それは検算ではない。入力した数字が正しければ、コンピューターの計算を疑う余地は通常ない。記事がミスで、検算ではなく、入力ミスのチェックをしなかったというのならば、やはり、「何かおかしい」と感じる。しかし、一人の加算をしなかったことと、検算をしなかったことが、どのように関連しているのかもわからない。この記事も「何かおかしい」。
茨城の例は、教職員(校長も含めて)が、何かおかしくなっているという記事である。横浜の小学校教師は、認めがたい指導を子どもに対して行ったというものだ。ただ、そこに共通しているのは、教師の世界に、何か「おかしな」ことが起きていることである。
自発的な退職の多くが、精神疾患のためであるというのは、かなり認識されるようになっている。私は、教師を育てて送り出す立場にいたので、一般の人よりは教師に対して甘いかも知れないが、やはり、現場のあまりの忙しさと、ストレスの大きな点が、こうした精神を病む環境を作っていると思うのである。もちろん、大部分の教師は、おかしな行為をしていないといえるが、多くがぎりぎりのところで頑張っているという状況だろう。
私のゼミの学生で、大分ベテランになっている教師だが、勤務校が変わった初年度に、とてつもなく大変な子どもたちがたくさん集められた学級をもたされ、何度もあれた6年生を立て直した経験のある教師であるのに、そのときには、さすがに精神的におかしくなる一歩手前だったといっていた。
新しく移ってきた教師に対して、誰も受け持ちたがらない子どもの担当者にしてしまうことは、学校という職場にひんぱんに見られる悪しき現象である。新しく赴任してきたのだから、子どもたちの状況はわからないから、知らされることなく担任をまかされるが、いざ始まってみると、他の学級には、大変な子どもがあまりいないのに、自分のクラスに集中していると気付くわけだ。こうした話を、私はいくつも聞いたことがある。
実際に、特別に手のかかる子どもはいるものだ。授業中に突然暴れ出したり、暴力を振るったり、教室を抜け出してまったりと、様々だが、そうした子どもがクラスに2,3名いたら、どんなにベテランの力量ある教師でも、学級崩壊に近い状態になる。もし、校長が、そうした教師のせいではなく、荒廃したクラスを立て直すために、尽力するような人なら、もともと、そんなひどい学級編成をしないはずである。事情を知らない教師に、問題をかかえた子どもを押しつけるような処置をする校長だから、ほとんど放置することが多い。
個々の問題に関する解決法はここで論じることはできないが、教師の過重労働とストレスの多い環境を変えていくためには、最低限早急にすることは、やはり、学級定数の削減だろう。そして、問題をかかえた子どもの学級には、アシスタントの教師を配置することだろうか。