ロシアは中国の朝貢国になるのか?

 昨日ロシア外相のラブロフが中国を訪れ、中国王毅外相と会談して、援助を求めたという。テレ朝ニュースによると、ラブロフは「ロシアは国際関係の歴史のなかで、重要な局面に直面している。我々は、中国やその他の仲間とともに、多極的で公平で民主的な世界秩序に向かって歩みだすだろう」と述べたそうだ。そして、欧米の経済制裁に、中国の協力を得て、対抗していく考えを示した。
 それに対して、王毅外相は、協力の意志や信念が更に強くなっていると述べ、更に両外相は、ロシアへの経済制裁は、「違法で逆効果だ」と非難したそうである。そして、この後、ラブロフ外相は、インドに向かうと報道されている。
 欧米側にいる者にとっては、笑いを提供してくれる談話だ。ロシアの「仲間」は、どれだけいるのだろうか。国連総会の決議の数をみれば、完全に孤立しており、中国ですら、ロシアへの支持をためらっている。ロシアが、「多極的で公平で民主的」な世界秩序をめざしているのだそうだが、「孤立して、不公平で独裁的」な世界秩序しか、プーチンサイドからは見えてこない。ロシアへの経済制裁か「違法で逆効果」なら、ロシアのウクライナ侵略は「合法」なのかということになろう。

 そうしたことはさておき、ラブロフが中国を訪れたのは、とにかく「援助を請い」にいったとしか見えない。ロシアが提供できる石油等のエネルギー資源と、中国が、やろうと思えば提供できる軍事的、経済的支援とでは比較にならないくらい、ロシアが欲しているもののほうが大きい。しかし、王毅外相の言葉を見る限り、具体的援助については触れていないようにも思える。(もちろん、公表はしないだけなのかも知れないが)
 中国とロシアの経済力、軍事力を含めた国力は、相当な格差が生じている。つまり、小国ロシアが大国中国に、とにかく頭を下げてお願いにいったような構造である。もちろん、今の中国は、属国を従えて君臨するような国家ではない。しかし、かつて、中国が朝貢を属国に強いていたときには、属国に有利な貿易を保障することによって、国家的主従関係を形成していた。形として異なっていても、経済援助をして、様々な面において政治的な中国への支持国にさせるという構図は、かなり朝貢システムと似ている面がある。これまで、中国とロシアは、対等な関係であるように見えていたが、今回のラブロフの中国訪問をみると、関係が対等ではなくなったことを実感させる。中国は、ロシアとの関係を最大限有利に活用するに違いない。かつての中国にとって、朝貢国を増やすことで、国内支配力を高め、また周辺国への影響力を高めていた。決して、武力で支配するのが朝貢ではない。しかし、明らかに属国にする。
 中国は、正式名称を「中華人民共和国」という。要するに、中国は世界の中心であるという意識であり、現在の「一帯一路」政策などは、現代における「中華」意識の反映した政策と考えられる。ただし、誤解してはならないのは、中国の「朝貢」を軸として周辺国との関係つくりは、決して、武力制圧などではなく、むしろ友好関係の樹立であって、従属的な地位に甘んじれば、周辺国は安全と経済的利益を享受できたシステムなのである。反抗的な政治をすれば、制圧する動きになるが、従順でいれば、安全だった。少なくとも、大きな反中国の勢力がまわりに生じない限りは。
 
 ウクライナでの戦争は、アメリカだけが多大な利益を得ている。ウクライナに援助はするが、自らは闘うことをせず、アメリカの軍需産業は、莫大な利益を貪っているだろう。ウクライナが驚異的な反抗していることによって、ロシアを弱体化させている。確かに、アメリカはウクライナを、他の国ではできないほどの支えかたをしているが、戦禍がアメリカに及ぶことは絶対にないようにしている。
 ヨーロッパ、特に東欧は、ウクライナが敗北すれば、直接ロシア勢力と向かい合うことになるから、アメリカとは、おそらく深刻度が異なる。西欧派NATO諸国に対しては、内心不満をもっているのではないだろうか。
 中国は、かなり難しい立場に立たされているが、うまく立ち回れば漁夫の利をえる。ロシアともウクライナとも深い経済関係を維持してきたから、間違えば双方から「裏切り」扱いされるが、仲裁できる唯一の大国でもある。できることなら、仲介をして戦争を終わらせ、弱くなったロシアを属国的立場に追いやることを望んでいるに違いない。プーチンは、そんなことに我慢できる人物かどうかは疑問だが。
 しかし、結局、ロシアは中国の援助を受けることができなければ、今後じり貧になって、ウクライナどころか、ロシアそのものを危うくなるだろう。そのときに、ロシアが中国に対する従属的な国家になるのか、あるいは、欧米勢力に屈して、ソ連崩壊後のエリツィンのように、欧米との折り合いをつけようとするのか。
 ロシアのような大国が、中国に従属的になることはありえないということは決してない。日本のような経済大国が、アメリカの従属国のような位置に甘んじている。実例があるのだ。
 
 私としては、中国がロシアの敗北を回避させることをせず、経済援助も軍事援助もしないこと、そして、できるだけ早くロシアが財政破綻して、敗北することを望んでいる。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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