ウクライナ侵攻はなぜ起こったか トルストイ流に考える4 マクロンと旧東欧

マクロン
 フランスという国家が、私には、非常に遠い国になってしまった。フランスのニュースといえば、同時多発テロでの被害だったり、あるいはワクチン義務化をめぐる騒動だったり、とにかく、騒乱が主なニュースになってしまった感じが強い。日本との関連でいえば、日産におけるカルロス・ゴン騒動が、フランスのルノーと関わっているから、大きなニュースになったが、とにかく、いいニュースがあまり記憶にない。
 ロシアのウクライナ侵攻に関しては、マクロンがいち早くモスクワに飛び、プーチンと差しで談話をしたが、長いテーブルの端に座った対談で、とうてい何か有益な結果が残せる雰囲気ではなかった。マクロンとプーチンの「遠い距離」が目立った会談となり、その後も、何度か電話会談をしたが、成果があがったという話は聞かない。当初は、プーチンに話をつけられる大統領ということで、支持率があがったそうだが、今では前に戻ったとされる。そして、フランスでも、間もなく大統領選挙があり、国民連合のル・ペンに追い上げられており、最新の調査によれば、決戦投票になった場合の予想投票率は、誤差の範囲だという。つまり、ル・ペン当選の可能性も出てきたのだ。

 私の見方が不十分かも知れないが、では、ル・ペンの国民連合は、ロシアのウクライナ侵攻にどのようなスタンスをとっているのかみようと、国民連合のホームページをみたが、ウクライナに関する記事は見つけることができなかった。日本語の解説記事によると、ル・ペンはプーチンと親しく、高く評価しているという。NATOとアメリカが、プーチンを追い込んでいることが問題だという指摘をしているようだが、政治体質からみれば、頷けることだ。しかし、ロシア軍による大虐殺の映像が流れた現在、アメリカ非難、プーチン擁護では、フランス国民の支持を維持することができるのか、かなり疑問である。
 
 では、マクロンにとって、ウクライナ侵攻はどういう意味になるのだろうか。もちろん、NATOの一員として、ウクライナ支援の立場は当然としても、ドイツ程には、ロシアと経済的に深い結びつきをもっているわけでもなく、かといって、この際軍事支援を自国産業で行って、経済的利益を獲得しようという条件も薄い。フランスは兵器輸出大国だが、相手は主に中東だ。ウクライナへの兵器援助でフランスの名前は、あまり出てこない気がする。
 すると、マクロンは、外交で戦争をやめさせる、あるいはプーチンの譲歩を引き出す「手腕」を見せることが、最も重視されているように思われる。だからこそ、早々とモクスワに飛んだし、電話会談を強調している。マクロンが手腕を発揮して、よい結果をだせるのならば、大いに期待したいところだが、結局、プーチンが重視しているのは、やはりアメリカであり、バイデンとの交渉だろう。しかし、バイデンは今のところ、プーチンと話し合う意思はないようだから、このまま大統領選挙に雪崩込むことになるだろう。当然決戦投票になるから、あと数週間、マクロンがウクライナ停戦のためにどれだけ結果をだせるかも、多少は影響するのだろう。しかし、他国の戦争で、大統領の支持率があがることは、ほとんどないから、やはり、コロナ対策の迷走が悪影響をもたらす可能性もある。ル・ペンの政策をみると、ある意味マクロンより「自由度」が高い側面もあるのだ。
 
旧東欧諸国
 ウクライナ以外では、最も深刻にウクライナ侵攻を受とめているのは、旧東欧諸国だろう。ウクライナがロシアに制圧されてしまえば、ロシアと直接対峙する国家が増えるが、いずれも旧東欧諸国だ。また、制圧されない場合でも、ウクライナから脱出してくる避難民を、まず受け入れるのは、旧東欧諸国だ。ポーランドの避難民受け入れの姿勢は、本当に頭がさがる思いだ。
 旧東欧諸国のウクライナ支援の積極策のニュースは、いくつもある。
・リトアニアが、ロシアの牽制にもかかわらず、ウクライナにスティンガーを提供。
・バルト三国は、ロシアの天然ガス輸入を完全にストップしたと発表。
・ポーランドのモラヴィエツキ首相は、ドイツとフランスがプーチンを止めるために十分なことをしていないと非難。
 それでも、当初はポーランドも、ウクライナ支援に多少及び腰だった側面もあった。ウクライナが希望したソ連製ミグ戦闘機提供を、アメリカの支持もあって積極的だったのが、アメリカの姿勢が消極的に転換すると、ドイツ経由を主張し、結局現時点で実現させていない。しかし、次第に、ウクライナ支援が本格的になったのは、スロバキアが地対空ミサイルを、ウクライナに提供する意向を示したことに表れている。
 今後、旧東欧諸国が、西欧をひっぱる形でウクライナ支援が増大していくように思われる。
 なぜ、旧東欧諸国が、支援に熱心であるのかは、理由は明瞭だろう。
 何よりも、明日は我が身だという予感があることだ。ソ連時代にも、チェコやハンガリーが、ソ連軍の介入を経験しており、とくにプーチンになってからは、チェチェン、ジョージア、クリミアの事実があるから、ウクライナが制圧されたら、次は旧東欧のどこかだと考えでいる。
 第二に、実際に多数の避難民を受け入れており、決して経済的に豊かでない国だから、かなりの負担になっているはずだ。できるだけ早くロシアを撃退、ないし、ウクライナの満足できる停戦に持ち込んで、ウクライナ避難民が帰国できるようにすることが、自国の経済にとっても必要であるということだ。
 第三に、西欧の腰のひけたウクライナ支援では、とうてい打開するのが困難だと認識しはじめたと考えられる。ポーランド首相による独仏非難はそうした気持ちが、端的に表明されている。
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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