まさか安倍元首相の暗殺を予期したわけではないだろうが、時期的に見てもタイムリーな出版だった。書籍が2022年6月22日で、私が読んだ電子書籍の発行が6月30日である。この約1週間後に安倍氏は殺害された。安倍氏といえば、「外交の安倍」と称され、そのトップの課題が常に「北朝鮮による拉致問題の解決」だった。しかし、実は安倍首相は、ほとんど何もせず、ただお題目のように、拉致問題の解決を唱えていたに過ぎないことが、具体的な事例で明らかにされている。
「極秘文書」とは、小泉訪朝によって実現した拉致被害者5人と、その後の8人の家族の帰国後、彼らに、北朝鮮での生活、拉致の模様などを聞きとった文書である。もちろん、まだ残っていると考えられる拉致被害者の救出のために、役立てようと考えて行ったインタビューだった。しかし、その記録文書は、その後極秘扱いにされ、正式にはいまだに公表されておらず、国会議員だったために閲覧可能だった有田氏が、その内容を一部紹介したのが、本書である。そうした内容については、これまでも帰国した拉致被害者から語られてきたこともあり、私にとっては特別に目新しいとは感じられなかったが、こうした内容が極秘にされたこと自体が、やはり注目すべきことだろう。北朝鮮での生活や、拉致がどのように行われたのかについては、興味のある人はぜひ本書を読んでほしいと思う “読書ノート『北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実』有田芳生(集英社)” の続きを読む