いくら安倍氏への批判が強かったとしても、長期政権を維持し、多くの専門家から、高いかどうかは別として、それなりの評価を得ていたことは確かだ。しかし、その評価のされ方も、いかにも安倍氏らしいものがある。
例えば、高橋洋一氏である。これはyoutubeで安倍氏を高く評価しているが、しかし、その理由が、聞く限りにおいては、自分の助言をよく受け入れたということなのだ。安倍氏は、たくさんの助言者を抱えていて、何か判断をしなければならないときには、助言者に電話をして、判断を仰いだという。もともと、自分の信念や大きな制度構想をもっている人ではないから、とにかく日々の施策の判断だ。当然助言者のいうことを素直に聞き入れる。助言者は、自分の助言を受け入れて、それを実行してくれるのだから、当然安倍氏を高く評価するというわけだ。
安倍氏がいかに、安直に助言を受け入れていたかを示す、象徴的なものかアベノマスクだろう。新型コロナが猛威を振るい始めた当初のことで、確かに、何をどうすればよいかについては、いろいろな議論が入り乱れていた。そういうときに、ひとりの補佐官が、国民全員にマスクを配れば、国民は大いに喜んで総理を敬いますよ、と助言したそうだ。そして、それを本気にして生まれたのがアベノマスクだ。その後どのように国民に受け取られたか。ありがたく思った人もいたろうが、多くは、何を勘違いしているのか、と呆れたのではないだろうか。そして、余ったマスクの処理についても、大きな問題が後日生じたものだ。
400億円もかかるようなマスクを、このような助言で実行してしまうのだから、氏の「決断」はだいたい憶測がつく。そして、小さな決断ひとつひとつを誰かに助言を受けているとしたら、助言者の数もかなりのものに違いない。こうして、専門家である取り巻きが形成されたに違いない。もちろん、たいした思考力や知識もないのだから、専門家の助言を仰いで決断するのは、いいことだ。
しかし、そうした自分の側に属する人、更に親しい友人には、厚く遇するが、それ以外のひとたちには、極めて冷淡であるのが、安倍晋三という人物だろう。民主主義国家のリーダーとしてふさわしいとは到底いえない。
そして、権力基盤にかかわることについては、極めて非情だった。
この非情さが、権力基盤の強化を可能にしたのだろう。そして、権力を維持すためには、決してやってはならないことも、躊躇なく実行した。安倍氏が殺害され、統一教会との関係が広く世間に知られるようになったが、なかでも驚くことは、統一教会が深く自民党に入り込んでおり、公明党と創価学会ほどの緊密度ではないにせよ、統一教会なしに、自民党が成立しえないというに近い状況だったことが露顕した。そして、その中核に安倍氏がいたわけだ。
自民党の青山議員が、仄めかし程度ではあるが、統一教会の「票」を安倍氏が差配して、当落ぎりぎりの候補者に配当する役割をになっていたというのだ。この候補はあと5万票たりないから、統一教会の票を6万くらいいれさせよう、というようなことだ。これは、驚くべきことだ。もちろん、統一教会が普通の宗教であれば、自民党そのものは国家組織ではないから、許容できるかも知れない。しかし、統一教会は、信者だけではなく、その周囲のひとたちからお金を巻きあげ、多数の人を窮地に追い込んでいる「邪教」である。そういう宗教団体の票を、自由に扱えるということは、いかに統一教会との関係が深いかを示している。ほとんど一体化しているといえるだろう。
安倍氏と統一教会の深い関係は、これまでも言われてきたが、ここまで密接だとは、私自身知らなかった。
安倍晋三という人の評価をするとき、統一教会との関係は、もっとも重視すべき領域だといえる。