甘い見とおしによる悲劇

 WBCで、アメリカがイタリアに負ける番狂わせがあり、アメリカの一次リーグで敗退という可能性もでてきたのだそうだ。予想としては、アメリカは史上最強のチームといわれていた。そして、リーグ戦で3勝し、これでトッパが決まったと思い込んで、内祝い的なことをやってしまったようだ。大谷のいる日本チームなら、絶対にないようなことだろう。それで、結局最終戦は敗れてしまった。アメリカの場合には、単なる気の弛みともいえない。実際には、まだリーグ突破が確定したわけでなかったのを、誤解したというおまけ付きだ。日本の場合には、たしかに3勝した時点で、リーグ突破だった。しかし、トーナメントにそなえて、4戦目の作戦を変更して準備をした。
 これは、大谷にとって、「勝つことが目的」だが、その勝利は、次の勝利のための通過点という意識に近いものがある。大谷は、当面の目的だった勝利が手にはいっても、絶対に気持もトレーニングも緩めない。次の次が控えているからだ。このように言葉でいうことは簡単だが、大谷のように、当面勝っても、その次のために気を引き締めて努力をさらに高めるなどということは、実際に行うのは、至難のことだ。それを行える人は、ほんとうにわずかだろう。
 世の中には、迫っている闘いに、簡単に勝てると思い込んで、その勝利のための努力に最大限の努力を傾注もしないという人がいる。しかも、それが戦争であり、攻撃の命令をする人が最高権力者である場合には、多大な迷惑がかかる。
 トランプは、既に出口戦略を検討するように、側近から忠告されているようだ。トランプは、本当の内心はわからないが、ベネズエラが成功したように、ごく短期でイランを屈伏させることができると思っていたらしい。最初の攻撃で、いくつかの軍事施設を爆撃し、イスラエルが中心となってイラン指導層の何人か(ハメネイを含む)を殺害したとき、ハメネイが死んだと喜んでいた民衆に対して、これで条件が整ったから、イラン体制をこわし、自分たちが権力を握れと、トランプはイラン国民に呼びかけた。これをみて、私は、正直呆れてしまった。いくら自分たちが憎んでいたとしても、自分たちの国家指導者が、外国に殺害され、その外国が自分たちを鼓舞したとしても、それに呼応する者が多数でてくるはずもないではないか。
 そもそも、ハメネイがなくなったといって、街頭にでて狂喜しているという映像が、本当に喜んでいるのか疑問であるし、また、一部にそういう人たちがいても、別に怒りを示しているひとたちがいるかも知れない。時間がかかったが、イラン指導層が、ハメネイの死を国営放送で流したのは、そのことを知ったイラン国民が、自分たちに歯向かってくることはないことを、確信したからだろう。実際に、トランプの呼びかけに応じたひとたちは、実効的には存在しなかった。この時点で、すでに、トランプは最初の予想が外れたのである。
 当初アメリカの戦争目的があいまいだとの批判があったが、攻撃開始の時点では、「体制崩壊」させることを目的に据えたように報道されていた。それは、しかし、アメリカとイスラエルの軍事力によってそうするのではなく、ハメネイ等の指導者たちを殺害すれば、民衆が立ち上がり、再度「革命」をおこすだろう、と予測をたてていたのだろう。しかし、それは空想だった。
 あまりに甘い予測で戦争をはじめ、泥沼にはまりこんだ事例は、プーチンも同様だ。この点でも、二人は似た者同士といえる。プーチンの甘い予測は、ウクライナにはもちろん、ロシア国民にも大きな被害を与えつつある。イランの被害に対して、アメリカの被害は、現在は小さいが、その小さい被害でもアメリカ国民には、大きな痛手だろう。だが、プーチンもトランプも、選挙で国民が選んだ代表なのである。日本のように、首相を国民が選ぶのではない方式とちがって、国民が直接選んだ大統領である。結局は、国民のレベルにふさわしい政治家しか選ばれないということだとしたら、国の指導者を選ぶことは、ほんとうに大事だという、単純なことを再確認した。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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