安倍元首相狙撃考察6 安倍慎三氏の評価

 日本では、というより、だいたいにおいて民主主義国家では、政治家は生きている間にはさんざん批判されるが、死ぬととたんに評価が高くなると言われている。それに対して、独裁国家では、生きている間は崇められるが、死ぬと途端に酷い人物だったということになる。スターリンなどをみればわかる。
 安倍元首相も、とにかく死後もちあげる人がたくさん出ているから、日本は、民主主義国家ともいえるが、しかし、安倍晋三という人については、生前から、批判も礼賛も極端な人だった。民主主義国家における独裁者的資質の政治家だったといえよう。独裁者の大きな特質は、自分に批判的な人間を許さないということだ。広島における河合夫婦の事件をみればわかる。安倍氏の能力に疑問を呈した溝手氏を追い落とすことが目的だったことは明白であり、それは執拗に行われた。もちろん、山上の犯行(かどうかが、あやしくなったことは、昨日書いたが、一応山上が犯人ということになっているし、犯行の一部を分担したことは間違いないから、ここではそのように扱う)が正当化されることは絶対にないが、もし、日本で暗殺の対象となる政治家を考えると、まっさきに安倍氏が思い浮かべる人は、多かったに違いない。暗殺の対象となることは、決して政治家としてだめなわけではない。リンカーンやケネディをみればわかる。むしろ、民衆のために尽くした政治家だからこそ、そうでない裏の世界の支配者たちにとっては、憎むべき存在で、暗殺の対象になった人も少なくないといえる。しかし、殺したいほど憎まれているということでもある。

 つまり、安倍晋三氏は、とにかく、強く支持する人と、強く批判する人の程度の差が非常に大きかったことは間違いないだろう。
 私は、もちろん、批判派である。当然、安倍氏の総合的評価をしなければならないのだが、急ぎそのための整理をしておきたい。
 
 安倍氏の政治家としての問題は、森友問題に集約しているといえる。安倍氏支持派は、森友問題などは、籠池氏と近畿財務局の問題であって、安倍氏は全然関係ない、などと表しているが、これこそ、安倍支持派も含めての「問題」を表しているといえる。
 籠池氏と近畿財務局の関係は、決して、唯一の問題でもないし、そもそも出発点ですらない。この問題は、安倍夫婦が絡んでいることによって生じたのである。籠池氏は、教育勅語を暗唱させる教育を、幼稚園でやっていて、非常に特異な性格をもった人物である。そういう教育姿勢を高く評価した安倍慎三氏が、新しく小学校を設立したいという籠池氏を援助したことが、出発点である。安倍昭恵氏が名誉校長になった(その後辞退したが)ことでもわかる。だからこそ、近畿財務局は、土地に関して、考えられないような便宜を図ったのである。安倍夫妻の関わりがなければ、あのような破格の条件で土地を入手することなどできるはずがなかった。だからこそ、朝日新聞が問題にできたのである。
 それだけなら、たいした問題にならなかったことは事実だろう。安倍首相は、もし、自分なり、妻が、関係していたら、総理だけではなく、議員も辞職する、と国会で大見得きったわけである。これは、ニュースで何度もながされたから、記憶している人も多いだろう。
 この国会答弁が、その後の財務相のおかしな動きを生み、そして、赤木氏というまじめな職員が自殺してしまうことになったわけだ。ひとりのまじめな職員を自殺に追い込むような、とんでもない文書の書き換えをやってしまったのは、ひとえに、安倍首相の無責任な国会答弁が原因である。つまり、こういう子どもでもわかるような嘘を平気でつくし、また、そのことによって起きる深刻な事態を、まったく想像することができないし、重大で深刻な事態か起きても、自分の責任を認めず、追求から逃れるばかりの程度の人物だということである。森友問題は、安倍晋三という人物が、いかに知性を欠いているかを、もっとも如実に表しているという点で、安倍評価の基本となる事件なのである。
 
 安倍礼賛派は、安倍元首相がたくさんの功績をあげたというが、私には、まったく功績が思い当たらない。とにかく、政治家になるべき人ではなかったにもかかわらず、単に家系が政治家として期待される系統だったがために、若くして父親を継ぎ、また若くして首相になってしまった。しかし、その影響力が甚大だったことは確かだが、その間に、日本経済は、先進国といえない状態にまで後退してしまったし、日本の誇る官僚たちは、上にへつらう小人物になりさがり、若いひとたちの就職先としても、人気が急落してしまった。いまやかつてのような、世界に誇る官僚機構ではなくなっている。
 外交の安倍ともちあげられているが、外交こそ、安倍氏のもっとも苦手な分野だった。プーチンにはだまされ続け、拉致問題はまったく進まなかった。トランプに頼まれてイランに行ったときには、船舶の事故を起こされて、成果もなく、散々な結果だった。
 日米同盟が堅固になったというが、アメリカに対する属国化の程度が進んだに過ぎない。
 私の専門分野の教育においては、極右勢力には高く評価されるだろうが、ことごとく民主的教育の蓄積を破壊しようとした。確かに実行力はあったが、反教育的なことをたくさんやった。教育基本法の改定(特に旧10条の事実上の廃止)や道徳教育の教科化などは、今後の日本人の精神の成長を大きく阻害するに違いない。
 民主党が行った高校授業料の無償化を実質的に、かなり無意味にしたのも安倍氏である。全国学力テストの復活も、実は日本人の未来に必要な学力の形成にとって、大きなマイナスとなる。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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