役重善洋『近代日本の植民地主義とジェンタイル・シオニズム 内村鑑三・矢内原忠雄・中田重治におけるナショナリズムと世界認識』は、氏の京都大学に提出した博士論文である。一度ざっと読んだだけという段階だが、おそらく、これまでにない視点から、日本の代表的なキリスト教徒と植民地主義の関係について研究した労作である。しかし、私は、あまり共感することができなかった。矢内原忠雄研究をしている立場から、無視することはできないので、読書ノートとして検討しておきたい。
共感できない単純の理由のひとつが、日本のキリスト教徒3人の植民地主義を検討するということで、他人をとりあげているのに、植民政策の専門家であった矢内原忠雄がもっとも簡単に扱われていることだ。ページ数では、内村93ぺージ、矢内原35ページ、中田56ページとなっている。内村も中田もキリスト教徒として生きた人物であるが、矢内原はキリスト教徒と同時に、植民政策の日本を代表する研究者であった。しかも、他の二人は植民地に関する専門的論文を残したわけではない一方、矢内原には、当然だが、膨大な植民政策に関する著作がある。ならば、そうした多数の論文を検討しつつ、矢内原のキリスト教徒としての活動をあわせて考察すべきだと思うが、実際に、役重氏が扱った矢内原の植民政策論文は、「シオン運動について」と『満洲問題』であり、少しだけ『植民及び植民政策』が参照されている程度だ。これで、矢内原の植民地主義を批判する上で十分とはとうていいえない。