Law & Orderをみていると、日本とまったく法意識が逆ではないかと思うことがある。シリーズ8には、そう感じる例がふたつ続いた。
3人がひき逃げ事故にあって死亡した。犯人が捕まるのだが、犯人とその弁護士は、飲酒運転をしていたので、意識がなく、無実であると主張する。そして、飲酒の事実を認められれば、無罪が確定するかのようにドラマは進行する。たまたま担当した判事が、飲酒運転撲滅を強く意識しており、この裁判をそれに活用しようとする。しかし、検察としては、ここで法の矛盾に突き当たる。犯人は、飛行機で飲酒をして、そのまま運転し、ひき逃げをするのだが、検察は、飛行機内で世話をしたCAに聴取する。15杯くらい飲み、ぐでんぐでんに酔っていたことがわかる。検察は、それでは無罪になるというので、それを隠そうとする。判事とも険悪になったりするわけだ。最終的には、3人も轢いて殺してしまったことへの反省の気持ちを引き出し、取引をするのだが、このドラマをみて、日本人ならそもそも納得できないものを感じるだろう。
日本なら、飲酒運転で事故を起こせば、それだけで有罪だし、まして意識がないほど泥酔して、3人もひき逃げしたら、かなりの重罪になるはずである。酔っていたので意識がなく、故意ではないから無罪だ、などと思う人間はまずいないといえる。しかし、アメリカでは、無罪なのだろうか。まさか、法の規定を無視したドラマを作るはずもないのだから、なんとも不可思議だ。 “law & order 飲酒運転と植物人間へのレイプ” の続きを読む
カテゴリー: テレビドラマ
Law & Order どちらが殺したのか
第8シリーズ第4回は、非常に難しい、しかし興味深いテーマだった。
誕生日のプレゼントを贈るために、友人に安く売ってくれるように頼み、ニューヨークの夜の暗い場所で待ち合わせる。妻は夫と一緒にそこにいくのだが、嫌がり早く帰ろうというが、夫は、約束なので車から出ると、待ち伏せていたのは、「殺人をしてみたい」という若者で、いきなり車内にいた妻を撃って逃走する。夫は急いで病院に運ぶが、頭部を撃たれていて重体だ。車内には小さい女の子が乗っていて、帰宅したあと、両親が喧嘩していたと警察に告げる。誤解した警察は夫を逮捕するが、直ぐに誤認だったことがわかり、捜査の結果、若者3人の仕業だったことがわかる。最終的に、そのなかの一人が、殺人そのものに興味があって、撃ったことを突き止める。
助かることを期待していた夫に、脳死状態になったので、臓器提供をしてほしいという要請があり、夫はそれに応じる。
裁判が進行するなか、検察が、妻のカルテをみて奇妙なことに気づく。死亡時刻、死亡診断書を書いた医師、そして、臓器摘出の時間があいまいだった。そして、臓器摘出した時点では、まだ妻は生きていたのではないかと判断する。そして、それがやがて被告側にわかってしまうと、殺人罪を問えなくなるので、漏れる前に、司法取引に持ち込もうとするのだが、何かおかしいと感じた弁護士が、取引を拒否する。そして、証拠提出をせまり、検察が隠していたことを突き止め、殺人罪が成立しないことを主張する。 “Law & Order どちらが殺したのか” の続きを読む
Law & Order 黒人の暴動
主にニューヨークの犯罪を扱ったドラマだから、当然黒人問題が様々な観点から関わっている。そのなかで、現在起きているアメリカの騒動を考える上で、Law & Order の第4シリーズ19回目を紹介したい。こちらの暴動は、今起きている状況より、ずっとおとなしいが。
二人の黒人の少年がバスケットのボールでドリブルをしながら、ハーレムの歩道を歩いている。後ろから知り合いと思われる黒人少年が走ってきて、ボールを奪い、しばらく進んであと、後方に大きく投げる。とられた一人が、ボールを追いかけ、車道に走り出て、丁度走ってきた車に轢かれて死亡する。轢いたのは、ユダヤ人のバーガーだったが、その場は逃げてしまう。そして、数時間後に弁護士を伴って自首する。
ドラマをみている者は、たぶん防ぎようがない事故だったろうということと、逃げたのは何故という疑問をもつ。ベーガーは「ハーレムで黒人を轢いて、無事にいられるか?」と逆に刑事たちに問いかける。不可抗力の事故だったので、自分から警察にやってきたのだという。検事も起訴すべき事案ではないと考えるが、そのままに不起訴にするのもどうかと、大陪審(起訴すべきかどうかを、市民の審議にかける場)にかける。結果は不起訴となる。 “Law & Order 黒人の暴動” の続きを読む
Law & Order 死刑をめぐって
アメリカは、日本とともに、先進国として死刑制度を残している例外的な国である。もっとも、多くの州は廃止しており、制度的に許容している場合でも、実際の死刑判決がほとんどでていないというところも多い。Law & Order は、ニューヨークを舞台としているが、1995年にパタキ知事によって再導入された。Law & Order は、第6シリーズにあたり、このシリーズでは死刑の話題がしばしば登場する。そして、実際に死刑判決がでるのが第3回で、死刑執行がなされるのが最後の第23回である。
ある死体が発見されるが、それは潜入捜査官クロフトだった。死刑が再導入された時期だったので、警官が殺害されたとあって、刑事たちは必ず犯人を捕まえると意気込み、検察は最初の死刑適用事例にしようと考える。結局、犯人は、表は社会的地位が高く裕福な公認会計士のサンディグであり、家族と幸せな生活を営んでいるが、裏では、麻薬王の一人の手下で、公認会計士としての地位を利用して、資金洗浄に協力していた。それをクロフトに嗅ぎつかれて殺害したのだった。 “Law & Order 死刑をめぐって” の続きを読む
Law & Order の考察を始めるにあたって
以前、アメリカのテレビドラマの Law & order をスピンアウト作品も含めて、大部分見たのだが、最近、見直している。鬼平犯科帳は、一通り、テーマとして扱えるものは終わった感じなので、今度は、Law & Order について、順次考えていこうと思う。アメリカの人気ドラマで、同一題名での最長記録と言われているようだし、(20年継続)、さらに、スピンアウト作品が、私の知る限り5つもあり、そのなかの性犯罪を扱ったシリーズも、20年に達している。とにかく、こんなに多い回数作られた連続ドラマは、他に例がないだろう。有名な作品だから、多くの人が知っていると思うが、これだけ続いたということは、やはり、社会のなかで存在意義がずっとあったということだ。内容の紹介と考察は、次回以降にするとして、日本のドラマとアメリカのドラマを、この作品で代表していいかは疑問だが、ひとつの特質としていえることがある。日本の刑事ドラマでの長く続いている代表は「相棒」だろう。そして、「相棒」は、いくつかの過去の作品からヒントをえているといえる。シャーロック・ホームズ、刑事コロンボ、そしてこのLaw & Order である。一番似ているのが、Law & Order だと思う。「相棒」は、刑事二人が相棒として活躍し、事件を解決していくが、Law & Order もドラマの前半はそういう構成になっている。しかし、ドラマの作成として、「相棒」は水谷豊が不動の主人公で、相棒は現在4人目であるが、変わっていく。しかし、Law & Order では、二人の刑事も、後半の主な担い手の検察二人も、3,4年で交代している。もっと長い人もいるが、とにかく、ずっと出ている人は、一人もない。つまり、「相棒」は、水谷豊という俳優が中心となる構成になっているが、Law & Order はあくまでも刑事二人と検察二人という構造が中心になっている。 “Law & Order の考察を始めるにあたって” の続きを読む
「鬼平犯科帳」 平蔵は剣豪?
小説やドラマとしての「鬼平犯科帳」では、盗賊をとらえるときには、長谷川平蔵が出張るだけではなく、最も手ごわい相手と切り合い、切り殺したり、あるいは召し捕ったりする中心となる。しかし、それはあくまでもフィクションとしての面白さをだすための、時代劇に必須のアイテムとして設定されていると考えられる。NHKの「その時歴史は動いた」の長谷川平蔵篇では、 実際に捕まえたのは、スリなどばかりだったと放映したと、どこかに書かれていたが、それは違うだろう。小説ではなく、実在の長谷川平蔵を紹介する文献でも、かなりの人数の盗賊を捕縛したことは、何度もあるという。しかし、ほとんどの盗賊は、実際に現場を押さえられ、多数の盗賊改方の捕手たちに囲まれると、抵抗もせず逮捕されたらしい。これは、現在の暴力団ですら、警察が逮捕にきたら、銃で応戦するなどということはなく、そのまま素直に逮捕されることから考えれば、納得できることである。
ただ、そうした派手な捕り物以外の場面で、「鬼平犯科帳」では、当代随一ともいえる剣客として、切り合いを演じたり、あるいは、襲われる場面が多数でてくる。 “「鬼平犯科帳」 平蔵は剣豪?” の続きを読む
鬼平犯科帳 悪事への欲求
鬼平犯科帳は、いうまでもなく、犯罪者、とくに盗賊の犯罪を扱った小説である。盗賊といっても、様々なタイプの盗人が登場する。しかも、「本格の盗賊」とそうでないものに区分までしている。本格の盗賊とは、
・盗られてこまるようなところからは盗らない。
・人を殺さない。
・女を犯さない。
という三カ条を守るものをという。それに対して、財産全部盗ったり、あるいは殺人、強姦をするものに対して、平蔵は厳しく取り締まるし、また、本格盗賊も、彼らの軽蔑する。
ところで、盗賊といっても、いつまでも盗みを働き続けるわけではなく、途中で嫌になったり、あるいは、高齢になって引退することもある。また、捕まってしまう場合もある。捕まった者のなかで、改心し、役に立つと平蔵が判断すると、密偵に取り立てる場合もある。そういう引退したり、あるいは、密偵になった元盗賊が、盗みへの欲求を抑えられなくなるときがあるようだ。また、とくに盗賊だったするわけでもない、普段は善人なのに、ふと火付けをする話もある。 “鬼平犯科帳 悪事への欲求” の続きを読む
「鬼平犯科帳」 鬼平の隠蔽
現内閣は、隠蔽の名人ともいえる。いや、名人はうまくやるものだが、現内閣の隠蔽は、隠蔽していることが白日の下に晒されているから、何の工夫もしていない。追求側に、それを覆す力がないので、露骨な隠蔽をされても、隠蔽側は嵐はやがて去るという姿勢だ。日本の政治家の劣化が甚だしいという事例だろう。
現内閣の隠蔽は最高責任者の悪事が対象だから、始末が悪いが、さすがに長谷川平蔵は、失策を何度かしているが、悪事はしていない。若いころのごろつき同様の生活をしていたころには、何度かあり、それが物語で蒸し返されることはあるのだが。ただし、長谷川平蔵も隠蔽をしている。しかし、それは自分のことではなく、部下たちの不祥事に関してである。
もちろん、隠蔽不可能だったこともある。「あごひげ三十両」で、盗賊改方与力高田万津之助が、津30万石藤堂家の家来3人と切り合いになり、相手のひとりを死なせ、自分も怪我をして、翌日息をひきとる。高田に非がある喧嘩で、平蔵は、若年寄堀田摂津守に呼び出され、「いずれにぜよ、お役目は相つとまらぬものとおもうていよ!」と謹慎を言い渡されてしまう。
料理屋で始まった喧嘩であり、大藩の家臣を切り殺したわけだから、隠蔽のしようがなかったわけである。
しかし、以下紹介する4つの事例は、いずれも、当人は事情は異なるが、いずれも死んでしまうが、平蔵はそれを届けることなく、形としては、隠蔽してしまうのである。 “「鬼平犯科帳」 鬼平の隠蔽” の続きを読む
鬼平犯科帳 密偵の誕生
「鬼平犯科帳」には、大勢の密偵が登場する。主に活躍するのは、平蔵直属の密偵だが、与力や同心についている密偵もいる。実際にそうであるかはわからないが、「鬼平犯科帳」に登場する密偵のほとんどは、元盗賊である。したがって、かつての仲間を裏切って売る行為をしている。そのために、盗賊からは狗と蔑まれている。それを承知で、密偵を務めている。江戸時代の奉行所に勤める同心がつかっている密偵たちも、犯罪集団すれすれの人間が多かったとされるが、平蔵の密偵たちは、全員がそうだ。そして、それぞれ、密偵になるいきさつが物語のなかで語られる。例外は伊三次のみで、彼は最初から密偵として登場し、しかも、主要な密偵のなかで、一人だけ殺されてしまう。そのせいか、伊三次にはファンが多いようだ。
では、それぞれどんな経緯で密偵になったのだろうか。 “鬼平犯科帳 密偵の誕生” の続きを読む
鬼平犯科帳 浪人になると
失業は今でも大きな人生上の困難である。失業保険や生活保護などがあるけれども、それでも、失業すれば生活の保障がなくなる。江戸時代は、多くの者は生まれついた職業、身分をもっており、ほとんどの者は一生変わらずそれを保持する。農民などは飢饉で苦しむことはあっても、それは一時的であるし、農業そのものが倒産したりということは、おそらくあまりなかっただろう。しかし、武士には、失業の危機は少なくなかった。自分の家だけではなく、主家が潰れてしまう。家の跡取りがいなければ、家そのものがとりつぶされるし、また、主人に不祥事があれば御家断絶となる。その場合、家来や家人は、生活の糧を失うことになる。失業である。
武士が失業、つまり浪人になるとどうなるのだろう。鬼平犯科帳には、多数の浪人が出てくる。そして、その生きざまは実に多様である。しかし、犯科帳であるから、犯罪者を扱った小説なので、当然、悪の道に落ち込んだ浪人が、たくさんでてくる。しかし、ここでは、そうではないふたつの物語を考えてみよう。「乞食坊主(ドラマでは「托鉢無宿」)」「用心棒」のふたつである。 “鬼平犯科帳 浪人になると” の続きを読む