福井県池田中学事件 担任は刑事責任を負うべきか

 この事件はかなり酷いものだ。教師は、ともするといじめに加担するだけではなく、自らが生徒に対していじめ、というよりは、パワハラというのが適切な行為をしてしまうことがある。この事件は、その教師によるパワハラによって自殺したと見られる事例である。しかし、検察審査会などの審議を経たあと、結局検察による起訴はなされなかった。
 教師は、国家賠償法によって、教育活動によって生じた不法行為に対して、個人としての賠償責任を負わないことになっている。しかし、刑事責任はもちろん個人として負うしかない。この事件は、非常に稀な刑事責任を告発された事件である。実際に刑事事件として扱われたものもあることはある。有名な水戸五中事件などがある。水戸五中事件は、証拠などの不備によって、加害責任を問われた教師は無罪となったが、直接暴力を振るったという目撃証言があったために、起訴された。また、岐陽高校事件のように、有罪になった事例もある。
 しかし、この池田中学の場合は、自殺であり、直接的な暴力によって亡くなったわけではない。したがって、法的問題として考えたときには、単純ではない。
 
 まず事件の概要とその後の経緯を整理しておこう。

“福井県池田中学事件 担任は刑事責任を負うべきか” の続きを読む

ワクチン接種、地域の状況

 報道では、今日から高齢者へのワクチン接種が始まったとして、いくつかの都市での接種の様子を放映しているが、他の地域での実態はどうなのだろうか。私自身も高齢者であるし、切実な問題であるから、自分が住んでいる場所での状況から考えてみたい。 
 私は千葉県に住んでおり、千葉県のホームページによると、4月中に市町村に配布されるワクチンは76箱である。1箱1000人分弱(1回接種)である。(ただし、1バイアル5回分接種と計算してのこと。6回用の注射器が普及すれば、もっと多くの回数接種できることになる。)そして、我が市には、2箱となっている。つまり、2回接種では、1000人分だ。千葉県のホームページではそこまでしか書かれていない。つまり、その後の配布はわからないということだ。ただし、4月よりは改善されるだろう。

“ワクチン接種、地域の状況” の続きを読む

いじめ告発者を名誉毀損で提訴できるか

 韓国のトップバレーボール選手が、若いころにいじめをしていたことを告発されて、選手生命をほぼ絶たれてしまった状態になった。そして、その後続々と、過去のいじめの告発が相次いだという。将来トップアスリートになるような人は、当然グループの中で力があり、中心的な位置を占めていたのだろうから、きついことも言うだろうし、言われた側が根に持つことは十分にありうる。もちろん、それは精神主義的な練習が幅をきかせている世界で起きがちなことであって、相互協力的で、かつ科学的トレーニングが実行されているようなチームでは、そうしたいじめやパワハラは起きにくいのだが、日本もそうだし、韓国でもまだ精神主義が支配的なのだろう。
 しかし、過去のそうしたハラスメントが必ず後年になって、蒸し返されるわけではない。この姉妹のバレー選手の場合には、他のいじめに関連して、「そういうことはよくない」という趣旨の発言をしたことが、藪蛇になったということだ。だから、過去のいじめが必ず暴かれてしまうというわけではなく、過去の加害者のその後の姿勢によって影響されるのだと考えられる。 
 ところが、この事件はその後意外な展開を見せ始めているという。ナショナルチームの代表となるような選手生活は、永久に絶たれてしまったと言われている姉妹が、今度は逆に、自分たちを告発した人に対する提訴を検討しているという。最初の告発については、内容をほぼ認めていたにもかかわらず、そういうことがありなのか。かなり議論になっているという。

“いじめ告発者を名誉毀損で提訴できるか” の続きを読む

放射能汚染水の海放出 いくつかの疑問

 原発が開始される前のものだと思うが、さだまさしと糸川英夫博士の対談がある。そこで糸川博士は、明確に、処理法がまだわからない事業はやってはならない、と断言していた。それから半世紀以上もたつが、処理法はいまだに確立していないだけではなく、そもそも処理施設の建設すら行われていない。使用済み核燃料の処理は、地下深く埋めるという方式が、国際的にも確認されているようだが、実際にその処理施設の建設に着手しているのは、北欧だけだ。日本では、場所すら選定されていない。そして、原発事故が起きてしまい、放射性物質を含む汚染水が大量に貯蔵される事態となっている。もし、どのようにやっても、トリチウムだけは個別に取り出して、固定化するなどということができないのなら、確かに海への放出以外にはないのかも知れない。しかし、それでも、政府や東京電力が進めているのを、報道でみている限りでは、いくつかの疑問に答えた上での放出となるのか疑問が起きる。素人ながらの疑問を書いておきたい。
 
できることを尽くしたか

“放射能汚染水の海放出 いくつかの疑問” の続きを読む

小室圭氏の回答の説得力は?

 西村宮内庁長官から要請があった「説明責任」に応じる文書が、長文の弁明書としてだされた。ホームページで一般公開されているので、読んでみた。とにかく長いだけではなく、大量の注がついており、いかにも読みにくい。弁護士になるための勉強をしている雰囲気がよく出ているのかも知れない。宮内庁長官は自分の要請に応えてもらったためなのかはわからないが、えらく高く評価しているという報道がなされている。しかし、小室問題に関心をもってきた国民が、これを読んで、「納得した」という人は、ほとんどでないのではないかと思う。国民は、納税者として、天皇(当然皇室も相当する)は、憲法的に「国民の総意」に基づくとされる存在として、この問題に関心をもたざるをえないのだが、そういう立場からすると、小室氏がここで詳細に記述している「借金・贈与」は、問題のひとつに過ぎず、むしろ、今や小さな問題ですらあるということが、まったく理解されていないようで、「失望」を増幅せざるをえないものだったというのが、率直な感想だ。
 
 まず、詳細に弁明がなされている「借金・贈与」問題についても、説得力はあまり感じない。一読した限りだが、彼の主張の要点を整理すると

“小室圭氏の回答の説得力は?” の続きを読む

オリンピック水泳予選の奇々怪々

 水泳のオリンピック予選の大会が、コロナ対策が十分ではないという理由で、中止を宣告されたが、本日の報道(共同通信)によれば、一転開催となったのだそうだ。
 なにがあったのか。こういうことに、きちんとした発表はないだろうから、想像するしかないが、考えられるのは2点だ。
 第一に、なんらかの支出を約束した。伝えられるところによると、コロナ対策の費用を、国際水泳連盟のほうに求めたのが、拒否の理由だったということだから、それはこちらでもちます、というように方針転換をして、それを伝えたということが考えられる。PCR検査やワクチンの費用は、IOCがもつということのはずだから、水泳連盟にそれを求めたとしても、おかしくはないのだ。だが、圧力をかけられてすぐに撤回するくらいの腰抜けぶりは、現在の組織委員会では用意に想像がつく。
 第二に、ワクチン接種について、オリンピック選手として候補になっている人には、優先的に行うことを政府が検討しているというニュースである。なぜ、そんなことを今いいだしたのかは、やはり、水泳の予選中止をうけて、橋本委員長あたりから泣きつかれたのに相違ない。もちろん、想像だが。
 いずれにしても奇々怪々だ。まだ、最初の医療従事者の接種すら、かなり低い段階で、高齢者の正規とはいいがたい、見せるための先行接種すら始まっていない段階で、アスリート優先を打ち出すなどという、まったく非常識な検討を表明することも、おかしなことだと思っていたら、こういうことだったのか、と、悪い意味で「納得」した。腐っているのは、日本の政府やオリンピック推進勢力だけではなく、国際的な組織もそうなのだということが、よくわかる。

菅首相は本当に訪米できるのか

 菅首相が4月の中旬に訪米して、バイデン大統領と対談を行う予定とされている。最初の日程が一週間延期されたのは気になるが、とにかく、バイデン大統領と最初に対面で会談をする、世界で最初の首脳だということが、自慢のようだ。
 しかし、ここ数日の間に、コロナの感染が急拡大している。大阪は、過去最大の感染数を記録しているし、どう考えても意図的に検査数を絞っていると思われる東京ですら、じわじわと上がってきた。こんな状況のなかで、外国訪問などできるのだろうか。菅首相は、口を開けば、コロナ対策に万全を期すと言っているが、実際のところ、本当に必要なことは、ほとんどしていない。自らの失策で遅れに遅れてしまったワクチンの確保に、それなりの本腰をいれているくらいではないか。それだって、まだまだという感じだ。
 考えてみると、昨年の安倍首相に(当時)始まり、小池都知事、菅首相と、コロナ対策は、決定的に失敗しており、その要因のひとつがオリンピックをなんとしてでもやりたいという野望にあることは明白だ。コロナ対策は、昨年の3月くらいまでは、新しい事態として戸惑うのは仕方なかったとしても、それ以後は、感染症対策に必要なことは、専門家でなくても明白だった。

“菅首相は本当に訪米できるのか” の続きを読む

東京都のコロナ施設の改修問題 あまりにいいかげん

 2021年4月7日の毎日新聞に、少々びっくりする記事が出ていた。「48億円かけたのに一度も使わず 感染者用に改修の五輪警官宿舎」という記事である。東京オリンピック・パラリンピック用の警察官仮設宿舎がコロナのための軽症者向け滞在施設に改修されていたのに、一度も使われることなく元の姿に戻ることがわかったという記事だ。昨年4月に改修され、また今回元に戻すための改修で、合計48億円かかっているのだそうだ。元々、オリンピックが開催されれば、警備のために大量の警察官が必要となり、全国から応援を求めるために、警察官のための宿泊施設を仮設住宅として、数カ所建設していたという。オリンピックが延期になって、当面使わなくなり、かつコロナ感染が拡大してきたので、隔離施設として使用するための改修をしたわけだ。ところが、一度も使われることがなかったという。ひとつには、ホテルを優先したためと、それでも余裕があったからだと、この記事のなかで都の職員は説明している。しかも、この記事によると、ホテルの入所者がもっとも多かったのが1100人で、それでも確保した質数の半分強は使っていなかったというのだ。

“東京都のコロナ施設の改修問題 あまりにいいかげん” の続きを読む

学校におけるプログラミング教育 バッキンガム氏の批判

 『メディア情報リテラシー研究』という法政大学の坂本旬氏が中心になっている研究誌に掲載された、ダヴィッド・バッキンガム「なぜ子どもはプログラミングを教わるべきではないのか?」という短い文章を読んだが、プログラミング教育が必修になった日本の情報を考える上でも、興味深い論文であった。日本で、2020年から、小学校から高等学校まで、プログラミングが必修になったわけだが、少なくとも、当分の間大きな成果があるとは思えないし、次の学習指導要領で方向転換がなされたり、あるいは修正がなされる可能性は高い。日本のICT活用を進めるために、学校でのプログラミング教育を必修にすることが、本当に適切なのかは、大いに議論する余地があると思うが、特段大きな反対もなく決まってしまったような印象だ。

“学校におけるプログラミング教育 バッキンガム氏の批判” の続きを読む

「鬼平犯科帳」すきな話2 お熊と茂平 勘違いが事実に

 平蔵の勘違いが、やがて本当になってしまい、事件解決に至るという、変わった構成の話である。
 お熊は、本所の弥勒寺門前で、笹やという茶店を経営していて、平蔵が若いころ、放蕩生活をしていたときにいろいろと助けてくれた因縁の70歳にもなる老婆である。茂平は、3年前弥勒寺の前で行き倒れになっているところを助けられて、弥勒寺で下男になっている老人である。その茂平が腸捻転で死にそうになっているときに、お熊を呼び、自分の死を、千住の畳屋庄八に伝えることと、神奈川宿の牛松と一緒に住んでいるおみつに58両のお金を届けることを頼む。あまりに多額の金なので、恐ろしくなり、平蔵に処置を頼みにくるところから、話は始まる。その話をきいた平蔵は、畳屋の庄八は盗賊で、茂平はその仲間で、引き込みとして弥勒寺に入っているのではないかと疑う。そして、沢田同心と密偵伊三次を連れて、お熊と一緒に、千住に出かける。お熊は、庄八に茂平の死を知らせ、そのまま帰ってくるが、そのあとを庄八の妻がつけていく。同心と密偵は、そのまま庄八宅を見張るために残り、平蔵もお熊の店にいく。庄八は、茂平の死体を引き取りに弥勒寺に出向き、その後越谷に出かける。それを酒井同心がつけ、翌日、平蔵にそのことを告げる。

“「鬼平犯科帳」すきな話2 お熊と茂平 勘違いが事実に” の続きを読む