ネット依存症・ゲーム脳・対応1

 度々『教育』の文章の論評を書いているが、別途、『教育』の書かれたすべての論文を批評するlineをやっている。その参加者から、『子ども白書2020』に書かれた文章の問題性を指摘された。それは、教科研に参加している人が多いのに、この『子ども白書』はインターネットに極めて後ろ向きな文章が多いということ、そして、その典型がゲーム依存症に関するものだという。それで早速市立図書館にいって、関連文章を読んでみたが、既に、『教育』の個別論文批評で扱っているひとたちの同種の論文があったが、それとは別に、成田弘子「休校をきっかけにメディア機器とのつきあいを考える」という文章があった。そこに「スマホの時間 わたしは何を失うか」という図が掲載されている。日本医師会と日本小児科医師会のホームページからとっているということだが、スマホをやっていると「睡眠時間、学力、脳機能、体力、視力、コミュニケーション能力」が失われるのだそうだ。文字通りにとれば、間違いではない。しかし、何をやったって、同じではないだろうか。読書もほとんど同じように、失われるはずだ。子どもは読書にふけるなんてことはない、という前提で考えているのか。昔は、農民や労働者の家庭では、子どもが本を読みふけっていたりしたら、かなり怒られたらしいから、同じようなことを大人は考えるのかも知れない。しかし、今読書をすると、何が失われるか、などという「問い」そのものを考えないだろうし、懸命に読書依存症としてやめさせようとはしないだろう。なぜ、読書はよくて、ゲーム、スマホはいけないのか。

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オリンピックの学校観戦と尾身氏の反乱

 オリンピックでの観戦の規模について、ますます大きな困難が露になってきた。特に、学校単位での観戦の予定が次第に明確になってくるにしたがって、現場への負担が大きくなっていくことが予想されている。
 もちろん、通常の開催が可能であれば、子どもたちの観戦は大いに意味があるかも知れない。それでも、時期的な問題は重くのしかかるのだが。何度か書いているように、前回の東京オリンピックのとき、私は高校生で、学校全体でサッカー観戦にいくことができた。しかし、それは10月のことで、気候も非常によかった。しかし、今回は7月、8月という酷暑が予想される時期だ。コロナがなくても、熱中症の危険がある。事実、数年前、千葉の小学生が、校外学習の際に熱中症で死亡している。そうしたことが、起きない保障は何もないのである。更に今回は、コロナの不安がある。

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オランダ留学記6 オランダ人の生活

 オランダは、非常にユニークな国だ。オランダが発祥となった社会システムもたくさんある。新しいところでは、安楽死やソフトドラッグ、同性婚の合法化など、そして、古くは、株式会社、自由刑、先物取引など、その後世界で普通のことになっている制度がいくつもある。そして、ユニークさは、こうした点だけではなく、オランダで生活してみると、いろいろとあることに気づいた。今回は、そうしたユニークと感じた生活の姿を紹介する。
 オランダにきて、なんとなく気づいたことは、オランダ人の生活はゆったりしているということだ。私が住んだ地域が、特にそうだったのかも知れない。移民が多く住んでいるような地域は、様相が異なっていただろうが、それは10年後に再度オランダに留学したときに感じたことだった。

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鬼平犯科帳 密偵の自害

 鬼平犯科帳には、たくさんの密偵が登場する。いずれも以前は盗賊だったためか、非常にくせのある個性的な存在である。そして、長谷川平蔵直属の密偵として、常に中心的に使われている6名と、途中で登場したり、あるいは、登場する回に死んでしまったりする密偵もいる。そのなかで、死んでしまう密偵は、やはり印象に残るし、考えさせる。
 たくさん活躍している密偵は、たいがい密偵になった事情が語られているが、なかには突然登場して、密偵になった経緯が、具体的にはわからない者もいる。仁三郎もその一人である。
 仁三郎は、連作の「鬼火」事件に、突然いなくなった主人が居酒屋で、見張りをする密偵として登場するが、鬼火事件では、それほどめざましい活動はしない。むしろ、次の「蛇苺」で重要な役割を果たす。といっても、活躍するのではなく、むしろ失敗である。尾行を平蔵に命じられて、二度も見失ってしまい、しょんぼりしているところを、平蔵に「お前ほどの者なのだから」と、非常に困難であったのだから仕方ないと慰められ、次の仕事は必ずという決意を新たにするという役どころである。
 そして、いよいよ、次の話である「一寸の虫」では、その篇の主人公となっている。しかし、ここで死んでしまうのである。

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オリンピック開催による矛盾

 どんな社会状況であろうと、どんなに反対が強かろうと、そして、どんなに海外からの疑問が提起されようと、オリンピックは開催するという強行路線を貫徹しようという政府の姿勢が、明らかになってきた。聖火リレー開始前までは、多少とも状況による冷静な判断ということもありうるかと考えていたが、今は、まったく開催以外のことには、目を向けないようになっている。開催しない、あるいは無観客となると、入るべき収入がなくなる、あるいは、スポンサーの圧力に抗し得ないなどの事情があるのだろうか。しかし、このコロナ禍における開催ともなれば、いくらなんでも、国民の猛反対に応える措置も必要となると判断せざるをえない。いろいろな施策が打ち出されている。しかし、それらは、ことごとく、欺瞞的なものになっている。
 安全・安心のために、選手たちは、陰性の証明が必要であり、また、バブル方式という、完全に管理された範囲でのみ行動を認めるという。しかし、これは二重三重の欺瞞がある。 “オリンピック開催による矛盾” の続きを読む

読書ノート『私は親に殺された! 東大卒女性医師の告白』小石川真美(朝日新聞)

 なんとも刺激的な題名だが、実際に親に殺されたわけではない。38歳で、なんとか親との絶縁宣言ができた著者が、それまでは、親に支配され、そのために、重篤な精神疾患に罹患し、何度も自殺未遂を図った記録である。確かに、すさまじい親による精神的虐待であるが、(父親からは数回の身体的暴力もあったことが書かれているが)母親からすれば、納得のいかない内容であるかも知れない。著者の側からの真実ということになるのだろう。
 単なる読者としては、そんな人生ってあるのかと思うようなことが、ずっと続いている。
 読んで、多くの人が不思議に感じるに違いないことは、東大の医学部を卒業した医師であるにもかかわらず、コンプレックスに苛まれ、それ故にこそ、様々な奇行というか、愚行というか、常人には考えられないような行動をしばしばとっていることである。最初に出てくることは、運動が苦手な著者が、小学校1年生のとき、逆上がりをする体育の時間に順番が回ってきたとき、先生が「真美ちゃん、この間、放課後2人で練習したときはできたじゃない。頑張って。」といって、励ましてくれたのに対して、「私、逆上がりなんか一度もできたことない。先生の嘘つき」と皆の前で叫んだという。その結果、その教師は、母親のところにやってきて「真美ちゃんは末恐ろしいお子さんですね」と怒鳴ったというのである。普段から、母親が「嘘は絶対にいけない」と教えてきたから、先生が嘘をいうことに対して許せなかったという気持ちだった筆者に対して、母親は、「せっかく先生が思いやりでいってくれたのに、先生を嘘つき呼ばわりするなんて、なんて子なの」と叱りつける。嘘をつくなと教えてくれた母親に、正直だったことを誉められるかと思いきや、先生におもねって自分を叱りつける母に萎縮してしまう。

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性同一性障害へのトレイ訴訟判決のもうひとつの側面

 報道では、「トイレ制限訴訟」として報道されていたが、実は、この訴訟は、もうひとつの訴因がある。不思議なことに、新聞報道ではそちらの面がどう判断されたのか、ほとんど報道されていないので、実はわからない。わからないが、争いの内容は分かっているので、今回は、もうひとつの側面を考えてみることにする。
 そこに入る前に、この判決について、youtubeの一月万冊がとりあげていて、トイレ制限を認めるなどは、けしからんという話から入っていたが、相棒の安富氏が主に話しだすと、むしろ、もうひとつの側面が中心になって議論されていった。双方をとくに区別して議論していなかったが、トイレ制限と人事は、まったく異なる性質をもっていると思うのである。
 もうひとつの側面とは、経産省が、正式な性転換をしないと、人事異動を認めないとしたことである。そこで、正式な性転換とはなにかという話になる。

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持久走で小学5年生が死亡

 今年の2月に、大阪で、体育の授業を受けていた小学校5年生の男子が死亡していた。それが、わかったのが数日前で、間があいたことの理由はわかっていないようだ。体育は持久走で、マスクを顎にかけた状態で倒れていたので、マスク着用に関する指示に関して議論になっている。この議論は、非常に複雑で単純な結論をだすことはできないといえる。例によって、ヤフコメを参照してみたが、ヤフコメとしては異例で、多様な主張が乱立していた。比較的単純な話題に関しては、90%以上が同一見解が示されるのだが、この件については、大きくわけても5,6種類以上の意見があった。
 まず、授業は2月であること。この時期、学校の体育では持久走を行うことは、めずらしくない。ただし、この持久走は、距離を指定しているのではなく、5分間走るという形式だったそうだ。それから、マスク着用については、強制はしていなかったと公表されている。
 大きな議論になっているのは、マスク着用の体育という点だ。現在の指導では、文科省は、体育の授業ではマスク着用は必要ないという立場をとっている。ただし、禁止ではない。

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性同一性障害者へのトイレ制限訴訟の判決

 一昨日LGBTに関する文章を書いたら、昨日、性同一性障害をめぐる訴訟の東京高裁判決が出て、しかも、地裁判決に対する逆転判断となっているために、大きな話題になっている。おりしも、自民党が、LGBT理解増進法案を了承したという報道もあり、再度考えてみることにした。
 判決は、経産省勤務の女性(元男性)が、女性用トイレの使用をめぐって、経産省側がトラブルの不安があるので、異なる階のトイレをと主張したのに対して、それを不服として提訴したものであり、地裁ではトイレ制限は違法であるとして、原告を勝訴させ、昨日の高裁判決は、違法ではないとしたものである。この判決については、既に大量のヤフコメがついており、多数は、高裁判決を支持している。
 私は一昨日のブログで、LGBTに関する法としては、差別禁止を規定することが必要で、むしろ理解増進を「法」で決めることには疑問を呈しておいた。このトイレ問題は、差別禁止原則の下で、これが差別にあたるのか、あるいは、合理的な区別を求めたのかという判断をすればよいのだと思う。

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スクールカーストの克服

 久しぶりにスクールカーストの話題が新聞に載っていた。(スクールカースト いじめの温床 「女子は1軍、2軍、3軍に分かれている」西日本新聞)https://www.nishinippon.co.jp/item/n/413024/
 九州北部の小学校、5年生でのできごとだ。いじめをテーマにした授業のあとの感想文に、「女子は1軍、2軍、3軍に分かれている。」と書かれてあった。ファッションセンスの敏感なAは、1軍で彼女が中心になって、いじめが始まった。そこで、担任教師は、いじめの構造(被害者、加害者、観戦者、傍観者)の話をしつつ、クラスに発生していたいじめを話し合わせたという。そのなかで、リーダー(A)に逆らえない、遊びだ、泣いているのを見ると面白い、などの率直な意見を引き出しつつ、担任は、面白いといった子どもに、放課後「自分がそうされたら」と聞く。また、リーダーのAとも話し合う。Aは、母が障害がある姉にかかりきりで、自分をかまってくれないことへの悩みを語る。それがいじめとなって表れていた。母親とも話し合うが、納得のいく合意には至らなかったようだ。この記事では、その後どうなったかは書かれていない。気になったのは、この担任は、優れた指導力を発揮しているが、子どもの指摘以前は、スクールカーストの存在を意識していなかったことだ。

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