オリンピックでの観戦の規模について、ますます大きな困難が露になってきた。特に、学校単位での観戦の予定が次第に明確になってくるにしたがって、現場への負担が大きくなっていくことが予想されている。
もちろん、通常の開催が可能であれば、子どもたちの観戦は大いに意味があるかも知れない。それでも、時期的な問題は重くのしかかるのだが。何度か書いているように、前回の東京オリンピックのとき、私は高校生で、学校全体でサッカー観戦にいくことができた。しかし、それは10月のことで、気候も非常によかった。しかし、今回は7月、8月という酷暑が予想される時期だ。コロナがなくても、熱中症の危険がある。事実、数年前、千葉の小学生が、校外学習の際に熱中症で死亡している。そうしたことが、起きない保障は何もないのである。更に今回は、コロナの不安がある。
まず今日の朝日新聞の報道でわかったことだが、組織委員会は、自治体を通じて、学校からのキャンセルを受け付けているそうだ。さすがに、組織委員会としても、これまでとった希望が、そのまま維持されていると決めつけるわけにはいかないので、今月一杯はキャンセルを受け付けるそうだ。この記事によると、オリンピックの希望が60万枚、パラリンピックが68万枚だそうだ。価格が500~2020円で、会場への移動は公共交通機関が原則。ただし、観客上限はまだ決まっておらず、上限次第で学校連携チケットの扱いが変わるという。つまり、キャンセルしなくても、無効になる可能性があるわけだ。学校としては、教育委員会が費用負担しているので、無効になっても経済的損失を被るわけではないが、いかにも、妙な話だ。キャンセルしなくても、キャンセルと同じ扱いになる可能性があるのだから。そして、どの競技を見ることができるのかも、現在では決まっていないそうだ。
この観戦が、教職員に過大な負担を強いることが、ますます明確になってきた。観戦のために、PCR検査をして陰性証明が必要となることになりそうだ。検査をいつ、どのように、誰がやるのか、費用は誰が負担するのか。おそらく、一校が二度観戦できるはずがないから、128万枚は128万人が対象ということなる。オリンピック期間中は、通常の日程では、学校は夏休みである。しかも、真夏の酷暑のなか、検査をして、当日は引率しなければならない。組織委員会としては、観戦させてあげるという意識かも知れないが、教師からすれば、強制的に押しつけられたとんでもない業務ということになる。
検査をした結果、陽性者がでたらどうなるのか。通常、陽性者が複数でたら、学級閉鎖、あるいは学校閉鎖となる。そういう措置をとるのか、あるいは、陽性者本人と濃厚接触者のみが、観戦のために行けなくなるだけなのか。それは、学校に任されるということだが、学校としては、困るに違いない。
教育学者として疑問なのは、希望による観戦であり、かつ夏休みであるのに、それが「学校行事」なのかという点だ。しかも、それは希望可能な地域の学校に限定されている。もし、学校行事でなければ、学校を通じて希望する子どもが、観戦できることにしても、実際には、保護者の責任でPCR検査を民間で受けさせ、保護者が引率して観戦させることも可能になる。観戦可能な以上、どうしても見たい子どもがいて、保護者もそれを実現させたいと考える人がいるならば、その家庭の責任としてまで観戦をさせない理由はない。もちろん、そういう家庭は、個々の観戦チケットを入手している可能性があるが、学校単位であるために、そちらでよいと思っていた家庭もたくさんあるだろう。
あれだけPCR検査に対して消極的だった政府が、ことオリンピックに関しては、検査にこれほど積極的になるというのが不思議だ。組織委員会は政府ではないというかも知れないが、会長は、オリンピック担当大臣だったのだ。そして、オリンピックを強行しようと決めているのは、組織いいんかいではなく、政府だ。こういうダブルスタンダードちは、うんざりする。
学校観戦とは異なるが、最近さかんにオリンピック開催に警鐘をならしている尾身会長が、ついに自分の見解として公表することにしたという。それに対して、「自主的研究」を述べているとした、田村厚労相の発言にはびっくりだ。菅首相は、「首相になったつもりか」と尾身会長に激怒しているようで、分科会には諮問しないと断言しただけではなく、今後分科会を開かせないともいったらしい。それに対して、ネットは、尾身応援の声でいっぱいだ。
これまで、専門家会議にしても、その後の分科会にしても、基本的には政府の言いなりだった。行政の審議会というのは、行政側でだしている結論を専門家として承認することが求められているわけで、審議会が行政、国政に関しては、内閣や省庁の見解に反対する意見をまとめることなど、まずなかったし、反対するような人は、そもそも委員として選ばれない。しかし、北海道などを蔓延防止特別措置に留めたいという政府の意向を、緊急事態宣言にすべきという内容に変えさせたことは、世間を驚かせた。私もびっくりした。もちろん、あまりに当然のことであって、政府の諮問がおかしかっただけなのだが、それ以来、菅首相は、分科会に不快感をもったようだ。こういうことに対しては、菅首相は、「怨念」を抱く人物だ。そして、容赦しない。それが既に露骨に出ていたのだろう。逆に、尾身氏は、これ以上、専門家としての見解を無視する政府に我慢ができなくなり、反乱を起こすことに決めたに違いない。専門家としての矜持をもっているなら、当然のことだ。
しかし、更に裏を考えれば、専門家としての評価を保つためには、オリンピックへの疑問を述べておくことが必要だと考えたに過ぎないかも知れない。オリンピックを強行すれば、ほとんど間違いなく、オリンピックとパラリンピック開催の途中か、あるいは終了間もない時期に、感染の第5波がおきることは間違いないからだ。専門家としての分析に基づけば、その時点での世間の評価がどうなるかもわかるに違いない。菅首相は、本当に分科会は放置する可能性があるので、そういう意味で、いうことは言っておくということだろう。