ゼレンスキー大統領演説に、注目したいこと

 本日、ウクライナ大統領ゼレンスキーの、日本向け演説が行われる予定になっている。演説を聞いての感想は明日にして、その前に思うところを簡単に記しておきたい。
 何より注意して聴く必要があるのは、ウクライナの状況を知ることだ。直接日本人に語ることは、これまでなかったわけで、ウクライナの状況は、すべて報道によって知ってきた。しかし、報道には、必ずバイアスがかかっている。
 一番気になるところは、ウクライナは本当に大丈夫なのか、という点だ。キエフに対する前進が止まっていることは、ウクライナ軍が進攻を抑えているからだ、という報道がある。しかし、マリウポリは容赦なく攻撃されている。だが、やがてウクライナ軍が優勢になって、ロシア軍も損害が激しく、士気も低いので、やがて押し返されていくだろうという見通しも語られている。アメリカ筋から、さかんにそうした情報がもたらされている。

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『教育』を読む(2022・4) 都立高校の男女別定員を考える

    杉浦孝雄氏が「『都立高校男女別定員』問われていることは」という文章を書いている。私も昨年6月に、この問題について書いた。「都立高校入試のジェンダー平等を求める弁護士の会」が声明をだして、毎日新聞が記事にしたことかきっかけだった。
 そこで書いたことと、多少重なる部分もあるが、できるだけ視点を変えて、再度論じたい。6月の時点では、弁護士の会が、東京都教育委員会への要請を行ったのだが、その後9月に、東京都は、最終的には要求を受け入れ、3段階で男女合同定員に完全に移行することを決めたと、杉浦氏は書いている。
 杉浦氏の基本的立場は、男女別定員の設定は、歴史的な経緯もあり、また、むしろ女子の入学を守るアファーマティブ・アクションという側面もあり、また、男女が比較的同数に近く在籍していることの教育的利点もあるのだから、多角的に検討して、拙速に一律の方法を押しつけるべきではないというものだろう。

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読書ノート『プーチン 内政的考察』木村汎3 ロシア民衆はなぜプーチンを支持するのか

 ロシアのウクライナ侵攻が始まってから、ずっと、ロシア民衆の動向に注目が集まっている。結局、ロシアの民衆が立ち上がって反プーチンで力を発揮するか、あるいはプーチン側近のなかでの宮廷クーデターしか、この侵攻を止めることはできないのではないか、という期待のような予想があるからだろう。しかし、現時点では、オリガルヒの一部が戦争反対を控え目に述べたり、あるいは国外に逃げている人が出たりする程度で、宮廷クーデターという規模とはほど遠いようだ。 国民のプーチン支持は高く、また、ウクライナへの侵攻も支持率が高いといわれている。民衆の場合には、プーチン政権による徹底的なメディア支配のために、正確な情報に接することができず、プーチンによるプロパガンダしか見ることができないからだと説明されることが多いが、オリガルヒの場合には、おそらくロシアがウクライナで何をしているかは、ほぼ正確にわかっているだろう。にもかかわらず、多くはプーチンを支持しているように見える。不思議な現象のように見える。

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地下鉄サリン事件から27年

 今日は、27年前に地下鉄サリン事件が起きた日だ。1995年は、1月に阪神淡路大震災があり、3月にサリン事件、そしてその後の長いオウム捜査が始まった。windows95が、ネット接続を組み込んだために、それまでは研究機関等の限られた人でなければ、使いにくかったインターネットが、簡単に一般人も使えるようになった年でもある。
 松本サリン事件や坂本弁護士家族の失踪事件で捜査対象となっていたオウムの本部に、強制捜査の予定だったのが、オウムに漏れ、その前に地下鉄サリン事件が起こされたといわれているが、捜査は22日に行われ、ずっとテレビ中継された。サティアンなどと呼ばれた建造物が大勢の機動隊によって調べられ、当時小学生だった3女のアーチャリーが、機動隊に食ってかかっているような写真が新聞にのり、話題になったものだ。
 地下鉄サリン事件の捜査はなかなか進まなかったが、あるとき、心臓外科医としても有名な林郁夫が、別件で逮捕されていて、突然サリン事件の自白をしたようだ。それでサリン事件のほぼ全容がわかり、次々と実行犯が逮捕された。

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BBC受信料問題とNHK

 今年の1月に、イギリスのジョンソン首相が、BBCの受信料の制度改革を提起したことが、各国で議論になっているようだ。日本でもNHKの受信料をめぐっては、大きな問題となっている。各国の公共放送の受信料のあり方については、BBCが原型となっているということで、BBCが制度変更すれば、大きな影響を各国に与えるに違いない。ただし、ジョンソン首相にしても、また、日本の受信料否定論の場合も、ある意味リベラルな放送姿勢に対する保守的な立場からの拒否的姿勢が影響していることに注意する必要がある。BBCにしても、NHKにしても、それほどリベラルであるかについては、疑問があるが、政権の広報機関になりきっていないことは確かだ。根本的には、受信料を払って支える「公共放送」が必要であるかどうかが問題だろうが、その前にまずは各国の状況を踏まえておく必要がある。
 総務省の「公共放送の在り方に関する検討分科会事務局」が作成して「諸外国の公共放送の受信料制度の状況」という文書がある。

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ウクライナ戦争諸々 ロシアは弱いのか他

 連日、ウクライナ情勢ばかりニュース(CNNとBBC)を見ている。youtubeに出されている「解説」なども気になる。いくつか考えるところを記しておきたい。
 まず、豊島晋作氏の、「ロシア軍は弱いのか」という解説番組があった。https://www.youtube.com/watch?v=SZe64eOnPT4&t=928s
 ウクライナに侵攻したら、プーチンならずとも、かなり早期にキエフが陥落するのではないかと思われていたが、ウクライナの抵抗が激しく、いまだにキエフを包囲しているだけだ。それで、ロシア軍は弱いのかという問いに答えている。ここでは、ロシア軍の意外に旧式の武器を使っていて、対抗するアメリカの高度な情報機器の援助を受けたウクライナ軍に手こずっていることが解説されている。確かにそうなのだろう。いまだに制空権すらとれていない状況なのだから、世界2位の軍事力というのは、軍事費ではなそうだが、近代的な整備という点では遅れていることが暴露されてしまったというわけだ。しかし、「近代的ではないので、ピンポイント爆撃ができず、民間施設を破壊してしまっている」という見解には疑問だ。民間施設を爆撃しているのは、意図的であって、ピンポイント爆撃ができないからではないと考えざるをえない。相手の街を徹底的に破壊し、民間人を殺害することをいささかも躊躇しないのが、プーチンである。そのことは、チェチェン紛争の処理で証明されている。だから、ピンポイントが可能でも、住宅を爆撃させているだろう。「子ども」と大きく書かれた建物を爆撃したのも、けっして間違ったからではないだろう。

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読書ノート『プーチン 内政的考察』木村汎2反プーチンはなぜ成功しないのか

 プーチン的支配の記述のあとには、プーチンに反対するひとたちのことが書かれている。プーチンは、徹底的に反対派を弾圧し、なかには殺害された者もいるし、外国に暮らしているにもかかわらず、毒をもられた者もいる。そういうなかで、現在の反プーチン運動の代表者であるナヴァーリヌイにかなりのページが割かれている。
 現在収監されている身なので、表立ってウクライナ侵略への反対運動を起こすことができない訳だが、誰もが反プーチンの急先鋒であると認められているが、著者が不思議に思っているのは、これだけ目立った反プーチン活動をしているにもかかわらず、殺害の対象になっておらず、逮捕収監しても、命の危機には晒されていないということだ。これに対しての見方が、まったく正反対に分かれている。

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SNSによる情報過多が、デマを拡大しているのか?

 読売新聞に「情報過剰は新たな脅威… [虚実のはざま]第6部私の提言1」(2022.3.16)という記事が出ている。著者は、西田亮介(東京工業大学准教授)だ。https://www.yomiuri.co.jp/national/20220316-OYT1T50091/
 典型的な見解、つまり、あまりに過剰な情報が溢れるようになり、個人の注意力や認識力は限られている。国家で規制せよという意見は間違いで、メタやグーグルなどのプラットフォームでチェックすべきだ、というものだ。これは事実として進行していることで、特段目新しいことはないが、大手旧メディアについて、いつも気になることがあり、この文章もその例にもれない。以下の文章だ。
 
 「発信の中心がマスメディアに限られていた頃とは違い、誰でも発信者になれる今、人々は膨大な情報に囲まれている。特定の分野で影響力を持つ「インフルエンサー」が無数に現れ、選択肢が多様化したのは良いことだが、根拠のない話やデマもあふれるようになった。真実かのように巧妙に装い、人を操ろうとする発信者もいる。」

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ウクライナから逃れて、罪の意識に苦しむ男性たち

 courrier.jpに「ウクライナから脱出して徴兵を逃れた男たちを苦しめる『罪の意識』と『恥じらい』」という記事が出ている。
https://courrier.jp/news/archives/281801/
 非常に切実でかつ微妙な問題だ。ゼレンスキー政府が、闘うことが可能な男性の出国を禁じているために、男性の多くは、ウクライナに残って兵士にならざるをえない状況になっている。もちろん、戦死する可能性は低くない。日本の現在のように、徴兵制もなく、戦争を避けることができている国にいる者には、その切実感は理解できないが、しかし、90歳を超える日本人の男性は、かつてそうした境遇にいた。また、父親が戦士した者もたくさん残っている。日本も赤紙一枚で戦地に送られた。もちろん、そうした義務から外れた職業にいたひと達もいたし、理工系の研究者や高度な技術者たちは、招集されることは稀だった。
 また、ごくわずかながら、徴兵逃れで逃亡した人もいる。実は、私の遠い親戚で、赤紙がきたときに逃亡し、敗戦まで隠れていた人がいたそうだ。戦後数十年経過したときに、その事実を知らされたのだが、そうして逃亡したことに対して、周りが非難するようなことはなかったという。おそらく、本当はそうしたいと思ってもできなかったひと達が大半で、実行した人は勇気があると思っていたのだろうと推測する。

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読書ノート『プーチン 内政的考察』木村汎

 まとまったプーチン情報を得たいと思い、県立図書館にあったこの著書を借りてきた。A5版600ページもある大著で、まだ全部は読んでいないが、前半を読んで考えたことを書いておきたい。
 プーチン4部作の2作目ということで、他の著作も読んでみる必要があると思うが、内政を扱ったこの著作を読むと、筆者がウクライナ侵攻をこの時点(2016年出版)で予想していたのではないかと思われるほどであり、かつ、現在の進行状況が、ここで書かれているプーチン像にぴったり重なってくる。

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