教職員の処分 横浜の事例から1

 横浜市で、小学校教師が、特定の子どもに、配布物を渡さない、給食を減らす、試験を受けさせないなどを行ったので、懲戒免職にしたという記事があり、横浜市教育委員会のホームページをみてみた。他にもいろいろな処分事由があったので、ふたつを選んで、教職員の懲戒処分について考えてみたい。
 
 まずは、ある校長に対する「戒告」処分である。
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被 処 分 者 校長(60代・男性)
概 要
当該校長は、自身の印を副校長に預けて管理させ、事務職員が発注伺に押印すること
を黙認していたほか、発注伺を確認していなかった。そのため、事務職員が口頭発注等
を行ったことに気づくことができなかった。
また、当該校長は事務職員に自身のID及びパスワードを教え、決裁事務の一部につ
いて代行させていた。

さらに、当該校長は、自己啓発研修として教員が自宅等で研修するため通常よりも早く
帰宅する際に、本来はシステム上で申請し校長が承認すべきところ、通常勤務したように退
勤時刻を修正するよう事務職員に指示をした。
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 昨年の8月に内部通告があり、調査をした結果、上記のことがわかり、懲戒処分になったということだ。それぞれの事務負担がどれだけのものかわからないし、通常の校長がどのように処理しているかもわからないので、断定的なことはいえない。しかし、これらの業務のあり方そのものに、なんとなく違和感を感じたのである。
 私は、大学勤務だったことと、管理職についてことがほとんどないので、あくまでも「事務職員」あるいはと第三者の立場から見ることになるが、上の文章を読んで感じることは、業務分担と責任関係が不明確になっていることだ。
 私の事例で説明すると、例えば、大学の教員には、毎年決まった額の研究・教育費が支給される。その際、使用目的と額を書いた申請書を提出するのだが、学部長の印が必要だった。決算報告も同様だ。
 もちろん、形式的に学部長の印は押されて出されるのだが、大学というところは、毎日教員が出勤するわけではない。学部長の出勤日と自分の出勤日がほとんど重なっていない場合、月一回の教授会などでしか会わないことになる。しかし、提出日との関係で、教授会では間に合わない場合がある。こういう時のために、学部長印は、事務に預けてあり、事務がコピーをとった上で、印を押すことが普通に行われていた。当然、形式的には、コピーを学部長があとでチェックすることになっているわけだ。しかし、実際に書類を学部長にもっていって、印をもらう場合でも、学部長がじっくり読むことなどはない。もちろん、その場合には、コピーもとらない。
 ところで、私は、いつもこのシステムについては大きな疑問をもっていた。管理職になれば、こんな制度は廃止することを提案したところだが、そういう機会はなかった。
 何が不合理といって、学部長が、専門職である個々の教員の研究・教育計画について判断できるはずがないし、また、その意志もない。ここはおかしいなどといわれたら、いわれた教員として受け入れることもないに違いない。あくまでも「印を押す」という「形式」に過ぎない。もし、そこに不正があったとしても、学部長が処分されることはないと、私は考えていた。決算報告も同様だから、結局、基本的に、すべての責任は個々の申請する教員にある。だから、学部長印などは不要だというのが、多くの教員の意見だった。
 さて、上記の校長の場合、事務発注のために、校長印が必要なので、副校長に預けてあり、事務職員に発注業務は任せていたというわけだ。発注といっても、例えば「紙」などのように、日常的に使用する物と、新規、あるいは数年に一度発注するような物とは、おそらく業務の流れが違うはずである。日常的な物品であれば、実際に処理する事務担当者に権限をもたせればよい。校長の印など廃止し、最終的な年度末決算書を校長が確認すればいいことなのではなかろうか。しかし、日常的ではない発注については、校長に責任を明確にしておけば、事務処理として、副校長にさせることは、私は法令上問題があるとは思えない。副校長は、校長の命を受けて、職務を代行するのだから。それを校長がチェックするかどうかは、重要ではない。もし、不正が明らかになったときに、責任を負うのは校長であることが明確になっていればよいのではなかろうか。
 この処分で、確認をしていなかったとしても、不正がなければ、私は副校長に代行させていたのだから、特に処分事由にあたるとは思えない。また、事務が口頭発注するといっても、日常的に必要なものを予算の範囲で行っているのであれば、納品書や領収書が整備されていれば、問題だとも思えない。文書での発注書がなければいけないとなると、迅速に処理しなければならないときにこまってしまうこともあるだろう。
 後半ふたつは、私としては賛同できる面がない。IDとパスワードを他人に教えるのは、たとえ同じ職場の人間であったとしても、やってはならないことだ。実際に事務を行う職員に、アクセスの許可を与え、進行状況を校長がチェックできるようにする方法がとられるべきだ。
 また、実際に自宅研修のために早退しているのに、職場で勤務しているようにデータを改竄するというのは、容認する余地はない。
 前ふたつの件は、権限を明確にすることによって、分散させ、事務効率を向上させることが必要で、現状のやり方を改善しないまま、不合理なやり方を強制することは、おかしなことだといえる。
 後ふたつについては、ネット社会について、より適切に運用できるように、管理職を研修することが必要なのではないだろうか。内部通報があったということは、おそらく教職員と校長の関係がぎくしゃくしているのではないかと思われ、そちらのほうが問題ではないかと思う。
 
 子どもへの差別的な扱いをした例については、長くなったので、次回にしたい。
 
 

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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