ブルーノ・ワルターは、私が最も好きな指揮者である。私が子どものころは、戦前のSPレコードを聴いていた。もちろん、既にLPは出ていたと思うが、父の病気もあって貧しかったせいか、新しいものは買うことができなかった。小学校も後半になって、はじめてLP用の再生装置を購入して、それから、いろいろとレコードを揃えていったが、それまでは、SPだったので、いまでも古いレコードの音質は気にならない。
そうしたSPのなかでも、ワルターのものが多かった。モーツァルトのジュピター、アイネクライネ、ベートーヴェンの田園、シューベルトの未完成など。トスカニーニやフルトヴェングラーのものもあったが、やはり、ワルターに惹かれた。
SPのなかで、いまでもよく覚えているのは、メンゲルベルクのチャイコフスキー「悲愴」の極めて強烈な個性的演奏だ。もちろん、初めて聴いて、聴き込んだものだから、それが「普通」だと思っていたのだが、その後LPで普通の演奏を聴くようになって、その異様さに改めて気付いたものだ。