ロシアは中国の朝貢国になるのか?

 昨日ロシア外相のラブロフが中国を訪れ、中国王毅外相と会談して、援助を求めたという。テレ朝ニュースによると、ラブロフは「ロシアは国際関係の歴史のなかで、重要な局面に直面している。我々は、中国やその他の仲間とともに、多極的で公平で民主的な世界秩序に向かって歩みだすだろう」と述べたそうだ。そして、欧米の経済制裁に、中国の協力を得て、対抗していく考えを示した。
 それに対して、王毅外相は、協力の意志や信念が更に強くなっていると述べ、更に両外相は、ロシアへの経済制裁は、「違法で逆効果だ」と非難したそうである。そして、この後、ラブロフ外相は、インドに向かうと報道されている。
 欧米側にいる者にとっては、笑いを提供してくれる談話だ。ロシアの「仲間」は、どれだけいるのだろうか。国連総会の決議の数をみれば、完全に孤立しており、中国ですら、ロシアへの支持をためらっている。ロシアが、「多極的で公平で民主的」な世界秩序をめざしているのだそうだが、「孤立して、不公平で独裁的」な世界秩序しか、プーチンサイドからは見えてこない。ロシアへの経済制裁か「違法で逆効果」なら、ロシアのウクライナ侵略は「合法」なのかということになろう。

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バイデンの失言?

 バイデンアメリカ大統領が、ポーランドで「プーチンは権力の座に居続けてはならない」と発言して、アメリカ政府関係者が、火消しに奔走していることが、あちこちのメディアで報道されている。しかし、他方、バイデンは、アメリカに帰国後、自分の感情を表明したもので、発言を取り消すことはしないと表明した。バイデンは失言癖があり、これもその一つだという評価が多いようだが、私は、失言だとは思わない。少なくとも、確信的に述べたものだろうと思っている。むしろ、火消しに走ることのほうが、少々奇妙な印象だ。
 アメリカは、かつて少なくない国家元首を葬り、政権の転覆を謀ってきた。その典型がチリでアジェンデ政権を倒したことだが、近年では、イラク戦争におけるフセイン打倒だ。実は、ベトナム戦争やチリへの批判が、事件後にも次第に高くなって、敵であっても、相手の元首を殺害したり、政権転覆をして退かせたりすることはしない、という原則を、一応アメリカはたてている。それを守っているとも思えないのは、イラク戦争やアフガン戦争を起こしているからで、アラブの春も、アメリカが背後にいることは明らかだから、時と場合によっては、政権転覆を謀ろうとするのだが、今回では、そういうことは口にしてはいけないという姿勢を、アメリカ政府としてとっているのかも知れない。

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戦後のロシア人が真実を知ったとき

 普段は見ないが「サンデージャポン」が、ロシアの状況を扱うというので、少しみていた。子どもの頃から日本で育ったロシア人が解説していたが、現在のロシアの状況が映像で示されていた。プーチンを讃える歌を広場で歌う高齢者たち、それにくってかかる若い女性(直ぐに逮捕されて連行されていった)、教室でZマークの入った紙を配られて喜んでいる子どもたち、隊列でZマークを形成する子どもたち、つまり、プーチンを熱烈に支持しているひとたちの映像だ。そして、テレビでは徹底的に、ロシアの戦争の正当性が解説され、そして、ウクライナからロシアに連れてこられたひとたちが、ウクライナで酷い目にあっていたが、ロシア人が助けてくれたと語るのを、放映しているということだった。
 要するに、我々が日常見ているニュース映像とは、全く逆の「事実」を知らされている。完全に洗脳されているといってよいだろう。希望的観測ともなるが、やがてプーチンは敗北、没落するだろう。そのときに、全く逆の真実が、ロシア人たちに示される日が来る。そのとき、ロシア人たちが、どのような反応を示すのか、非常に興味深い。

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「ウクライナ侵攻はありえない」論はどこが外れていたか

 ウクライナ戦線は膠着状態になっている感じがあるが、つい先日、ウクライナ侵攻はありえないと断定していた文章を見つけた。もちろん、そういう予想はいくらでもあったが、書名入りで、詳細な文章として見通しを書いているのは、あまりなかったような気がする。
 「ロシアのウクライナ侵攻はあり得ない、これだけの理由 ウクライナの悲劇と茶番劇」杉浦敏広 2022.1.26 JBpressである。
 この文章を検討してみたいと思ったのは、別に間違ったことを揶揄するためではなく、どこに予想が外れて、間違ったことを書いてしまったのか、その判断のどこが事実と異なって、予想と異なる事態が進展してしまったのかを探るためである。混沌とした事態の先を、正確に予想することなどは、ほとんど不可能なのだから、間違うこと自体は、私はそれほど不名誉なことではないし、また、訂正しながら、正しい認識に近づいていくのだと思う。しかし、やはり、冷静に間違いの所以を検討することが必要だろう。こうして文章を書いている私自身にとっても、他山の石とみなすべき文章だ。
 本人からの、現時点でどう考えているかの投稿はないようだ。

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ゼレンスキー演説への批判の検討

 昨日(3月23日)に、ウクライナ・ゼレンスキー大統領の、日本に対する演説が国会議員会館を通じて、オンラインで行われ、リアルタイムで全国に放映された。私ももちろん最初から終わりまで見たが、予想された強いものではなく、むしろ落ち着いた内容の、とても訴える力の強い演説だったと思う。私には、一番の力点は、ロシアに対する経済政策の継続と、戦後のウクライナ復興に対する援助を期待することだったと理解した。十分、ウクライナ情勢を理解している人にとっては納得できることだろう。もっとも、ロシアに対する経済制裁については、日本はそれほど徹底しているようには思えないので、今後、議論になるところではないだろうか。
 それはさておき、この演説の前後に、ネガティブな見解も出されていたので、それに対する意見を書いておきたい。
 
 まず事前の批判として、鳥越俊太郎氏が、戦争の一方の当事者であるウクライナ大統領にだけ、国会演説の場を提供するのは、公正ではないと批判していたことについて。

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ゼレンスキー大統領演説に、注目したいこと

 本日、ウクライナ大統領ゼレンスキーの、日本向け演説が行われる予定になっている。演説を聞いての感想は明日にして、その前に思うところを簡単に記しておきたい。
 何より注意して聴く必要があるのは、ウクライナの状況を知ることだ。直接日本人に語ることは、これまでなかったわけで、ウクライナの状況は、すべて報道によって知ってきた。しかし、報道には、必ずバイアスがかかっている。
 一番気になるところは、ウクライナは本当に大丈夫なのか、という点だ。キエフに対する前進が止まっていることは、ウクライナ軍が進攻を抑えているからだ、という報道がある。しかし、マリウポリは容赦なく攻撃されている。だが、やがてウクライナ軍が優勢になって、ロシア軍も損害が激しく、士気も低いので、やがて押し返されていくだろうという見通しも語られている。アメリカ筋から、さかんにそうした情報がもたらされている。

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地下鉄サリン事件から27年

 今日は、27年前に地下鉄サリン事件が起きた日だ。1995年は、1月に阪神淡路大震災があり、3月にサリン事件、そしてその後の長いオウム捜査が始まった。windows95が、ネット接続を組み込んだために、それまでは研究機関等の限られた人でなければ、使いにくかったインターネットが、簡単に一般人も使えるようになった年でもある。
 松本サリン事件や坂本弁護士家族の失踪事件で捜査対象となっていたオウムの本部に、強制捜査の予定だったのが、オウムに漏れ、その前に地下鉄サリン事件が起こされたといわれているが、捜査は22日に行われ、ずっとテレビ中継された。サティアンなどと呼ばれた建造物が大勢の機動隊によって調べられ、当時小学生だった3女のアーチャリーが、機動隊に食ってかかっているような写真が新聞にのり、話題になったものだ。
 地下鉄サリン事件の捜査はなかなか進まなかったが、あるとき、心臓外科医としても有名な林郁夫が、別件で逮捕されていて、突然サリン事件の自白をしたようだ。それでサリン事件のほぼ全容がわかり、次々と実行犯が逮捕された。

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BBC受信料問題とNHK

 今年の1月に、イギリスのジョンソン首相が、BBCの受信料の制度改革を提起したことが、各国で議論になっているようだ。日本でもNHKの受信料をめぐっては、大きな問題となっている。各国の公共放送の受信料のあり方については、BBCが原型となっているということで、BBCが制度変更すれば、大きな影響を各国に与えるに違いない。ただし、ジョンソン首相にしても、また、日本の受信料否定論の場合も、ある意味リベラルな放送姿勢に対する保守的な立場からの拒否的姿勢が影響していることに注意する必要がある。BBCにしても、NHKにしても、それほどリベラルであるかについては、疑問があるが、政権の広報機関になりきっていないことは確かだ。根本的には、受信料を払って支える「公共放送」が必要であるかどうかが問題だろうが、その前にまずは各国の状況を踏まえておく必要がある。
 総務省の「公共放送の在り方に関する検討分科会事務局」が作成して「諸外国の公共放送の受信料制度の状況」という文書がある。

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SNSによる情報過多が、デマを拡大しているのか?

 読売新聞に「情報過剰は新たな脅威… [虚実のはざま]第6部私の提言1」(2022.3.16)という記事が出ている。著者は、西田亮介(東京工業大学准教授)だ。https://www.yomiuri.co.jp/national/20220316-OYT1T50091/
 典型的な見解、つまり、あまりに過剰な情報が溢れるようになり、個人の注意力や認識力は限られている。国家で規制せよという意見は間違いで、メタやグーグルなどのプラットフォームでチェックすべきだ、というものだ。これは事実として進行していることで、特段目新しいことはないが、大手旧メディアについて、いつも気になることがあり、この文章もその例にもれない。以下の文章だ。
 
 「発信の中心がマスメディアに限られていた頃とは違い、誰でも発信者になれる今、人々は膨大な情報に囲まれている。特定の分野で影響力を持つ「インフルエンサー」が無数に現れ、選択肢が多様化したのは良いことだが、根拠のない話やデマもあふれるようになった。真実かのように巧妙に装い、人を操ろうとする発信者もいる。」

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ウクライナから逃れて、罪の意識に苦しむ男性たち

 courrier.jpに「ウクライナから脱出して徴兵を逃れた男たちを苦しめる『罪の意識』と『恥じらい』」という記事が出ている。
https://courrier.jp/news/archives/281801/
 非常に切実でかつ微妙な問題だ。ゼレンスキー政府が、闘うことが可能な男性の出国を禁じているために、男性の多くは、ウクライナに残って兵士にならざるをえない状況になっている。もちろん、戦死する可能性は低くない。日本の現在のように、徴兵制もなく、戦争を避けることができている国にいる者には、その切実感は理解できないが、しかし、90歳を超える日本人の男性は、かつてそうした境遇にいた。また、父親が戦士した者もたくさん残っている。日本も赤紙一枚で戦地に送られた。もちろん、そうした義務から外れた職業にいたひと達もいたし、理工系の研究者や高度な技術者たちは、招集されることは稀だった。
 また、ごくわずかながら、徴兵逃れで逃亡した人もいる。実は、私の遠い親戚で、赤紙がきたときに逃亡し、敗戦まで隠れていた人がいたそうだ。戦後数十年経過したときに、その事実を知らされたのだが、そうして逃亡したことに対して、周りが非難するようなことはなかったという。おそらく、本当はそうしたいと思ってもできなかったひと達が大半で、実行した人は勇気があると思っていたのだろうと推測する。

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