ウクライナ侵攻への対応に関する疑問

 ロシアの常軌を逸した侵攻については、心底怒りを感じるた。プーチンは、ウクライナの非ナチ化のために侵攻したと言っているそうだが、プーチンがヒトラー化しているというのが、事実に近い。ウクライナに対する無差別攻撃(民間人や民間住宅への攻撃)、ロシア国内における完全な言論統制、政権に対する批判を刑事罰にする法の制定。これらは、ナチズムに該当する。これらについては、今更述べる必要もないだろう。
 それに対する欧米側の対応にも、疑問を感じる点が少なくない。直接関係しないところにいる素人の見解に過ぎないのだが。反省的な意味をこめて、やはり、こちらについて考えたい。

 第一に解せないのは、バイデン大統領の事前の対応である。これは前にも書いたが、私には、プーチンに対して、ウクライナに侵攻できるならやってみろ、と徴発しているように見えた。世界に向かって、プーチンがウクライナ侵攻を、実際に準備しているという情報を発信したのはよいが、同時に、第三次世界大戦にならないように、NATOが応戦することはないと明言してしまった。もちろん、NATOの応戦は、核戦争になる危険性があるから、ウクライナに同調して参戦する必要はないと思う。しかし、それを明言する必要はあるのだろうか。自分たちは、応戦しないといってしまい、さかんに、プーチンは侵攻しようとしている、と言い立てれば、プーチンとしては、やらざるをえないという気持ちになるだろう。ブラフとしても、侵攻したら、NATOの応戦を覚悟せよ、くらいはいえるわけだ。そして、一貫して、参戦はしないことを、明確にしている。プーチンとしては、安心してというほどではないにせよ、NATO参戦の不安はもたずに済んでいるようだ。いくら情報戦といっても、まったくまずいやり方ではないのだろうか。
 そして、これに関連して、第二の点だが、侵攻から2週間が経過しているが、ポーランドが旧ソ連製ミグ戦闘機を、ウクライナに提供するという話の変遷を見ていると、どうも、1938年のミュンヘン会談を思い出してしまうのである。ヒトラーがチェコを合併したとき、更なる拡大を抑制すると称して、イギリスなどが、ミュンヘンでドイツと会談した。結局、ヒトラーとの直接衝突を恐れて、チェコの合併を認めてしまった。「融和政策」というものだ。それでヒトラーが大人しくすると思ったわけだが、逆にヒトラーは、結局英仏は弱腰で、ドイツがどんどん戦線拡大しても、黙っているだろうという「自信」をつけさせてしまった。もちろん、現在のウクライナと当時のチェコとでは状況が異なる。ウクライナは果敢に抵抗しているし、ロシアへの経済制裁やウクライナへの武器等の援助を、国際社会は積極的に行っている。そのような援助は、当時チェコに対してなされなかった。しかし、それでも、当時の「融和政策」と現在の経済制裁、外交努力路線とは、重なって見える部分がある。
 
 次に、経済制裁の一環として、ロシアにおける欧米企業の営業停止である。個々の事例でもちろん状況は異なるだろうが、例えば、マクドナルドは当分の間営業を停止するとしているが、他方、従業員の生活は保障しなければならないので、給与は支払うと報道されている。これでは、経済制裁どころか、経済援助ではないだろうか。労働しなくても給与を払うのなら、誰に損害が生じるのか。もちろん、マクドナルドで食べることはできなくなるが、だからといって、住民が食べることに困るわけではないだろう。
 また、トヨタなどの営業停止は部品の供給ができないという理由になっているが、当然経済制裁の一環という意味合いもあるだろう。こうした営業施設、工場施設が稼働、営業停止になって、それが長期に及んだとき、ロシア政府が接収するという危険性はないのだろうか。もっとも、この点については、政治的課題なので、営業停止した企業の所属国家の政府が、そうならないように、外交的に解決するしかないのだが。
 もうひとつの側面として、ロシアで営業している企業に対する、「停止せよ」という圧力を、市民がかけていることについての疑問である。もし、営業停止が、実際に経済効果として、打撃を与えるならば、対抗措置としてやるべきだというのは理解できる。しかし、マクドナルドが営業しても、実際にロシア市民がこまることは、ほとんどないと考えられるので、経済制裁という効果は考えられない。あるのは象徴的な抗議だけだろう。しかし、確実に停止した企業は損害を被ることになる。営業を続けるとしたユニクロに対しては、世界的なレベルで抗議運動が起きている。本当に、ユニクロが営業を停止すると、ロシアに打撃を与えるならいざ知らず、そう思えないことに対して、ユニクロ非難を浴びせ、不買運動などしたとしたら、何を目的にやるのだろうか。私には集団ヒステリーのように思えてならなかった。
 海外に経済進出することは、通常は相互の平和に役にたつ。少なくとも相互に進出企業が多数あれば、戦争になると、それぞれ資産が危うくなる企業がでるわけだから、戦争を回避する動機になるわけだ。しかし、経済力に差があり、進出の度合いが偏っている場合、特に、進出をされている国の民主主義の成熟度が低い場合、このような危険がある。ミャンマーのようなクーデターで軍事政権となった場合も、同様なリスクがある。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です