人口増はいいことか

 先進国はほぼ人口減少に悩んでいる。少子高齢化が進んでいるからだ。そういう中で、私が住んでいる自治体は、全国でもめずらしく人口増加が何年も続いている。そして、その開発スピードはまったく衰えていない。とくに20年前に鉄道が開通してからは、とくに開発が著しい。
 以前市長と話し合う機会があって、その際、市長は企業誘致をさかんに吹聴していた。そして、「東京より5度低い緑の町」というのが、企業誘致のキャッチフレーズなのだといっていた。たしかにその時期には、東京よりかなり平均気温が低かったし、私の職場がある地域からすれば、天国と地獄のような差があった。夏の暑い日、職場をでると、矢のように突き刺さる日光に苦しみながら、帰宅すると、我が地域はずっと涼しく、ほっとしたものだ。それは、あちこちにたくさんの森林があったからだ。もっとも私が移り住んだときも、以前よりは大分森林が削られていたのだ、と言われていたので、あまり偉そうなことはいえないのだが、それでも、この20年間の環境破壊はすさまじい。「東京より5度低い町」などというのは、まったく虚像になってしまった。
 まず、それほど多くなかったが、あちこちにあった水田は、ほとんど全滅に近くなっており、わずかに残っている水田も、数年以内に消滅するに違いない。隣の市にいくと、まだたくさん水田が残っているので、風景そのものがだいぶ違っている。となりの市には、東京にでる鉄道がないことも影響していると考えられている。
 そして、更に大きく変わったのが、あちこちにあった森林がどんどん減っていることである。地名に「森」の字がある地域があるが、そこには現在、森などほとんど存在していない。
 そして、現在では、森林や草原を開拓しているだけではなく、その周囲にぽつぽつと建っていた家がそっくりなくなって、別の区域に整然と建てられた住居群に移住していることがわかった。そしてマンションが多数建つに違いない。
 以前は温暖化の影響は少なめだったのが、今後は耐えがたい暑さの夏を迎えなければならないようになるだろう。
 ところで、この人口増加を市行政は大変自慢して、どんどん新しい人口が流入するような施策をとっている。そして、どんどん開発が進んでいる現状だ。しかし、それは本当にいいことなのか。もともとある住居群に移住してくるのではなく、空き家が放置されたまま、森や草原、そして畑・水田がなくなって、そこにマンションが乱立するのである。それは、環境を和らげる森林群がなくなると同時に、人口が増え、車が増えることによって、確実に環境汚染要因が増えていく。
 そもそも日本は人口減少社会なのだから、それにどのように対応するかという施策が重要なのに、その反対の政策をとっている。今は活気がでてくるかのようにみえても、確実に遠くない将来、弊害が出てくるに違いない。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です