アメリカ、トランプ大統領から、ウクライナ戦争の和平案が出ているようだ。まだ、正式に発表されていないのだが、ゼレンスキーはかなり悲愴な演説を国民に対してした。私が愛聴しているウクライナ人のやっているyoutubeでは、ボグダン氏が本当に悲しそうな表情で説明をしていた。
内容の詳細をここで書くことはしないが、一言でいえば、完全にロシアの立場を代弁した案といわざるをえない。ドンバスやクリミヤをロシア領土とし、ウクライナの軍隊を半分にし、NATOに加盟しない、ロシア語を公用語に加える、ロシア聖教を復活させる、等々、書けばかくほど不愉快な内容である。
ロシア人以外の、あるいはロシア人だって、まともな判断力をもっていれば、これがあまりに一方的で公正さを欠く内容だということはわかるが、なぜ、トランプはこのような案を、ウクライナに押しつけようとしているのだろうか。もちろん、正確なところはわからないが、やはりいろいろと考えてみる必要はあるだろう。
まず単純に考えれば、トランプにとっては、どちらが勝つ、少なくとも、侵略されたウクライナにとって有利だとか、そんなことはどうでもよく、とにかく、トランプが和平をもたらしたという実績をつくれば、その内容はどうでもよい、と考えているということだろうか。そして、俺の成果で和平が実現したのだから、当然ノーベル賞を授与されるはずだ、と。まさかとは思うが、こんなこともあるかも知れない。
しかし、もう少ししっかり考えると、トランプはやはり、ロシアのエイジェントか、決定的な弱みを握られている、そのためには、プーチンに有利な形での停戦以外は提示できないのだ、ということかも知れない。これは、さまざまに言われていることだが、トランプは経済人として、まったく無能だといわざるをえない人物であって、いくつかの成功は、経営者としての合理的な手腕の結果ではなく、強引にありえないような要求を突きつけて得たものだという点にある。そして、経済人としてはむしろ失敗のほうがはるかに多いようだ。そして、その失敗の穴埋めをロシアのオリガルヒにしてもらったということは、間違いないようである。だから、ロシアに不利なことはできないのだというわけである。
あるいは、これに似たことかも知れないが、プーチンは長年にわたって、アメリカに自分たちの利益を代表できる有力政治家を育てていて、その最高の成功例がトランプであり、トランプはプーチンの長期的な計画の下で大統領にまで上りつめた、だから、ロシアのための政策をするのは、ごく当たり前のことだということも充分に考えられる。トランプ政権の重要ポストには、ロシア派の人物が異様に多いそうだ。
もちろんこうしたロシアとの関係は、指摘されてはいるが、事実どうかはわからない。しかし、こういうことでもないかぎり、これほどウクライナに徹底的に不利で、ロシアの要求を完全というくらいに飲み込んだ案を提示することはありえないと考えざるをえないのである。
それからトランプ自身の資質という理由もあるかも知れない。トランプが今年大統領になってから、次々と繰り出している政策は、まったく民主主義を無視した、独裁的なやり方をとっている。これは、彼が独裁者をめざしており、また、他国の政治家のなかでも、独裁者がとりわけ好きなのだろう。とにかくプーチンと習近平と金正恩への好意の度合いが強い。先日アジアを訪問したときにも、金正恩と会う算段をしたようだ。断られたが。そのような仮想独裁者グループの一員として、プーチンは友人なのだということが、今回の案提起を原因となっているとしたら、とにかく、アメリカの良識ある共和党の議員に、頑張って、トランプの独裁をおさえてもらうしかない。
また、EU諸国は、ウクライナ援助をより強力に推し進めることを期待するしかない。それにしても、ロシアはポーランドだけではなく、EU領域でかなりの策動をしているのに、それに対して有効な対応をとらないNATOは、既に事実上の崩壊をしているのだろうか。そうでないことを祈りたいが。
トランプはEUの本気度を試そうとしているという説もあるが、EUとしても、ウクライナが全面降伏の案を飲まされるとしたら、それはEUの危機でもある。