「いじめで退学」が認められなかった?

 11月15日の西日本新聞に「 いじめ認定に「二重基準」 福岡の女性、退学届拒まれ苦悩」という、すっきりしない記事が掲載されている。記事でも「首をかしげる」という表現が使われているので、記者にも、不思議な感じがしているのだろう。しかし、後半部分については、問題があるので、書いてみる。
 記事の内容は、次のようなことだ。
 県立高校一年のYさんが、10月の定期試験がよく、友人Aに「試験どうだった?」と聞くと、「察して」と言われ、相手を傷つけたと思い不安になって、教室にいられなくなった。保健室にいるとAさんとBさんが昼食に誘ってくれたが、Bさんは口をきかない。別の日友人と昼食をたべていると、Bさんがお菓子を配ったが、Yさんと何人かには配らなかった。いじめと感じた母親が学校に連絡、学校はBさんから「悪気はなかった」と回答をえたが、保健室と食事のときのことをいじめと認定した。Yさんは不登校になり、SNSでもこじれてしまい、退学届けを提出した。理由は、「いじめ」だった。
 高校側はいじめを理由とする退学は認められないということで、「トラブルのため」と理由を変更して12月に退学が受理された。
 これが事実関係である。
 この経過を見て、なるほど退学せざるをえないほど、大変だったんだろうな、と感じる人は、おそらくあまりいないに違いない。 “「いじめで退学」が認められなかった?” の続きを読む

教育再生実行会議批判 いじめ対策2

 提言を読み進めていくと、次第に気持ちが萎えていく。多くの人は、この提言をみて、いじめ対策への方向性を掴んだ気持ちになるのだろうか。根本的な感覚が違うという印象なのだ。
「3.学校、家庭、地域、全ての関係者が一丸となって、いじめに向き合う責 任のある体制を築く。
いじめを早期に発見し、いじめられている子を社会全体で守っていくためには、学校がいじめ対策の方針を定めて明らかにし、子ども一人一人と向き合うことのできるチームとしての責任のある体制を整えるとともに、学校・家庭・地域・関係機関の緊 密な連携体制を日頃から構築しておかなければなりません。」
 何か提言をしたり、あるいは行政にかかわっているひとたちは、「一丸となって」とか「全体の協力」という言葉が好きだ。しかし、教職員が本当に「一丸となっている」「全体の協力」がきちんととれているような学校では、深刻ないじめなどは起きないのだ。教職員がグループ化していがみあったり、協力関係が壊れているときに、いじめが発生しやすく、また深刻化しやすい。そういう職場に、「一丸となれ」「全体で協力しろ」と外部から「提言」されても、そんな状況が改善されるはずもない。いがみあったり、協力関係が壊れるには、それなりの理由があるのだから、そこを是正しなければ、改善などされないのである。 “教育再生実行会議批判 いじめ対策2” の続きを読む

教育再生会議提言批判 いじめ対策1

 大学入学共通テストにおける民間検定試験の採用が、教育再生実行会議の提言によるものだったが、この会議は現在までに、11もの提言をだしている。ひとつひとつ丁寧な批判的検討が必要だが、私は外国研究者なので、それをやってこなかった。この機会に、すべての提言の検討をしようと思った。今回は第一回提言「いじめ問題等への対応について」に関して検討を行う。(提言はすべて元号表示であるが、西暦に直して記す。)形式としては、コンメンタール的な形式で行う。
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はじめに
いじめに起因して、子どもの心身の発達に重大な支障が生じる事案、さらには、尊い命が絶たれるといった痛ましい事案まで生じており、いじめを早い段階で発見し、その芽を摘み取り、一人でも多くの子どもを救うことが、教育再生に向けて避けて通れない緊急課題となっているからです。
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「はじめに」の部分では、第一次安倍内閣の教育基本法改正の趣旨が徹底していないがゆえに、教育の問題が生じているような書き方であるが、それはさておき、上のように書きつつ、「いじめは絶対許されない」「卑怯な行為である」との意識を日本全体で共有し、子どもを加害者にも、被害者にも、傍観者にもしない教育を実現するための提言であるとしている。
 しかし、この「はじめに」の書き方のなかに、いかに「いじめ問題」を理解していないかが見て取れる。 “教育再生会議提言批判 いじめ対策1” の続きを読む

英語民間試験し中止 一人の政治家が高校生や教師全体より大事なのか

 英語民間試験の導入が、突然延期された。毎日新聞は「白紙に戻された」と報じているが、今後の問題についてはあいまいだ。しっかり善後策を検討して数年後に実施したいという発表だったと思うが、そもそも無理がある制度なのだから、どうなるのかわからない。小室圭-真子内親王婚約延期なども、着地点がまったく不明だから、同じようなことが起きたといえる。
 11月1日の毎日新聞は、「英語民間試験見直し 「萩生田氏守るため」官邸が主導」という見出しをつけている。記事の内容は、見出しの通りだ。閣僚2名の辞任が相次いだので、安倍首相の最も近い側近の一人である萩生田氏が辞任に追い込まれるのは、絶対に避けなければならないという「官邸」の判断で、試験の延期が決定されたというのだ。事実、文科省は抵抗したようだし、民間検定試験機関との連絡は行われていた。それも突然の延期公表で中止になった。
 しかし、よく考えてみよう。一人の政治家の地位を守るために、全国の受験生を犠牲にしていいのか。もちろん、多くの人が、民間試験採用は中止すべきだと主張しており、私もそう書いたから、延期(中止)はよい。しかし、欠陥を是正して実現したいと表明していたのだから、どうやったら欠陥を是正できるかの最低限の検証を経て、やはり、今の段階では無理だとわかったから中止したいというのであれば、まだ納得できる部分がある。 “英語民間試験し中止 一人の政治家が高校生や教師全体より大事なのか” の続きを読む

大学入学共通テスト民間検定採用問題と萩生田文科相の発言

 安倍内閣の改造で、萩生田氏が文科相になると発表になったとき、絶対にそうした地位に就いてはいけない人がなったと思わざるをえなかった。何故か。それは、萩生田氏が、極めて権力志向が強く、男尊女卑の思想をもち、そして、利権的発想をする人物だからである。そもそも、政治家として好ましくないが、特に教育行政に関わってほしくない人だ。核武装を容認し、女系天皇否定論、カジノ推進論の立場である。そして、教育行政に関していえば、議員の落選時代に、千葉科学大学の客員教授を務めている。これは、詳細はわからないが、おそらく安倍晋三氏の口利きに違いない。千葉科学大学は、獣医学部の創設で大問題となった加計学園に属している。周知のように、安倍首相と、加計孝太郎氏は、極めて親しいお友達である。萩生田氏が、加計学園問題の流れのなかで、加計孝太郎氏と会い、裏で重要な働きをしたことは、既に周知の事実になっている。この獣医学部の新設において、加計学園が認可を得ていく過程は、極めて不当に、教育行政を歪めたものであることは、否定のしようがない。つまり、獣医学部を新しく設置することに意味はあるとしても、それが、他の候補を排除して、加計学園に収斂していったのは、明らかに、利権がからんだ癒着構造があったからであり、その推進役の一人が萩生田氏だった。 “大学入学共通テスト民間検定採用問題と萩生田文科相の発言” の続きを読む

神戸市須磨区の教師間いじめ(再論)

 まだまだこの話題が継続している。今日(25日)のテレ朝羽鳥のモーニングショーで、詳しく扱っていて、和田中の校長として有名になった藤原和博氏がコメンテーターで出演していた。23日には、尾木直樹氏が登場していたから、多様な立場のコメンテーターが出ている。朝のテレビなので、詳細は憶えていないが、いくつか気になることがあった。
 この二日で主に話題になったのは、教育委員会と、人事のあり方だった。
 正確な数値を憶えていないのだが、500人強の教育委員会事務局人員がいて、160名程度が現場の教師だった人だということだった。ずいぶん多い印象だ。そして、現場の教師だった人は、数年教育委員会で、現場を指導する仕事をしたあとで、校長として学校現場に戻ることが多い。これは、どこでも同じような仕組みになっている。 “神戸市須磨区の教師間いじめ(再論)” の続きを読む

『教育』2019.11を読む 通信制高校の可能性と課題

 2019年11月号は、「改革ラッシュに揺らぐ高校教育」と「教育の『無償化』ってほんと?」というふたつの特集になっている。今回は、西村貴之氏の「通信制高校の可能性と課題」という論文を素材に考えていきたい。通信制高校がどの程度の認知度があるかはわからないが、2018年度に252校、18万の生徒が存在している。公立が78校、私立が174校で、生徒の7割が私立だという。西村氏も指摘しているが、通信制高校は、全日制高校や定時制高校に通うことが、何らかの理由でできない生徒が在籍していると考えられる。例外的に、はじめから、通信制高校の魅力に惹かれて、あえて全日制ではなく、通信制を選択する生徒がいないとはいえないが、多くは、通常の高校に入学したが、不登校になった生徒であろう。私立に通う9割がそうした生徒と考えられ、年齢も通常の高校生と同じだそうだ。また、高校を中退して、高卒資格をえていない成人が、資格をとるために学ぶ者もいる。そうした生徒は、公立に多いという。 “『教育』2019.11を読む 通信制高校の可能性と課題” の続きを読む

流山のいじめ放置

 昨日から、メディアを賑わせている「流山いじめ放置事件」とでもいう事態について、触れないわけにはいかない。私自身、流山の住民だから。まだ、詳細はわからないが、流山市の小学校で、6年生が酷いいじめを受けた。犯罪ともいえるようなこともあったらしい。学校への対応を保護者は求めたが、適切な措置はとられず、重大事態として届ける義務がある欠席30日以上に該当したにもかかわらず、届出をせず、事実と異なる23日欠席という記録にしていた。卒業して、中学に進学してもいじめは継続し、自殺を考えたほど深刻な状況が継続していた。市のいじめ問題を調査する専門家会議の責任者であった千葉大学の藤川教授が、申し入れをして初めて、重大事態と認めたが、それでも第三者委員会を開かず放置したために、藤川教授が記者会見を開いて明らかにしたという経緯のようだ。 “流山のいじめ放置” の続きを読む

新学習指導要領で「鎖国」がなくなるというが

 いろいろなところで、新学習指導要領になると、当たり前のように教えられてきた「鎖国」が教えられなくなる、「鎖国」という言葉は消えると書かれている。何故、そう書かれたりするのか、私には、ちょっと理解できないでいる。
 念のため、平成29年に改訂され、平成32年(令和2年)から施行される中学校の学習指導要領には、以下のように書かれている。

 イ  江戸幕府の成立と対外関係  江戸幕府の成立と大名統制,身分制と農村の様子,鎖国などの幕府の 対外政策と対外関係などを基に,幕府と藩による支配が確立したことを 理解すること。

 「鎖国」という言葉は入っているし、付帯文書ともいうべき「解説」にも書かれている。これは、文科省のホームページで確認することができる。
 もちろん、「鎖国」ということの理解に、変化があることは確かである。特に影響があったと思われるのは、ロナルド・トビ氏が書いた小学館の歴史講座9の「鎖国という外交」という書物がある。 “新学習指導要領で「鎖国」がなくなるというが” の続きを読む

トロッコ問題再論

御田寺 圭氏の『「人を助けず、立ち去れ」が正解になる日本社会』という文章が掲載されている。(https://www.msn.com/ja-jp/news/national/%ef%bd%a2人を助けず、立ち去れ%ef%bd%a3が正解になる日本社会/ar-AAJ4zMH?ocid=spartandhp#page=2)
 以前岩国市での特別授業で、子どもが不安になったというクレームで、教委が謝罪した件を批判的に扱った文章である。この文章の趣旨は、何か新しいことをやろうとすれば、不安はつきものであり、ごく少数の不安でも、不安を呼び起こすようなことをやるなというのでは、何も新しいことはできない。困っている人がいたら、助けるのではなく、逃げることだということになってしまうという批判である。
 しかし、これは、この問題を曲解している。前にこのブログでも書いたが、この岩国の授業は、新しいことをやろうとしたことで不安を呼び起こしたわけでもなく、そのことで批判されるべきものでもない。違う側面で批判される内容があった。
 御田寺氏のいうように、トロッコ問題は、古くからある有名なもので、倫理や正義の問題を考える材料として扱われている。そのためには、たくさんのバリエーションをあわせて提示する必要がある。サンデル氏が行ったように、同じ人が全く逆の選択をしてしまうという結果から、どうしてそういう違う判断が出てくるのか、その判断の基礎にあるものは何か、ということを考えさせるための素材である。そして、この材料を使って授業をするのは、それほどやさしくない。 “トロッコ問題再論” の続きを読む