余った給食持ちかえり事件

 ネット上でかなり活発に議論がなされているようだ。最初に新聞で報道されたときから、もちろんひっかかるものがあった。
 定時制高校の教諭が、主に欠席の生徒の給食を持ち帰っていたことが、通報による発覚し、持ちかえった分の費用を返済したあとで依願退職したというものだ。依願といっても、実質的には処分だろう。
 他の誰も知らず、教諭が無断で持ち帰ったとしたら、法的には窃盗にあたるというのは、間違いない。ただ、現時点で窃盗罪で逮捕されたりしているわけではないようだ。しかし、ネットでは、処分に否定的な見解が多く、いいこととは言わないまでも、悪いことをしたとはいえないという見解が多い。コンビニで捨てるくらいなら、従業員が持ちかえってもいいではないかという感覚と同じだろう。
 定時制高校というのが、ひとつのキーワードとなるだろう。当然欠席が、通常の学校より多いわけで、給食はそっくり余ることになる。さすがに、おかずなどは出席した生徒たちが食べるのだろうけど、パンとか牛乳は手つかずのまま残る。とすると、そういう残ったものを、どのように処理するかというコンセンサス、あるいは規則がなかったのだろうか。小学校や中学校では、給食を残さないために、様々な工夫がなされている。私自身はあまり感心しないが、給食を残さない競争をしている学校などもある。毎日、給食の残りをチェックして、残しがなかった日数を記録し、ベストの学級を表彰する。もちろん、それには弊害もあるので、そうしたシステムは多数派ではないと思われる。アレルギーで死亡した小学生が出た学校でも、そうした競争をしていたと記憶する。
 私(団塊の世代)が小学生だったときには、コッペパン、脱脂粉乳、くじらのベーコン、肝油の時代で、家庭でたらふく食べられた時代ではないから、別段決まりなどなくても、自然に給食はなくなっていた。そもそも、少なめに配って、たくさん食べる人はお代わり、などということもなかったと思う。最初に全部をよそって、みんな全部食べていた。そういう時代から見ると、今の給食は、本当に様変わりをして、かつそのことが問題を引き起こしてもいる。まず、給食が「おいしい」、更に栄養士が栄養バランスをきちんと考えた献立だというのが、驚きだが、それはとてもいいことだ。だが、子どもたちの間に、たくさん食べる者と小食の者がいる。私の世代は、放課後はみんな身体を動かして遊んでいたし、ダイエットを意識する人などほとんどなかったのに対して、今の子どもは、体力低下が言われているように、身体を動かすことが極端に減っているし、肥満することに大きな恐怖心を抱いている子どもが少なくない。だから、給食の量はとても調節が難しいのだろうと、学校に対して同情してしまう。給食を全部食べないと、昼休みがないとか、嫌いなものも全部無理に食べさせる、あるいは、給食だけは好きな者同士で食べていいので、一人だけの者が出てしまうとか、いろいろなことが指摘されるが、ただ、小学校の給食の場合には、残りを教師が持ちかえるということだけは、想像もできない。
 さて、件の高校教師に戻ろう。
 まず疑問なのが、30万円程度を返却したというのだが、誰が受け取り人なのだろう。もともと、廃棄される物なのだから、30万円の損失は生じていないはずである。欠席した人に、給食費を返すシステムがあれば、そのときに生徒に返金していたはずであるが、そういうシステムがあるとは思えない。食べなかったら返金するというシステムでは、安い給食費の維持は無理になるだろう。その30万を誰がどのような権限で、どこに使うのか、今後明らかにすべきではないだろうか。
 教諭の行ったことは、よいこととは思わないが、それほど非難されることとは思われない。廃棄するものを、廃棄せずに持ちかえっただけなのだから。たしかにもったいないではないか。(ただし、法的には、やはり窃盗であることにかわりはないのだが。)ただ、教師である以上、残った給食をどのようにすべきかという議論を提起して、その結論にそって行動すべきであった。給食担当だったのだから、それはできたはずであるし、またしなければならなかったのではないか。いずれにせよ、廃棄物にしない方向での処置が決められるべきだろう。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

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