離島高校生の大学受験 会場に来させないで済む方法はないのか

 大学入試の本場がやってきた。入試競争そのものも厳しさもあるが、過酷な条件を強いられる高校生もいる。毎日新聞の記事「センター試験のため28泊…東京・小笠原の受験生 精神的負担大きく」(1月15日付け)は、離島の受験生たちの過酷さの例を報告している。ただし、離島に事件会場を設定して配慮している地域もあるそうだ。記事によると、「離島にある五島、壱岐、上五島、対馬の県立高4校」に2009年から会場が設けられたという。センター試験はそうした配慮も可能だが、個別の大学だと、地方会場を設定しても、離島まではカバーできない。
 日本における入試制度のもろもろの条件を、日本人はごく当たり前のものだと思っているが、国際的にみれば、かなり特殊なものが少なくないのだ。これまでいろいろ書いてきたが、今回は、大学側、あるいは試験実施機関が指定した場所にまでいって、試験を受けるということについて考えてみる。
 大学の所在地以外に、試験会場を設定するような大学が表れたのは、いつごろからは、私には充分わかっていないが、とにかく、私の世代からすれば、すべての大学が、受験生を自校キャンパスまでくるように義務付けていた。いくつかの私立大学が、受験生を増やすために、全国的に試験会場を設定するようになって、それがいくぶん拡大していると思うが、それでも、大都市に限定されている。センター試験は、もともと会場が全国に散らばっており、センター試験に参加する大学が、試験会場になるわけだが、その近くの大学を指定されることになっている。(大学以外の場合もあるようだが。)離島には、ほとんど大学はないだろうから、離島の高校生にとっては、センター試験でもかなり不便を被ることになる。
 ところで、こういうことは、当たり前のことなのだろうか。まずヨーロッパでは、通常大学側が実施する入学試験は存在せず、ほとんどが大学に接続する高校の「卒業試験」が、大学入学資格をえるものだから、大学が指定する場所にいく必要はそもそもない。
 アメリカやカナダなどは、共通試験はあるが、やはり、個別の大学での試験は公立の場合ないので、近くの共通試験会場に出向けばよい。私立大学や私立の学校(いわゆるK12という小学校から高校まで含んだ学校が多い。)では、入学試験があるとしても、やはり呼び出されることはまずない。私の娘は、かなり前にカナダの私立高校を受験したことがあるが、試験問題を郵送してきて、学校の教師の監督の下で回答し、送り返すやり方だった。同様の経験をした人にきいても、同じだった。
 現在では、様々なレベルで(つまり高校、大学、学校院進学に必要な試験)インターネットが利用されている。ハーバード大学のように、面接を必須としている場合には、世界中に存在する卒業生で認定された者が、受験生の居住地の近くであって面接をするという。
 アメリカやカナダは広大な土地であることと、国際的にも学生を募っているために、こうした配慮が行き届いている。日本は狭いから、その必要がないと言い切れないことが、今回の毎日新聞の記事で明らかだ。また、特に私立大学の受験生獲得の手段としても、呼びつけない入試は有効なはずだ。
 これほどインターネットが発達した社会で、なぜ入試がインターネットを活用しないのか、私は本当に不思議に思っている。インターネットでの受験を可能にすれば、離島の受験生もわざわざ離島から出て行かなくてもすむ。少なくとも、通っている高校での受験ですむはずだ。
 極端にいえば、自宅での受験だって可能になる。(実際には、そこまでいくには、様々なハードルがあるだろうが。)
 まず、試験問題は、当然画面に提示し、時間内には自由にページ送りができるようにする。通常の会場には、監督がいて、いろいろと指定された注意をしたり、問題を配布したりするわけだが、注意ももちろんネット上から流れるようにする。解答用紙への記入も、もちろん画面から行う。
 最大の壁は、不正をどうやって防ぐかだ。在籍する高校での受験であれば、高校の教師に監督を依頼することができるだろうから、問題ないとして、家庭での受験も可能にすると、様々な工夫は必要だろう。しかし、現在の技術水準なら、充分に可能だと、私は思っている。
 まず、部屋全体が写るマイク付きのカメラをPC接続させ、試験中はすべて監視する。試験の不正は、だいたいパターンがあるので、そうしたパターンを認識できるAIのプログラムを作成して、AIが監視する。不信な動きがあった場合には、PCから警告をださせる。警告が出た場合は、あとで人が映像をみて、対応を考えればよい。トイレをどうするかと、カメラの費用をどうするかという問題は生じる。これは、あまりに具体的な問題だから、ここでは特に論じない。
 こうした方法が可能になれば、大雪で交通機関が麻痺している地域でも、家庭での受験が可能になる。自宅でインターネットが使えない場合には、使える友人の家を探す程度のことは、こうしたことを保証するのだから、自己責任で処理させてよいと私は思う。
 大事なことは、居住条件の違いが、受験において有利・不利となるのを認識すること、そうした条件の差を最大限なくす努力が必要であるということだ。指定会場に受験生を呼びつけるのは、国際標準ではないことを知るべきなのだ。だが、大学人自身が、そう思い込んでいる。あまりにも当たり前にこれまで運用されてきたからだ。
 しかし、センター試験のような全国共通試験では、当然ますます是正が議論されるようになるだろうが、個別の私立大学にとっても、こうした配慮をするかどうかが、受験生に対する評価のひとつの要素になっていくに違いないのだ。

投稿者: wakei

2020年3月まで文教大学人間科学部の教授でした。 以降は自由な教育研究者です。専門は教育学、とくにヨーロッパの学校制度の研究を行っています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です