五十嵐顕氏の研究者としての業績の柱をまとめると
・マルクス主義教育論
・教育財政論
・民主教育論
・戦争体験と戦争反省
今回は第一のマルクス主義教育論の理解と継承を考えてみたい。しかし、直接マルクスの教育論を分析した論文は比較的少ない。著書の『マルクス主義の教育思想』でも、マルクスとエンゲルスの教育思想を分析した文章は「序文」だけで、本文はレーニン、ルナチャルスキー、クララ・ツェトキンの思想とソビエトとドイツ共産党が扱われている。本書の出版が1977年であり、収録の論文はすべて1960年代と70年代のものだから、マルクス・エンゲルス、ツェトキン、レーニン、ルナチャルスキー、クルプスカヤ等が、同一の土壌の思想家として扱われていることは、時代的な背景があったといえる。しかし、今日再度こうした議論を検討する場合には、根本的に異なる「土壌」がある。つまり、ソ連を初めとする社会主義国が、ほぼすべて崩壊しているからである。ソ連崩壊後、社会主義者を名乗っていた人たちの多くが、引き続き社会主義思想を発展させる努力を継続していたようには思えない。そして、上記思想家は、発展プロセスにある一連の思想家として理解されていたが、現在では、スターリンほどではないにせよ、レーニンもかつての社会主義者からも批判の対象になっているし、相互の相違も、以前よりずっと強く意識されている。